'97年8月の本の紹介


「死の蔵書」ジョン・ダニング
「罪深き誘惑のマンボ」ジョー・R・ランズデール
「ヤーンの星の下に」栗本 薫
「三月は深き紅の淵を」恩田 睦
「二の悲劇」法月綸太郎
「ラスト・コヨーテ」マイクル・コナリー
「笑う伊右衛門」法月綸太郎

「死の蔵書」 ジョン・ダニング ハヤカワ・ミステリ文庫 p548 \720

「死の蔵書」表紙

 十セントの古本の山から、数百ドルの値打ちの本を探し出す…
そんな腕利きの"古本掘り出し屋"が何者かに殺された。捜査にあた
った刑事のクリフは、被害者の蔵書に莫大な価値がある事を知る。
貧乏だったはずなのに、いったいどこから? さらに、その男が掘
り出し屋を廃業すると宣言していた事実も判明し…古書に関して博
覧強記を誇る刑事が、稀こう本取引に絡む殺人を追う。
 全ての本好きにささげるネロ・ウルフ賞受賞作。
 とりあえず、「ディプロトドンティア・マクロプス」を読了し(ところで、このタイトルの意味は? 最後まで分からんかった(^_^;) 恐竜と関係ある?)、手元に新刊が一冊もなくなりました。
 ま、実は、「三月は深き紅の淵を」(恩田睦)の評判を耳にして、小さくはない本屋に探しに行ったんですけど、講談社の新刊(ハード・カヴァー)というのに置いてありませんでした。ううむ。こうなると欲しくなる。週末に「蒼穹の昴」と一緒に買いに行こうっと。
 で、手元に新刊がないので、昔買って"積読"になっていた本を探す。まだ読み終わっていない「エヴァンスコットの戦争」「消えた装身具」とかもあるんだけど、これらはいまいち終りまで読みたいと言う訴求力にかけているので、まだ手を付けていない本にする事に決定。「このミス」読んで買って手付かずだった「死の蔵書」(ジョン・ダニング)にしました。
 いきなり殺人がおこるんだけど、興味の中心は謎解きよりも、いかなる古本に価値が出るか、とか、いくらで買った何々と言う本がいまは何十倍の値段だか、とかいう事にありますね。尤も殺されたのが"古本の掘出し屋"、事件を調べる警官が初版マニアで、蘊蓄を垂れながら馴染みの本屋を巡るという展開…必然性はありますけど。その知識自体が結構面白いので、ページは進みます。今朝の電車で80pまで。 (1997/07/31)
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 いやはや、傑作でした。当初、古書の蘊蓄だけで引っ張っていくのかと思ってまして、それだと海外の本だからよっぽど有名じゃないと知らない本や作者だし、値段的にもピンとこないよなぁ、なんて思っていたんですけれども、そんなことは全然なく(確かにそういう知識はスパイスとして効いてるけど)、クリフの生活の出来事中心に回っていきます。
 事件のパズルの断片は徐々に姿を見せ、クリフの周りは周りで生活が回っていき…という感じでミステリ的謎よりも、クリフの人物の重味でどうなっていくんだろうと思わせてまして、それが後半、散りばめられた謎の臨界点が突破し、見事に伏線が収束していく。その手腕に唖然とします。 いやぁ。面白かったです。本好きには是非読んでもらいたいですね。
 それはそうと、なんかこれ読んでから、むやみに初版に目がいくようになってしまいました(^_^;)。こんなことしてると書籍廃人になってしまうぅ…。(1997/10/04)



「罪深き誘惑のマンボ」 ジョー・R・ランズデール 角川文庫 p398 \740

「罪深き誘惑のマンボ」表紙

 KKKが支配するテキサス東部の街グローブタウン。この街で黒人
の獄中自殺事件の真相を探っていた美人黒人弁護士フロリダが失
踪した。「彼女も殺されちまったのかな?」最悪の事態を憂いつ
つ、ストレートの白人ハップとゲイの黒人レナードのコンビは、
警察さえも手出ししない狂気の街に乗り込む。
 人種差別者の巣窟で二人が出会うのは、役立たずの警察署長、
サディスティックな街の名士に、リンチ好きな街の住人たち。記
録的な豪雨と雷鳴の中で二人が目にした事件の真相とは…
 ダーク・サスペンスの大家が放つ戦慄の怪作。
「この文庫がすごい!」で薦められていたヤツです。 暴力の世界です。出だしから放火のシーンでちょっとこわい。このあと警察に捕まって、白人(主人公)と黒人でゲイで放火したヤツと共に警察副署長に依頼され、暴力と黒人への偏見の支配する町にでかけることになります。
読んでいて恐くなるけど、おもしろい。今朝は78pまで。
あと、昨日、「ラストコヨーテ(上・下)」を購入。 (1997/08/05)
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人種差別主義の偏見が渦巻く街。実際的な例を具体的に上げられると、そらさむくなる。
何があってても叩きあう二人の軽口が救いだけれど。逆境にも軽くやり取りされる皮肉めいた台詞にニヤリとさせられる。自分自身の環境をも相対化して見れる事こそ、自身の基準が絶対ではなく多様を知る事こそ、知性の証しなのかも。
今朝は、ケンカしてボロボロになる章。227Pまで。 (1997/08/07)
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昨日、家に帰って最後まで読みました。トータルで見てなかなか面白かったです。
人種差別主義者の依るところのアイデンティティって、ステレオタイプとしては外骨格系なのな。つまり、他者との相対でしか自分の価値を測れない。自分自身の中に持っていないから、他者を落とす事で自分の価値を上げるんだよな。そして自分が何の努力もしないで、出来るためには"王権神授説"じゃないけど、生まれながらに人種の優劣をつける。外にも内にも欺瞞を塗り重ね、自分が優越感に浸りたいためだけにくり返す行ないを正当化する。小説なのかとはいえ、虫酸が走るね。自分はアメリカの現状には疎いけど、これはきっと小説だけの話しでは無いはず。 まぁ、それはそれとして、そんな中での白人と黒人のハードボイルドモノ、楽しめました。肝心の謎の方は、ミステリと言うものではなく、出来事って感じですすんでいくんですが。。。
しかし、このタイトル何とかならんかねぇ。書評で薦められていなかったら買わなかったぞ。原題は"TWO BEAR MANBO"(だっけかな?)。後書きに解説があるように、作中のジオグラフィックというTV番組で放映されていた熊の性行為に由来してるんそうなんだけど…。
そうそう、この本、デイビッド・リンチが映画化すると言う話し。
今朝からは「ラスト・コヨーテ」(上)を読みはじめ。 (1997/08/08)


「グインサーガ57 ヤーンの星の下に」 栗本 薫 早川文庫JA585 p294 \500

「ヤーンの星の下に」表紙

 タリオ大公を見事に打ち果したイシュトヴァーン率いるモンゴ
ール・ユラニア連合軍は、余勢をかって一路クムの首都ルーアン
を目指して進軍する。クムに残された道は二つに一つしかない。
国中が焦土と化すとも、イシュトヴァーン軍に対し、死力を尽く
して徹底抗戦するか、それとも第三公子のタリクをイシュトヴァ
ーンの傀儡として擁立し、甘んじてその支配を受けるかだった。
クムに示された交渉の期限は15日後に迫る。
 夏休みに入りまして、うきうきした気分でゆっくりと本を読む気分じゃないですね。そんなところで、サクサクっと読めそうなグインをば。
 案の定さくさく読めます。
 とくに、おおっと驚くような展開も無く、順当に物語は進みます。今回のTopicといえば、これかなぁ。「表紙」。前作(と言っても外伝)「幽霊島の戦士」で言及したカヴァー絵の担当が、天野嘉孝の絵から末弥純に変更に。後書きによるオフィシャルな変更でありました。やっぱり隔月になったグインはカヴァー絵/挿絵担当にとってはそうとう厳しいものがあるようで、加藤直之(おれはこの人の絵が好きだった。「砂の惑星」のカヴァーもこの人で、とても重厚感がありました)から三代目になります。 絵的には、加藤と天野の中間くらいの絵でしょうか。しかし、今回の表紙はイシュトだよねぇ。。。なんかまたもや印象が…違う。前回、天野の病的なイシュトによって物語自体のイシュトもそれに引きずられたイメージになった感があったんですが(って栗本薫本人も言っておられましたよね)、これでまた骨太なイシュトに戻るといいなぁ。
 そうそう、今回またもイシュトの回送シーンが。斜陽な年齢でもないんだから、そう読者に対しての復習的に回想してくれなくてもいいんだけどねぇ。まぁ振り返って、俺っちこんな遠い所まで野望と共に来てしまったぜ、みたいな思う所もあったり、栗本薫自体の「ここまで書き進められた」なんて感慨とかあるんだろうけど、こう毎回だとちょっと食傷ぎみです。


「三月は深き紅の淵を」 恩田睦 講談社 p353 \1800

「三月は深き紅の淵を」表紙


三月は〜は出だしは面白い。最後の方ミステリというより文芸という終わり方が残念です。最初のドキドキはセンスオブワンダー(というかセンスオブミステリ)満載なんだけど


「二の悲劇」 法月綸太郎 祥伝社 p430 \619

「二の悲劇」表紙

 <都内のマンションでOL殺される>顔を焼かれた酷いこの事
件は、当初、単純な怨恨殺人とみられた。三角関係にあったルー
ムメイトの女が逃亡していたのだ。だが、被害者が胃に飲み込ん
でいた鍵はいったい何なのか…探偵法月綸太郎が出馬した矢先、
容疑者は京都で死体となって発見、そして鍵の正体が明らかにな
るにつれ、名探偵を翻弄する迷宮の扉が開いた…。
 昨日より読みはじめました。夏休み中は、最初のページの二人称に馴染まなくて、止まっていたんだけど、そこはプロローグでした。あのまま続いたら途中でやめていたかも。
 なかなか上手い作りです。顔の焼かれた死体、同居の女性。卒業アルバムの名前と写真。間違いと錯覚。偶然と事故。運命の車のように回り物語の幕が空ける。
 登場するは、内省する当世風のモラトリアム探偵、法月綸太郎。社会に戸惑いながら足を前に進めるしか無く、学者肌なのかいろんな事を考えつつ、それでも働くしかなく。そして気付くと30過ぎ。なんかそんな気分も分かる最近。結構好きなのです。ある意味、村上春樹の探偵版とも言えるかもしれない。
 今朝は285Pまで。 (1997/08/19)
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 ううむ。読了しました。いまさっき。
 きみという二人称の意味がそういう事だとは。ううむ。
 しかし、法月探偵は、けっこうミスリードがおおいすね。「再び赤い悪夢」の時も思ったんだけど、仮説を蓋然性の高い一つの可能性とは考えずに、突っ走ってしまうことが多いと思う。まぁ、最後に全員を集めて謎解きというタイプでは無く、自分で走るタイプみたいなんで、仕方ないか。
 物語のイメージにBGMを付けるやり方は、ずるいぞ〜。読了してから「卒業写真」が頭の中でリフレインして止まないじゃないか。なんか、切ない。この読了感。 (1997/08/19)


「ラスト・コヨーテ 上」 マイクル・コナリー 扶桑社 p336 \544
「ラスト・コヨーテ 下」 マイクル・コナリー 扶桑社 p321 \524

「ラスト・コヨーテ」表紙
 ロサンジェルスを襲った大地震は、ボッシュの生活にも多大な影響を与えた。住んでいた家は半壊し、恋人のシルヴィア・ムーアとも自然に分かれてしまう。そんななか、ある事件の重要参考人の扱いを巡るトラブルから、上司のバウンズ警部補につかみかかってしまったボッシュは強制休職処分を受ける。復職の条件である精神分析医とのカウンセリングを続ける彼は、ずっと心の片隅に残っていた自分の母親マージョリー・ロウ殺害事件の謎に取り組むことになる。「ブラック・ハート」に続く傑作ハードボイルド・シリーズ最新作。

前に数ページだけ読んでちょっと止まっていたのを再開しました。問題を起こして自宅待機中の刑事が昔の事件の調書を警察のセンターに行って開く。
それは、35年前、自分の母親が殺された調書であった。コールガールであった母親が殺された事件をもう一度調べようと、その後、母親の親友でもあった女性のもとへ訪れる…。
今朝の電車で、86Pまで。(1997/08/20)
----- それなりに読みすすめています。この刑事ボッシュ、問題を起こして職を外されているんですが、復帰の条件がセラピストの診断を受けることでした。そこで、この物語のもう一つの場面です。ここで、如何に深いストレスを受けているか、ボッシュの生い立ちなどが徐々に明らかにされていきます。Lここらへんはアメリカならではというかんじですね。精神科の診断を気楽に受けるというのは。日本ならそれだけでヤバイ人と思われてしまうけど、アメリカは日常生活に深く浸透しているようです。
この構成、「ゲイトウェイ」(フレデリック・ポール)に似てますね。「ゲイトウェイ」の場合は、セラピーの過程で明かされる事実こそ、物語のオチとも言える衝撃的なものでしたけど。
ハードボイルドな味がいいです。今朝は282Pまで。(1997/08/22) ----- しかし、土曜日曜って、ほとんど読書できません。遊びで(^_^;)。というか、腰を落ち着ける雰囲気ではなく、どたばたと家の内外でしているから。だって、例えば夏なんて6週くらいしかないんだよ。…ってことは、日曜6回分。そう思うと少ないものです。しかも今朝なんか昨日の夕立のせいか、涼しい涼しい。もう秋な感じであります。ちなみに昨日は9時頃帰宅後、飯作って食って、爆睡。起きたら朝でした。なんか疲れております。
前置きが長かったですが、「ラスト・コヨーテ」も下巻に突入しました。飛行機でフロリダ(だっけ?)くんだりまで行って、ちょっとした出会い(と情事)は僥倖としても、母親殺しの犯人を探します。徐々に状況証拠や証言も取れ、戻ると、家(大地震で崩れ立入禁止になっている)に人の気配が…。それは警官であり、今回の自宅待機の原因ともなった警部補が殺された件を調べていると言うのだ。
その後とうとう、コンクリンにたどり着くが、意外な事実がボッシュを待っていた。
今朝の電車で、219Pまで。 (1997/08/26)
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いやぁ。面白かった面白かった。普段は面白いとは思っても、誰かに薦めたくなるほどというのは少ないんだけど、これは、お薦めしたいです。
最後の最後での活劇&どんでん返し、そして伏線の収束は、息を飲む展開です。この生活・人生に対しての疲労感の中、自分で設定した目標に突き進むハードボイルドな展開は、トレヴァニアンの「夢果つる街」に近いものが有りました。今月の頭に読んだ「罪深き情熱のマンボ」にも近いものが有るんですが、「罪深き〜」にあるような根底に楽観的なところが無い事が違っているかと思います。
この話、シリーズだったらしくてその4作目に当たるのですが、前作を全然知らなくても十分楽しめます。5作目でどうなるか楽しみです。(おっと、その前にシリーズを最初から読むかな。) (1997/08/27)

「笑う伊右衛門」 京極夏彦 中央公論社 p385 \1800

「笑う伊右衛門」表紙

昨晩「ラスト・コヨーテ」を読了して、今月のノルマの最後の作品、京極夏彦の「笑う伊右衛門」を読みはじめました。今朝はすぐに電車で座れたので、4、5pしか読めなかった。(座ると寝ちゃうので(^_^;)) ところで、「笑う」の漢字が違う。fepで出てこないのでしょうがないですが。コンピュータな方々はどうしているんでしょう?
しかし、これが終ると取り敢えず新刊はなくなるので、またどっかで仕入れてこなきゃ。なんか面白い本有ります?>これ読んでいる人。
積読は「エヴァンスコットの戦争」(いいかげん終らないのでもうヤになってる)とか有ります(^_^;)。(1997/08/27)
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さくさくっと、読了です。読みやすかった。それでも昔語りっぽいガジェットを繰り出す手腕はすごいです。まだ若いのに>京極。
それはともかく、お岩さんのお話ですね。新解釈と思いきや、こちらの方が原作には忠実と言う話を耳にしましたが。。。(調査中)。
少しずつなにかがずれていき、カタストロフィーの予感のままに、しずしずと幕が上がっていく…その予兆に、はらはらしました。
何故に京極がいまさらこの話をと思わないでも無かったけれど、読了後、これは、またも複雑に絡みあった運命(縁)の物語なのだなぁと思った次第。ただし、「憑き物落とし」をしてくれる京極堂は居ません。そうして予定される破局に向かって物語は落ちこんでいく。。。。
そういう意味では、まことに京極夏彦という作家の作品でありましょう。 (1997/08/29)


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