[習作1]  「明彦が望むんなら・・・私はなんでもできるよ・・」  そう言うなり、高井が右足で足元に転がっているセミを爪先に踏み敷いた。 地面に仰向けに押しつけられたセミがジジジ、ジジと羽根をバタつかせて懸命 に暴れる。しかし、夏の終わりのセミには自分の運命をはね返すだけの力は残 されていないようだった。  初めて俺の性癖を告白した今も、高井はそれを拒まずに受け入れようとして くれている。閉店後の誰もいない駐車場で、水銀灯に照らされた高井の上気し た顔は、俺にある種の感動を与えてくれた。  「・・・さやか」  セミを軽く踏みつけたまま、高井が俺の一言に少し驚いたような表情で目を 見開く。次の瞬間、その顔中に穏やかな微笑みが広がった。  「初めて・・・名前で呼んでくれたね・・・嬉しい・・」 高井が俺に向かって笑顔で軽く手招きする。  「もっと近くで見てもいいよ・・」 フローラルミントと呼ばれるミントブルーの4号店の制服は、白いオーバーニ ーソックスと黒いエナメルのストラップシューズで一層引き立てられる。スレ ンダーな高井の足ならなおさらだ。水銀灯の眩しい光の中で彼女の右足が輝い て見えた。  「んっ・・・」  しゃがみこんだ俺の目の前で、高井が息を飲みつつ爪先に体重を移す。ねじ れた羽根が靴底からはみ出してプルプルと震えた。    クシャッ・・・ 軽い音と共にセミは羽音を止めた。高井は躊躇うことなく右足をかぶせていく。 それに伴って、汚れた靴底の下でセミの胴体が高井の体重を受けて醜く変形し ていく。高井と出会ってから俺の長い間描いていた夢が、今まさに果たされよ うとしていた。    ぷちゅっ! アスファルトに白い液体が散った。セミが動きを失ったことを確認したのか、 高井は右足だけに体重全部を乗せて、タバコでも踏み消すように無造作に死骸 を踏みにじる。ミニスカートのフリルが、高井の長い髪が、その動きに合わせ るようにして左右に揺れていた。    ズリッ・・・ズリッ・・ 爪先の尖った清楚なストラップシューズが、高井自身の意思によって残酷な行 為を続けている。平たく潰れてちぎれた胴体の一部がはみ出して、その残酷さ をより際立たせていた。  「こういう感じでいいのかな・・・?」  足元に目を落としていた高井が、心なしか瞳を潤ませながら俺と視線を合わ せてきた。