「MD」トマス・M・ディッシュ

「MD」トマス・M・ディッシュ


 ”逢魔が時”なんて言葉を知らない内から、幼い頃の、夕暮れは不思議な時間 だった。非日常的感覚がふとした瞬間に立ち上がってくるのは、紅く染まった空 のせいか、長く伸びた影のせいか。江戸川乱歩の少年探偵団なんて学校の図書館 で読みふけっていて、気がつくと日が沈みかけていて、妙に怖くなったりしたも のだ。
 そんな時間は本当に「魔法」なんてものが信じられる。そんな不思議な力が働 いていると思わせるような刻。
 この本はそんな感覚をよみがえらせる。

 クリスマスの休暇を控えたある金曜日、主人公の6歳の少年、ビリー・マイケ ルズは、”慈悲の聖母”学校の幼稚園のクラスで、シスターメアリによって「こ の世にサンタクロースはいません」と幻想を打ち砕かれる。ショックを受けて極 寒の街をさまよっていた少年の目の前に現われたものは、異教の神マーキュリー と名乗った。その神は彼に一本の杖を与える。”カデューシアスの杖”で呪いを かければ、願う事が全てかなうのだった。しかし、それには大きな犠牲が伴なう ものであった。

 感覚としては「8(エイト)」のチェス盤が杖になった様であり、グリーンノ ウのシリーズの一編でもあるかのよう。例えば天沢退次郎の「光車よまわれ」。 それは、奇跡と不安に満ちたときめきと、裏返しの恐怖。
 自分の中では3月の一押しになりそうな予感っす。

 まぁ、本屋で見かけたら読んでみてください。
 ディーン・R・クーンツもスティーブン・キングも(帯によると)絶賛との事。

 「M・D」上 トマス・M・ディッシュ 540円 346頁 文春文庫
 「M・D」下             580円 413頁

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