運命の人

誠に勝手ながらこの作品は、私に魔人学園を紹介してくれたKちゃんと、一番の悪友Kくんに捧げます。

返品不可!亀々うるさいのじゃ〜(笑)。


    某日某所・・・如月と竜麻が商店街で夕飯の買い物をしていると突然、背後から声をかけられた。
  「すみませ〜ん!」
   知人の声ではなかったが、とりあえず自分達に言っているらしいので二人はほぼ同時に振り向いた。
  「あ、こんにちは〜☆。○○放送の番組□□の△△ですけど、アナタ達こーこーせー?」
   後一歩でモーニン○娘に抜擢されず、深夜番組に配属されてしまった様な感じの女性が、そう言いな
 がら二人にマイクを向ける。
  「うん!」
  「・・・・・・・・」
  「あらあ?そっちのロンゲのキミは御機嫌斜めぇ?」
   とりあえず如月は目前の馬鹿女から視線をそらす。出来れば竜麻にも見て欲しくないのだが・・・馬
 鹿は伝染すると言うし。
  「まあ、いいや、アンケート?協力?して?くれるぅ?」
   いわゆる語尾上げで、よく見ると化粧で若く見せてるらしいけど、小皺が目尻で粉をふいている女性
 は言葉を続ける。如月は竜麻の肩に手をかけるとくるりときびすを返す。
  「ずばり!『男のロマン』とはなんでしょうっ!!』
   だが、どっかのバカ番組のインタビュアーはまだしつこく二人にマイクを向けて来る。
  「ん〜、『男のロマン』ってたらやっぱ『裸エプロン』だよねっ!如月クン」
   臆面も無く(更に満面の笑みで)言って来る竜麻に如月は無表情のまま歩みを進める。心中では『裸
 割烹着だとほとんど見えないな』などど思っていたりするが、そこは精神修行をこの世に産まれ落ちたそ
 の日から怠らない彼のことだ。表面上は噫にも出さない。
  「え〜?じゃあ、やっぱり『裸にYシャツ』派なの?如月クンは」
   −−−・・・いや、僕のYシャツだと大きくて君はすっぽり全身収まってしまうし、だぶだぶだから
 身体の線が見えないじゃないか、そんな勿体無いこと僕には出来ないよ。
   そんなことを思いながら如月は小さく嘆息する。
  「あ〜、呆れてるだろう?い〜よ、い〜よ、どうせ俺はふつーの18禁雑誌を読み漁るしがない高校生。
 如月クンはそんな低能な俺を見下す優等生様だもんな」
   お前、いくら男装してるからって女性としての最低限の自覚はないのか・・・。
  「別にそんなつもりは・・・」
  「い〜よ〜だっ!!いよっ!若年寄り!理性の塊っ♪」
   −−−理性の塊・・・か。まあ、そうかもしれないな。何せ最近は深夜の低俗番組を眠れない夜に観
 ても、何の反応も僕の身体はしてくれなくなったからね。昔はそれだけが僕が普通の人間と何ら変わりな
 いことを証明してくれるモノだったんだが。
   そんなことを人間の証にするな。
  「竜麻、今の全部テレビで放映されるんだよ?」
   −−−悲しいことに、いや、喜ばしいことかな?僕の身体はもう君にしか反応しなくなったんだ・・・
 え?見たことがない?(誰もそんなことは聞いてない)。それはそうだろう、君の前では鋼の精神で身体
 を支配しているからね。
  「そう?俺の家、テレビないからいいよ」
   屈託なく笑いながら言ってのける竜麻。
  「そう言う問題ではなくてだな・・・」
   −−−○○放送の番組□□だったな。ふ、僕の許しなく僕の竜麻(何時の間にお前のモノになったん
 だ?)をカメラで映した挙げ句、全国の獣達に放映しようとするとは万死に値するっ!!
   とりあえず明日は学校に行かずに邪妖滅殺しようと心に決めた如月だった・・・。

   それから三日後・・・。
  「如月ク〜ン、居る?」
  「如月〜、邪魔するぞ」
  「やあ、いらっしゃい」
   お気に入りの招き猫を抱えながら、如月は愛しの竜麻と赤髪剣道バカを出迎えた。
  「・・・あのさ、何でいつもそれを抱えながら出て来るんだ?如月」
   赤髪剣道バカ・・・京一が眉をひそめながら聞いて来る。
  「気にしないでくれ、蓬来寺君。君が来る時にたまたま僕がこれを磨いている最中なだけだ」
  「あ、ねえねえ、それより聞いて!如月クン、こないだの街頭インタビューの番組、プロデューサー以
 下全員重傷で、番組自体が無くなったんだって」
  「そうか・・・まあ、怪我をした人達には気の毒だが、あんな低俗
  番組は流すだけ電波の無駄だよ」
   さらりと如月は言ってのける。
  「ふ〜ん」
   いつもながら冷静沈着な如月の答えに竜麻はそういうものかと相槌を打つ。
   −−−こ、こいつだ。こいつがやったに違いないっ!
   ただ一人、事件の全貌を即座に理解した京一がこめかみから一筋冷や汗を垂らした。
  「おや?どうかしたのかい?蓬来寺君、汗をかいているようだけど」
  「い、いやあ、何か暑いな〜。今日は、うん」
  「何、言ってるんだよ〜京一。今日は肌寒い一日になるからマリア先生が風邪を引かないように気をつ
 けなさいってHRで言ってたじゃないか」
  「え?あ、そうだったっけ?・・・そ、そうだ!ひーちゃんと如月があんまり仲が良さそうなので暑い
 なあ〜と」
   京一、墓穴を掘っている。今度、スコップ送ってやろうか?
  「そうかな?」
   小首をかしげる竜麻。
  「そうそうそうなんだよ、うん。如月、お前もしかしてアブナイんじゃない?ひーちゃん可愛いもん
 な」
   よし、園芸セットもプレゼントしよう京一。ちなみに竜麻が女性であることは如月しか知らない。
 これは物語上当然のお約束だ。
  「はははは、僕はノーマルだよ」
   如月の目は笑っていなかった・・・。

   あれは・・・そう、如月が竜麻と初めて店の主人と客と言う以外のシュチュエーションで出会い
 (←何故か如月の回想シーンが始まったらしい)落石の下敷きになりそうになった竜麻を咄嗟に抱きか
 かえて助けた時だ。
   −−−思ったより華奢な身体?・・・いや、それよりも何だ?この違和感は?
   竜麻の身体に言い様のない違和感を如月は感じたのだった。まあ、元々、150cmしかなく、しか
 も童顔な彼が高校三年生男子と言うことだけでも十分違和感があったのだが。
   そして、次の日から毎日、毎日、夢の中でその救出シーンがフラッシュバックした。・・・しかも目
 が覚めると布団が(以下略)。
  「僕は・・・僕はっ!ノーマルだあああああああああああっ!!」
   毎朝、発声練習よろしく学校の防音施設で如月は叫んでみたりもしたが、一向に症状は改善しなかっ
 た。いい加減、替えのシーツも無くなって来た頃・・・寝不足でぼ〜っとしていた如月は店の前が乾燥し
 て埃っぽかったので水を捲いた。
  「ふにゃああああ〜」
  「え?」
   寝不足で前をよく見ないで水を捲いたため猫にでもかけてしまったかと、如月が目をこらすとそこに
 は・・・。
  「竜麻!(逢って間もないのだが、どうやら夢のせいで好感度がMAXになっていたらしい)」
   頭から水をかぶってびしょ濡れになった竜麻が立っていた。
  「びしょびしょだよ〜」
  「見れば分かる!早く中に入ってっ!!」
   竜麻の濡れた髪と身体が透けるように儚くて、ほのかに色っぽい・・・近所の者が顔を出して彼を目
 に入れないうちに一刻も早く隠そうと如月は、慌てて竜麻を店内に引き入れた。ついでに厳重に扉にも鍵
 をかけ、カーテン(?)も閉める・・・何考えてるんだ、お前は?
  「すまなかったね・・・これ使ってくれ」
   どこからともなく(さては忍術でも使ったか)純白のタオルを出すと如月は竜麻に差し出した。
  「うん、ありがと。あれ?手ぬぐいじゃないの?」
  「え?どうしてだい?」
  「如月クン家って純日本家屋って感じだから・・・」
   えへへと舌を出しながら竜麻が笑う。如月は自分のすぐ側にあった瓶(三万円)を手刀で破壊した。
  「き、如月クン?お、怒ったの?」
  「・・・いや、瓶に蠅が止まっていたのでね。ちょっと手元が狂っただけだ」
   お前は手刀で蠅を叩くのか?まあ、単に理性が切れそうになったので応急処置と言ったところか。
   −−−とりあえずこの三万円はあの赤髪剣道バカの刀代に上乗せしておくか・・・。
  「ふ〜ん?・・・くしゅっ」
   竜麻が可愛らしいくしゃみを一つ。如月は自分のすぐ側にあった瓶(以下略)。
  「大丈夫かい?・・・ああ、全身が濡れてしまっていたんだったね。生憎、風呂は湧いてないが、純日
 本家屋の僕の家にもシャワーぐらいはついてるから浴びて行ってくれ。その間に服は乾かしておくから」
  「へ?シャワー?服を乾かす?・・・い、いいよ、こんなのそこら辺を一走りして来れば乾くから」
   何故だか竜麻は急に狼狽しだした。
  「その辺を一走りだって!冗談じゃない!そんな勿体のない・・・いや、そんなことをして風邪でも引
 いたらどうするんだ!とりあえず濡れた服をそのまま着てるのは身体に良くないよ・・・」
   −−−そうさ、とりあえず脱がしてみて・・・違和感の正体を突き止めれば症状は改善されるはず!
   自分の煩悩を無理矢理正当化して、じりじりと如月は竜麻に詰め寄った。竜麻はそのまま後ろに下が
 るが・・・何故か真っ昼間だと言うのに表口はしっかりと錠が降ろされていて、それ以上は下がれない。
  「き、如月クン・・・そんなに心配しなくっていいか・・・!!!!!!」
  「!!!!!!!!!!」
   竜麻の学ランの胸元をはだけさせた如月の視界に広がったのは・・・さらし。
   −−−【晒】:さらして白くした綿布または麻布。現今では白木綿に限る(広辞苑 第五版)。じゃ
 ないっ!ええい、こういう時は博学な自分が恨めしくなるな。こんなシュチュエーションで胸元に見えた
 のがさらしと言うことは竜麻は・・・・?
  「秘拳!黄龍!」
  「うわああああああああああああああっ!!」
   如月は大気圏突入!となった・・・いや、すぐに飛ばされたままの状態で、直立不動で腕を組み、冷
 静に言葉を紡いだ。
  「ああ、やっぱり僕はノーマルだったんだ・・・」

   小一時間程して如月が体裁を整えて、店に戻ると竜麻は空いた天井から落ちたもの等を片付けていた。
 しっかりと乾いた学ランを着込み、髪も乾いて揺るやかなウェーブを保っている。どうやらしばらくは店
 主が戻って来ないと踏んで、勝手にシャワーやらアイロンやらを拝借したらしい。
  「あ・・・如月クン」
   バツの悪そうな顔で竜麻は如月を出迎える。
  「正直言って驚いたよ・・・」
   そう言いながら如月は竜麻の隣に腰を降ろす。
  「あ、あのねっ!天井は大工さんと左官屋さん頼んでおいたからっ!
  支払いは俺がちゃんとするから・・・その」
  「ああ」
  「身体大丈夫?どっか痛くない?医療費だってきちんと出すし・・・」
  「ああ」
   次の瞬間にささっと竜麻は如月の正面に身体を持って来た。
  「だから・・・みんなには黙っててくれないかな?俺のこと」
   真摯な瞳で、涙をいっぱい浮かべながら竜麻は訴える。
  「ああ・・・」
   −−−その替わり君は僕のものになってくれるかい?
   そう如月は続けようとしたが・・・。
  「でも、でも、でも、交換条件とかないよね?あ、ごめん、気を悪くした?如月クンがまさか『その替
 わり君は僕のものになってくれるかい?』なんて卑怯なこと言うはずないのに・・・ごめん、ごめんね」
   上目遣いにぽろぽろと両眼から涙を零しながら言って来る竜麻。・・・こういう場合『実はそのまさ
 かさっ!』と言って押し倒すか、『君は案外、馬鹿だね。そんなことある訳ないじゃないか・・・』と優
 しく微笑むか・・・二つに一つ。
  「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
   熟考の上、如月が選んだのは後者。とりあえずは愛しい者は傷つけたくない。これからゆっくり口説
 けばいい訳だし。それ以前に竜麻を押し倒してどうにか出来る自信は自分にはない。
  「ところで一つ聞いていいかな?」
   切り口を変えようと如月は言う。
  「何?」
  「君は何でわざわざ男装してるんだい?」
  「実は・・・」
   ぽつり、ぽつりと竜麻は話し始めた。
   何でも、転校前に親友の恋人に襲われたこと(未遂)が原因らしい。あれ程、親友と仲睦まじかった
 彼の裏切りと、いわゆる男性的な獣欲が許せずに・・・それ以上に自分が『女性』であることによって
 それを引き起こしたのが許せなくなったのだと。
   決定打だ。如月は竜麻を口説くことさえままならなくなった。女性として竜麻を扱えばそれだけで、
 愛しい彼女を傷つけることになるから・・・。
   −−−許せないっ!僕の竜麻(確定)に恋人がいながら手を出しただと?確かにその気持ち分からな
 いでもないが、僕が同じ立場なら、とりあえず恋人を無理矢理不慮の事故で亡くし、心の傷が癒えるのを
 十分に待って(その間に竜麻によってくるムシは邪妖滅殺!)からちゃんと竜麻と婚約(なぜ?いきなり
 婚約?)するぞ!
   ・・・て、言うか、無理矢理不慮の事故ってそれって他殺?
  「だから・・・」
   最後まで言葉が続かない竜麻。小さな身体が震えて、瞳には涙をたたえて・・・。
   −−−竜麻の親友の恋人・・・略して竜親恋・・・いや、TSK!君は僕が何が何でもたとえ死んでい
 たといても探し出してたっぷりお礼をしてあげるよ・・・僕の竜麻を可愛がろうとしたお礼をたっぷりと
 ね・・・ふふふふふふふふふふふ×1000000。
   ・・・ネーミングセンスないのな、お前。
  「分った・・・もう、いいから・・・安心していいよ、竜麻」
  「うん、ありがとう・・・」
   微かに笑いながら・・・実は竜麻はこんなことを考えていたりする。
   −−−先手必勝!だよね(^^)v。翡翠(心中だと何気に呼びつけ)とならいつでもおっけーだけ
 ど、まだ妊娠する訳にも行かないし・・・やっぱ子供はさ、この東京が平和になったら作らないと・・・
 って、ま、翡翠が俺のことそんな目で見る訳ないか。あ〜あ、もうちょっと背が欲しい、胸が欲しい、大
 人っぽい顔が欲しい〜!長くて真直ぐな髪が欲しい〜・・・ん〜、やっぱ美里が理想だよねぇ、翡翠の隣
 ってさ。
   ・・・まあ、好かれてるって気付いてないぶん如月よりましだな、お前さんは。

   その日から如月君の地獄の様な日々が始まりました(まる)
   何しろ竜麻は本当の自分を知っている如月君の元だと落ち着くのか、毎日骨董店に通って来ます。し
 かも、自覚がないのに可愛らしい仕草や言葉を発するので亀さんは発狂寸前です。
  そして如月君はその鬱屈したエネルギーを鬼道衆にぶつけることにしました。レベルも上がって一石
 二鳥です。どうしても抑えきれない時は竜麻の写真(以下略)。
   そのうち如月君は鬼道衆の中で、竜麻の名を呼ぶ者を好んで邪妖滅殺することにしました。その目に
 竜麻を映すだけで許せないのに、名前なんて呼ばれた日には竜麻が汚れてしまいます。だから自分が浄め
 てあげるのです。
   そんな如月君の行動にたった一人だけ疑問を持った者がいました。学校での勉強はさっぱりなのにこ
 う言う時だけ頭の働く京一君です。
   如月君が戦闘中に人一倍行動し、さり気に竜麻を守っていること、それと冒頭の低俗番組襲撃事件のこ
 とも気になったのでその旨、問い質してみました。
  「玄武は黄龍を護るために在る。何もおかしいことはない」
   あっさり返されてしまいました。そう言えばそうです正論です。
  「でも、醍醐やアランやマリィも・・・」
  「・・・」
   ソーマ(これが行動力の元だったのですね)を喰わえながら京一君を見つめる如月君。その目はこう
 言っている様に京一君には見えました。
   −−−君はまだ死にたくはないだろう?・・・蓬来寺君。
  「失礼しました」
   京一君はそう言うと脱兎のごとく走り去って行きました。・・・これで誰一人邪魔者は居なくなりま
 した。攻略本でも男性で、主人公に気がありそうなのは京一君だけでしたから。え?美里や比良坂さんは
 どうかって?それは竜麻が女性であることが発表出来れば万事おっけーです。
   そうこうしているうちに全ては終わって、今さっき卒業式が終わったところです。え・・・?私は誰
 かってうふふふふふふふ、さあ誰でしょうね?

   「悪いね、虫干しを手伝ってもらって・・・」
  「い〜よ、どうせ今日は卒業式で午後からは暇だったしさ」
   卒業式後の昼下がり、竜麻はいつもの様に如月の家に来ていた。もうこの頃は泊まらないだけで、半
 同棲状態だったりするのだが、まだ二人の間には何も起こってなかったりする。
  「竜麻」
  「何?」
  「君はこの後、どうするんだい?」
  「この後・・・って進路のこと?」
  「ああ、何となく聞きそびれてしまったのでね」
  「う〜、多分、実家に帰って・・・大学進学はしないつもりだし、就職も今からじゃ遅いかあ」
  「ふむ、じゃあ、結婚でもするのかい?」
  「結婚・・・ねえ」
   −−−う〜ん、でも、俺、翡翠(心中だとやっぱり呼びつけ)としかヤりたくはないからなあ・・・
 でも、翡翠は俺のことなんか銀河系に存在する塵程も思ってないだろうし。やっぱ郷里に帰って親の勧
 める見合いして結婚なんだろうな。
   でも!俺は婚約者には「結婚するまでは清いままでいたいの」とか言って(それを嫌がる奴は問答無
 用で秘拳・黄龍をかます!)ついでに相手を生命保険に入れて・・・受取人を俺にして、初夜の晩に
 秘拳・黄龍だっ!!何度も繰り返すうちに警察に目を付けられるだろうが、そんなの秘(以下略)。
   ・・・それは操を守るんじゃなくて保険金詐欺だ、竜麻。
  「それも、ない。相手がいないしね〜」
  「・・・・・・・・・・・・・お茶、煎れてくるよ」
   竜麻の答えに何も返さず、憮然とした表情で如月は倉を後にした。
  「如月・・・クン?」
   どうしたんだろう?と思いながらそっと竜麻は気付かれない様に
  如月の後を追った。

   「ふぅ・・・」
   台所の近くの壁で聞き耳を立てた竜麻の耳に入って来るのはさっきから如月のため息ばかり。
  「竜麻・・・どうしたら君を傷つけずに僕の想いを伝えられる?君
  は親友の恋人に・・・」
   何十回目かのため息の後、竜麻の耳に飛び込んで来たのはそんな如月の声・・・。
  「そっかー、そっかー・・・そんなに気にしてくれてたんだね。俺が親友の恋人に襲われたこと。
 う〜ん、実はアレさ、翡翠に話したらすっきりしちゃってもうどーでもいいんだよね。でも、とりあえ
 ずそれが俺に手を出すのに足枷になってるって言うなら・・・とりあえず親友の元恋人は今晩のうちに
 生きているのを後悔するぐらいな目に合わせてシメとくよ。それなら安心して手が出せるだろ?」
   −−−如月クンって優しいんだ・・・本当に。
   おいおい、竜麻、本音と建て前が逆になってるぞ(笑)。まあ、如月には聞こえないだろうが。
  「聞こえてるよ」
   うわっ!如月、どうするんだ。もう既に読者(いるのか?)は長過ぎて読む気が失せてるぞ(^^;。
  「でも、もう一ひねり必要だ・・・」
   ああ、もう何でもいいからくっ付いて終わってくれ(><)/。
  「了解」

   「お茶煎れて来たよ」
  「あ、さんきゅ〜♪・・・て、これ俺の湯呑みじゃないじゃないかあ」
  「ああ、ごめん、今朝誤って割ってしまってね・・・」
  「う〜、あれ口当たり良かったのに〜」
  「そう言うと思って・・・こっちに来てくれるかい?竜麻」
  「ん〜?」
   言われるままに竜麻は倉の一角へと行く。
  「わあ〜♪」
   そこの棚にはありとあらゆる種類の湯呑みが所狭しと置かれていた。
  「これは売り物にはならないから・・・だからここから好きなのを選ぶといい」
  「ほんとっ?ありがと〜」
   嬉しそうに湯呑みを眺める竜麻の後ろで、如月が妖艶な笑みを浮かべたのに彼女は気付かない。
  「・・・って、何をやっているんだい?竜麻」
   竜麻はと言えば、片っ端から湯呑みを手に取ってその縁を自分の口元に持って行きはむっと言う感
 じで、口をつけている。
  「口当たりの良さの調査」
  「それ・・・他の店でもやってるのかい?」
   −−−だったら君の調査後の湯呑みは全部、僕が買い取るよ。
  「ううん、やりたいけどね〜。そうも行かないし」
  「じゃあ、今朝割れた奴は?」
  「う〜んと、お茶屋さんに行って、お茶を煎れてもらった時の湯呑みなんだ。あんまり口当たりがい
 いから新品を譲ってもらったんだ」
  「なるほど・・・それなら間違いは・・・ないか」
  「うん、如月クンも試しにやってみるといいよ。お茶がもっと美味しく感じるから、口当たりがいい
 と」
  「そうだ・・・な、試してみるか」
  「うん、あ、でも、お茶屋さん以外でやると返品不可だよ。たとえ気に入らなくても」
  「この場合、その方が都合がいい・・・」
  「へ・・・?」
   次の瞬間、竜麻の視界一杯に如月の顔が広がった。彼の吐息が顔にかかる。既に如月の人さし指は
 竜麻の顎を軽く持ち上げていたりするのだった・・・。
  「き、如月クン?な・・・にやってるの?」
  「もちろん、口当たりの良さの調査の準備だ」
   そう如月が言った刹那・・・竜麻はその場で高くジャンプして如月の頭上を飛び越えた。そして振
 り向き様に・・・。
  「秘拳!黄龍!」
   何とかの一つ覚えとやらで己の最も得意とする技を如月に放つ。乙女の恥じらいと言ったところか
 ・・・ただ常人なら死ぬぞ。そして如月の身体は棚ごと倉の壁を突き破り飛び出して行った。
  「ふ・・・う、いきなり何冗談ぬかしてるんだ翡翠は」
   耳まで真っ赤に染めながら竜麻は呟く。胸の鼓動が早鐘の様に耳を打つ。
  「僕は本気だよ・・・竜麻」
  「ひ、ひす・・・と、如月クン!?」
   竜麻が声のした方を振り向くと、全く無傷の如月がそこに立っていた。
  「何で・・・っ!・・・ああっ!さっきまでここにあった檜の丸太がないっ!!」
  「説明的な台詞ありがとう。そう、“変わり身の術”さ。僕は飛水流の忍者なんだから。それに君の
 行動パターンは読めていたしね」
  「むう〜」
  「ああ、ふくれた顔も可愛いよ。竜麻。・・・ところでこの後始末なんだが」
   如月が視線を壊れた壁と棚と、割れた湯呑みに移す。
  「分ってる、ちゃんと弁償するよ」
   そっぽを向きながら竜麻は答える。
  「まあ、棚と壁はいいとして・・・その湯呑みは全て“国宝”に指定されていたんだけどね」
   悪戯っぽく如月は笑みを浮かべる。
  「ええっ!だってさっき・・・これは売り物にはならないからって!」
  「ああ、だって『値段がつけられない』んだから、売り物にはならないじゃないか・・・」
   してやったり!と得意げな笑みを如月は竜麻に向ける。
  「じゃ、じゃあ・・・」
   心細気に竜麻は如月の方を向いた。
  「一生、僕の側で償うなら許してあげてもいいよ。竜麻」
   ちゃかす様な言葉だが、如月の表情は真剣そのものだった。
  「そ、それってどう言う意味だよっ!」
  「プロポーズの言葉だが、何か不味かったかい?」
  「な・・・っ!」
   竜麻、絶句。
  「こうでもしないと君は素直に『うん』とは言ってくれないだろう?」
  「ハメやがったな!この野郎!」
   竜麻は“嬉”、“怒”、“悩”の感情を器用に表しながら叫んだ。
  「先に僕をハメたのは君だろう?さっきの台所で聞いてたよ」
  「う・・・っ!」
   竜麻、再び絶句。
  「まあ、力づくって言うのは好きじゃないから、このプロポーズはスマートに決めようと思ってね」
   優し気な瞳に婉然な笑みを浮かべて如月は絶句したままの竜麻に言った。
  「どこがスマートやねんっ!!」
   興奮と混乱の余り何故か関西弁になって竜麻は突っ込んだ。
  「うん、確かに・・・君はスマートだよ、竜麻」
   すっと竜麻に如月は近付くと、彼女の腰に手を回して自分の元に抱き寄せる。
  「ひ、翡翠っ!?」
   動揺の余りつい本音用で如月を呼んでしまう竜麻。
  「ああ、やっと名前を呼んでくれたね。嬉しいよ、竜麻。さあ、答えてくれるよね『うん』と」
  「・・・・・・・」
   乙女の最後の意地か、竜麻は黙して答えない。如月をきっ!と睨み付けたまま。まあ、相変わらず
 耳まで真っ赤だから様にはならないが。
  「まあ、いいさ。僕の大学は四月からだし、君は特にすることもない・・・東京もしばらくは平和
 だ。・・・竜麻、君に『うん』と言わせる時間はたっぷりとあるんだよ?」
  「秘拳!黄りゅ・・・・ん〜っ」

  (暗転)

   合掌・・・幸せにな〜、竜麻(^^)/。

  <終わり>
 

   


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