☆  あなごや HEART STORY’S  ☆
STORY・1 【 ANAGO−DON of the warmth♪ −温もりのあなご丼− 】 page,3

あなごや STORY・1 ユリカ と 父
   次にユリカ が言葉を交わしたのは、
  5品目の料理が、運ばれてくる頃だった。

  3品目の 『 あなごのサラダ 』。
  4品目の 『 あなごのクリームコロッケ 』 、は。

  もう既に、半分近く平らげられている。
  シャキシャキとしたサラダは父好み。けれどコロッケは、

  なんて心配は無用だった。
  油が苦手なはずの父が、黙々とコロッケを食べている。

  「美味いぞ。食べんのか?」 などと言っていた。

  まさに ” 本当に美味しいものは、箸が進む ”。
  それを、目の前で見せられている気がしていた。そんなユリカ だった。

  5品目の 『 あなごのチリソース 』 がきた時。
  2本目のビールを注文しようかと、ユリカ が口を開く前に。

  「日本酒。熱燗で。」 と父が口を開いた。
  「えっ?大丈夫なの、お父さん?」 ユリカ が父を見詰めた。

  父は・・・体を壊してからというもの、めっきりとお酒が弱くなっていた。
  食も細くなり、ユリカ は。そんな父が心配で堪らなかった。だけど今日、、、

  今日の父は、なんだか違っていた。昔の父が戻ったみたいで。ものすごく嬉しかった。
あなごや HEART STORY’S / STORY・1 【 温もりのあなご丼・9 】
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   「飲みたい気分なんだよ。」
  と。父はまるで、子供のような笑みを浮かべた。

  深い皺はそのままなのに。何故だかそんな気がした。
  途端にユリカ は、言い知れぬ悲しさに襲われた。もしかして父は・・・今日の話を?

  「コロッケ、久しぶりに食べたな。」 父が話しだす。
  「美味しかったね。」 ユリカ は、不安な気持ちを気取られないように。答えた。

  「うむ。・・・子供の頃に食べた味に、似ていたんだ。あなごは入っていなかったが。」

  そう言うと、少し照れた様に、父は俯いて。
  「結婚・・・するんだろう?」 と。ぼそり、と呟いた。

  ― やはり。やはり父は、知っていた。
  きっと、私が悩んでいたことも。今日何故。ここにこうしているのかという理由も。

  「どんな人なんだ?」 ぽつりと父が切りだす。
  「・・・いい人よ。優しい人で。お父さんに、少し似ているかな。」

  ユリカ の答えに、父は微笑んだ。そして続ける。
  「人は年を取る。お前には、お前の人生が有る。後悔だけはするなよ。」

  熱燗と。6品目の料理が、テーブルに並んだ。
  父は、今言った言葉を紛らわす様に、熱燗に手を運んだ。

  「・・・お父さん。私が注ぐわ。」 ユリカ は、父から熱燗を奪った。
  6品目の 『 あなごの白焼 』 が、ふんわりと、美味しそうに湯気を立てている。

  なのに。ユリカ は涙で。それをしっかりと見ることが出来ずにいた。。。
あなごや HEART STORY’S / STORY・1 【 温もりのあなご丼・10 】
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あなごや STORY・1 ユリカ
   「失礼。」 と、父が手洗いへと立った。
  そのスキに、ユリカ は、涙を手の甲で拭う。

  「大丈夫ですか?」 と店長がユリカ に問うた。
  「ええ。」 とユリカ は、少し紅くなった目で答えた。

  「父。知ってたんです・・・」

  ユリカ の告白は。今日する話の事を。
  父が、既に、知っていた。と告げていた。

  「そうですか。。。」 店長は続ける。
  「では、もう 1つ。願い事をしましょう。」 と言う。

  「もう 1つ、ですか?」 ユリカ は、何の事かと問う。
  すると店長は、「あなごに。もう 1度、願いを託すんですよ。」 と言った。

  ・・・あなごに?願いを?
  ユリカ が首を傾げている間に、父が戻ってきた。ストンと隣に座ると、

  「熱燗。もう 1本、もらおうかな。あ、それと酒に合うツマミを 1品頼む。」
  と注文しだした。そんな父に、ユリカ は当然、「大丈夫?」。を繰り返す事となる。

  「大丈夫だよ。私が酒に強いのは知っているだろう。」
  と。笑いながら父が言った。・・・それは昔の話で、と。ユリカ は口に出しそうになる。

  「そんなに老人扱いするな。私は、まだまだ大丈夫だ。」 父は胸を張って言い切った。
あなごや HEART STORY’S / STORY・1 【 温もりのあなご丼・11 】
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   アツアツの熱燗と。
  既に、7品目に達した料理 『 あなごの骨せんべい 』 がやってくる。

  「これは。また、懐かしいツマミだなぁ。」
  父は、しきりと骨せんべいに感心しているようだった。

  早速、1つ摘むと。ボリボリと小気味良い音をさせながら食べている。
  満足そうな父の隣で。ユリカは、空になった父のオチョコに、トックリを傾けている。

  ―どこから見ても幸せそうな父と娘だった。
  ユリカ は。これを壊したくないと思った。・・・決心が揺らいでいた。

  「それで、いつ彼に会わせてもらえるんだ?」
  なのに。。。なのに父は、その話題を振ってくる。至極自然な感じで。

  「・・・来週の。来週の日曜日に。」 と。ユリカ は小声で答えてみる。
  「そうか。わかった。」 父は。それだけ言うと、むっつりと黙り込んでしまった。

  「いいの?・・・お父さん?」
  ユリカ が、今にも消え入りそうな、不安げな声で聞いた。

  ふっ、と微笑む父。ゆっくりとした動作で。首をしっかりと縦に振る。と。
  「もう決めているのだろう?お前は、私に似て頑固だからな。」

  と言った。そうして、父は再び笑顔になる。
  恐らく沢山の事を聞きたいであろうに。父は全てを許してくれると言っている。。。

  どうしよう?どうしたらいい?
  父はきっと、悲しんでいる。たぶん知っている。私が父から離れてゆく事を。

  「北海道に行くかもしれないの。」 ユリカ は、正直に本当の想いを述べた。
あなごや HEART STORY’S / STORY・1 【 温もりのあなご丼・12 】
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