恥辱のリング
1、プロローグ
その夜、川村勝也は、満足していた。ほんの、数十分前に所有し
ていたWBA世界ジュニアバンタム級のタイトルを無名の格下の挑
戦者に、大差の判定で奪われたにもかかわらずである。
まさかの敗戦に、観客は、失望のため息を漏らし、心無いファン
に痛烈なやじを浴びせられたが、それでも、勝也は、満足していた
。
試合後の控え室、報道陣は、完全にシャットアウトされ、関係者
だけが、中にいた。皆、一様に押し黙っていた。
ついに、ジムの会長の金村が口を開いた。
「勝也、おまえ、情けなくないのか。あんな、無様な試合をして。
あんな内容じゃ、再起戦もおぼつかないぞ」
勝也は、この男が嫌いだった。ジムの会長であるという事から、
今まで、反抗した事こそなかったが、選手の事など少しも気にかけ
ず、ただ、金儲けと名声だけが目当ての俗物に過ぎなかったからで
ある。悪い噂も多かった、挑戦者が手強いと、ホテルの調理師を抱
き込んで、相手の食事に薬物を混ぜたなどという話しも実しやかに
囁かれていた。又、勝也自身が、完全に負けたと思った試合も、不
自然な判定で勝利を得た事もあった。
そんな、相手ではあったが、この国では、一度特定のジムに所属
したが最後、選手には、移籍の自由さえないのである。それゆえ、
勝也も、仕方なく、この男の言う事に従っていたのである。
だが、もう、我慢する必要は、なかった。今日限りで、こいつと
は、おさらばできるのだ。
勝也は、笑みを浮かべた。
「いいえ、会長、僕は、今日の試合に満足していますよ」
金村の顔が朱に染まった、怒りが沸き上がってきたのだ。
「なんだと!この、馬鹿野郎、おまえには、状況が分かっていない
ようだな。頭の悪い奴め、よし、教えてやろう、もう、おまえじゃ
金を稼げないんだよ。おまえは、もう、用なしなんだ」
下衆にふさわしい、物言いに勝也は、苦笑した。
「そりゃ、僕は、馬鹿ですよ。でも、その位は、分かりますよ。多
分、何も分かっていないのは、あなたですよ、会長」
「なんだと!この、餓鬼」
「餓鬼でも、なんでも結構です。それよりも、さ・よ・う・な・ら
、会長。もう、辞めます。世話になったとは、思わないけど、まあ
長い付き合いでしたね」
金村の顔に動揺が走った。
「なんだと!ははあ、大方、東拳にでも誘われたな。ふん、そうは
させるか、俺が、うん、と言わなければ移籍なんてできないんだぞ
。おまえだって、この世界のルールを知らない訳じゃないだろう、
さあ、謝れ。土下座して、俺の靴の裏を舐めたら、移籍を考えてや
らない事もないぞ。さあ、どうする?」
勝也は、この後に及んでも、虚勢をはるこの男が哀れになった。
「移籍なんてしませんよ。いいですか、会長、僕は、ボクシングを
辞めると言ったんです、確かに、この世界、選手には、殆ど権利な
んてないけども、辞める権利だけはあるんですよ。それは、理解で
きますよね」
金村は、なおも虚勢を張り続けた。
「ボクシングを辞めるだって?ふん、そうか。だが、おまえの魂胆
は、分かっているぞ。ちょっとばかり、面が良くて、女に人気があ
るもんだから、芸能界にでも入るつもりだな。やめとけ、やめとけ
、芸能界には、おまえ程度の面の奴は、掃いて捨てるほどいるんだ
。お笑いに行くって言ったって、おまえみたいに面白味のない奴は
、使い物になるわけがない。いいから、諦めて土下座して謝れ」
勝也が返事をしようとした時に、バタン、と音がして控え室のド
アが開いた。
一同が、ドアの方を見ると、ジムの大口の後援者の一人で、世界
的に有名な宝飾デザイナーの、ジェニー・風間が入って来た。
ジェニーは、日本の宝飾デザイナーの大御所である、風間大祐が
アメリカ人の妻との間にもうけた一粒種であった。幼い頃から、大
家の父親に仕込まれて育ったジェニーは、既に、10代後半の頃に
は、トップデザイナーとして活躍していた。もう、40歳をかなり
越えている筈だが、ワインレッドのスーツを着こなした、ショート
カットで丸顔のその若々しい容貌からは、30代前半としか見えな
かった。
ジェニーを認めると、金村が急に卑屈な態度になった。
「あ、これはこれは、ジェニー様。こんな、むさ苦しい控え室まで
いらっしゃるとは、余程、ボクシングがお好きなんですな。今日は
、無様な試合をお見せして申し訳ございませんでした。ちょうど、
今、勝也と今後の事を相談していたところでして」
饒舌に喋り続ける、金村をジェニーは、睨みつけた。
「お黙りなさい!全部聞いていたわよ。全くなんて下衆な男でしょ
う、勝也君の気持ちも知らないで。いい!勝也君はね」
ジェニーが喋りきらない内に、勝也が割り込んだ。
「待って!ジェニー。僕が、自分で言うから」
勝也の顔を見てジェニーは、肯いた。
「会長、僕は、網膜剥離です。前の防衛戦の後から、目の具合がお
かしかったんで、ジェニーの知り合いの医者に診て貰ったんですよ
、網膜剥離でした。本当は、すぐにでも引退するべきだったんでし
ょうが、どうしても、後一度だけリングに立ちたかったんで、ジェ
ニーに頼み込んで、医者の口を封じて貰ったんですよ。ええ、今日
の試合、相手のパンチなんて全然見えませんでしたよ。でも、僕は
、倒れなかった。精一杯戦ったんです。だから、満足しているんで
す、男として恥ずかしくない戦いをしました」
金村は、絶句した。狼狽している金村を冷ややかに見据えてジェ
ニーが続けた。
「情けない男ね、口も聞けないなんて、大方、商売道具が壊れたよ
うな心境なんでしょうね。そんなだから、選手に信頼されないのよ
、だから、勝也君もあなたには、何も言わずにわたしのところに相
談に来たのよ。いい事、勝也君は、わたしが引き取ります。わたし
の下で、宝飾デザイナーの修行をさせます、異存は、ないでしょう
ね?」
茫然としている金村を残して、ジェニーは、勝也を連れて控え室
から出て行った。
2、ジェニーの罠
最後の試合から、6ケ月が過ぎていた。勝也は、網膜剥離の治療
の手術をして退院した後、3ケ月前から青山にあるジェニーの店で
宝飾デザイナーの見習いをしていた。
8月も末の既に、秋の気配を漂わせ始めている午後であった。
勝也は、デザインルームでジェニーから出された課題の制作に
取り組んでいた。
「勝也君、ちょっと休憩しない。お茶でも飲みましょうよ」
店の先輩で、やはり、宝飾デザイナーの修行をしている、白鳥美
馬が声をかけてきた。
美馬は、勝也より1つ年上の25歳で、女性にしては、長身で勝
也より、ほんの少し背が高かった。髪は、ストレートのロングで、
細身のお嬢様タイプの美女であった。
勝也は、年上とは言っても、女性から君呼ばわりされるのには、
抵抗があったが、店の先輩である為、我慢していた。それに、美馬
に内心好意を持っていたので、最近では、さほど気にならなくなっ
てきていた。
「そうだね、ちょっと休もうか」
勝也のぞんざいな物言いに、美馬は、笑いながら、答えた。
「あらあら、偉そうに、この間迄は、あんなに礼儀正しかったのに
」
「そりゃあ、そうですよ。何といっても、緊張していましたからね
。今まで、ずっとボクシング一筋で生きてきて、他の世界の事なん
て、全く知らなかったんですから」
「ふーん、じゃあ、もう緊張していないんだ」
「ええ、ジェニー先生も美馬さんも親切にしてくれたから」
美馬は、嬉しそうに笑った。
「良かったわ、実を言うとね、最初どう扱っていいのか分からなく
て困っていたのよ。だって、ボクシングの元世界チャンピオンが、
後輩として、入って来たんですもの。いかつい、ぶっきらぼうな男
だと思っていたら、こんな可愛い僕だったもんだから、拍子抜けし
ちゃったわ」
勝也は、ちょっぴり、怒った顔をした。
「その、僕っていうのは、勘弁してくださいよ。子供じゃないんだ
から」
美馬は、ちょっと意地悪そうな目つきで勝也を見た。
「だあめ、だって、わたしの方がお姉さんなんだから、当然だわ。
逆らうと、デザインのレッスンしてあげないわよ」
「ちぇっ!ずるいんだから。分かりましたよ、でも、その内、追い
越しますからね。その時は・・・」
勝也は、最後まで言わなかった。
「なあに、その時は、仕返しするとでも言うの」
「そうですよ、こき使ってやりますからね」
美馬は、可笑しそうに笑った。
「おお、恐い、追い越されないように頑張らなくっちゃ。さあ、お
茶にしましょう」
二人は、デザインルームを出て、店から出ると喫茶店へと向かっ
た。
美馬と歩きながら、勝也は、先程、言わなかった言葉を思い浮か
べていた。勝也は、こう言いたかったのだ、”もし、追い越したら
僕と結婚して欲しい”と。
翌日、朝出勤するとジェニーが珍しく店におり、勝也に話し掛け
てきた。
「どう、勝也君、大分、なれたかしら?」
「ええ、おかげ様で何とか」
「そう、良かったわ。それはそうと、お願いがあるのよ」
ジェニーが、自分にお願いがあるとは、珍しいと思いながら、勝
也は、答えた。
「何でしょう?僕に出来る事なら喜んで」
ジェニーは、微笑んだ。どんな、男でもうっとりしてしまう魅力
に溢れた笑顔であった。
「そう、嬉しいわ勝也君。実はね、来月の最後の土曜日に仲間内の
ちょっとしたパーティがあるのよ。それで、その余興に協力して欲
しいのよ」
勝也は、躊躇した。
「えっ!余興ですかあ。いやあ、勘弁してください、僕は、ボクシ
ング以外何の取り柄もない男なんですよ。とても、余興なんて」
「いえ、勝也君にしか出来ないのよ。そう、実を言うとね、お客さ
ん相手にエキシビジョンマッチをして貰いたいのよ。何と言っても
元世界チャンピオンですもの、皆さん喜ぶわ」
勝也は、困った顔で暫く黙っていたが、やがて、意を決してきっ
ぱりと言った。
「ジェニー、いえ、先生、お断りします。恩人の先生の頼みで、是
非、受けたいのですが、それだけは、勘弁して下さい。僕の人生の
全てを掛けてきたボクシングを余興でやるのは、どうしても、出来
ません」
ジェニーは、落胆した表情で言った。
「そう、分かったわ。勝也君が、そこまで、言うのなら仕方ないわ
ね。でも、もう一度、考えてみてくれない。誤解しないで欲しいの
、決して、面白半分じゃないのよ、皆さん、本当にボクシングを愛
していて、一度でいいから元世界チャンピオンと同じリングに立っ
てみたいとおっしゃっていられるのよ。ボクシングファンの夢なの
よ」
勝也は、押し黙っていた。ジェニーが自分を笑い者にする筈はな
い。恐らく、パーティの出席者も真摯な気持ちなのだろう。勝也の
心は、揺れていた。
勝也は、ようやく口を開いた。
「ジェニー、皆さんが真面目な気持ちなのは、分かります。でも、
そうであれば、尚更、受けられません。なぜなら、僕は、もう、6
ケ月以上練習をしていないんです。以前みたく体が動きません。で
すから、皆さんを失望させるだけだと思います」
ジェニーは、尚も諦めなかった。
「勝也君らしいわね。そういう、真面目なところが好きなのよ。い
いわ、1ケ月間ボクシングの練習に専念しなさい。その間、デザイン
の勉強は休んでいいわ」
二人の会話を横で聞いていた、美馬が口を挟んだ。
「勝也君、受けなさいな。先生がここまでおっしゃられているんで
すから。それに、わたし、勝也君のリングの上の姿を見てみたいな
。わたしは、ボクシングは、興味なかったから、現役時代の勝也君
を見た事がないけど、きっと、素敵でしょうね」
勝也は、決心した。恩人のジェニーの頼みを断るのは、忍びない
し、それに、何よりも、美馬の言葉が決定的であった。思いを寄せ
ている、美馬に自分の雄姿を見せたかったのだ。
「分かりました、やらせていただきます」
「有り難う、嬉しいわ」とジェニー。
「素敵!楽しみだわ」と美馬。
二人の美女から、感謝されて勝也は得意満面であった。これから、
自分に訪れる運命など知る由もなかった。
翌日からの、約1ケ月間、勝也は、トレーニングに励んだ。驚いた
事に、ジェニーの家の地下にリングがあったのだ。
いくら、ボクシングファンとは、言ってもここまでするのかと勝
也は、呆れた。何せ、トレーニングに必要な設備は、全て揃ってい
るのだ。しかも、100坪はあろうかという広さで、パーティもこ
こで行うというのである。
ジェニーの説明では、ファンが高じて、このような設備を作って
しまい、何と、ジェニーが美容の為にボクシングのトレーニングを
しているのだと言う。
ジェニーが、恥ずかしそうに告白するのを聞いて、勝也と美馬は
、あっけにとられてしまった。
とにかく、勝也は、トレーニングに専念した。勝也の体は、現役
の頃と同じくらいに鍛えられた。しかも、最後の週には、ジェニー
の伝でどこかの大学のボクシング部の選手がスパーリングパートナ
ーとしてやってきて、パーティ前日には、完璧にコンディションが
整っていた。勝也は、このまま世界戦が出来るとまで思った。実際
には、手術で完治したとはいえ、一度網膜剥離をやっている以上、
正式な試合は、無理であったが。
いよいよ、パーティの当日である。勝也は、リングの上に立って
いた。
会場には、既に参加者が集まっており、立食のテーブルを囲みな
がら、談笑していた。
不思議な事に、客は、全て女性であったが、まあ、女性中心の集
まりなのだろうと勝也は、納得していた。
ただ、まさか、リングに上がって、勝也とエキシビジョンマッチ
をやるのは、女性ではあるまい。恐らくは、参加者の女性の夫達の
内、腕に覚えのある何人かが、順番で相手になるのであろう。
それよりも、勝也には、美馬の姿が見えない事の方が気になって
いた。何と言っても、美馬に自分の雄姿を見せるのが、最大の目的
なのだから。
やがて、会場の照明が暗くなり、リングの上だけが照らされた。
ジェニーが、マイクを持って喋り始めた。
「さあ、皆様お待たせ致しました。ジュニアバンタム級10回戦が
始まります」
勝也は、耳を疑った。10回戦など、聞いていない、自分は、パ
ーティの客相手に余興でエキシビジョンマッチを行うのだ。
しかし、ジェニーは、喋り続けた。
「それでは、元世界ジュニアバンタム級チャンピオン、川村勝也の
対戦相手をご紹介致します。我が、秘密の女子ボクシング団体、W
WC世界ジュニアバンタム級チャンピオン、白鳥美馬!」
勝也は、絶句した。
会場に、ゼルダの音楽が流れ、ドアが開き、ピンク色のガウンを
纏った、美馬が入場してきた。
勝也は、自分の見ている光景が信じられなく、茫然と立ち尽くし
ていた。
やがて、美馬は、リングに上がるとガウンを脱ぎ捨て、白いレオ
タード姿になり、グラブをはめた右手を勝也に突き出した。
「ふふ、びっくりした?可愛がってあげるわよ、坊や」
3、勝也VS美馬
リングの上で自分を不敵な笑みで見据える美馬の姿を勝也は、茫
然と眺めていた。余りの出来事に声も出なかった。
いつの間にか、リングのに上がってきたジェニーが勝也に向かっ
て喋り始めた。
「うふふ、驚いて声も出ないようね」
「ジェ、ジェニー、これは、どういう事ですか?悪い冗談は、止め
てください」
ジェニーは、冷ややかに勝也を見据えた。
「冗談なんかじゃないのよ、勝也君。おまえは、これから、美馬の
相手をするのよ。うふふ、お前は、知らないだろうけど、世界には
、秘密の女子ボクシング団体があって、私は、プロモーターの一人
なのよ。まあ、今日は、レフェリーも兼ねるけどもね」
美馬が口を開いた。
「本当はね、今日は、ランキング一位のアメリカ人選手と指名試合
の筈だったんだけど、相手が、一月前に怪我をしちゃったから、試
合が、流れちゃったの、それで、急遽おまえ相手に調整試合をする
事になったって訳よ」
ジェニーが続けた。
「本当は、おまえは四回戦の選手の相手でもさせるつもりで拾った
んだけど、まあ、仕方ないわね。美馬の胸を借りなさい。さて、何
ラウンドまで持つかしらね」
勝也は、屈辱で体が震えた。一体、この女共は、何を考えている
のだろうか。身の程知らずにも程がある。仮にも、元世界チャンピ
オンの自分に勝てるとでも思っているのか、勝也は、必死で心を静
めて、ゆっくりと口を開いた。
「どうやら、本気みたいですね。全く、何を考えているのやら、馬
鹿馬鹿しくてつきあいきれませんよ。帰らせて頂きます」
「あら、逃げる気」
美馬が嘲るように言った。
勝也は、美馬を睨みつけた。
「美馬さん、悪い事はいわないから、こんな世界からは足を洗うん
ですね。それに、ジェニーもです。二人とも、女だてらに、ボクシ
ングに首なんか突っ込んでいると、その内、大怪我をしますよ。そ
れに、男が命を掛ける勝負の世界に、女のくせにしゃしゃり出て来
られのは、不愉快です」
美馬の目が怒りに燃えた。
「おい、もう一度言ってごらん。ふざけるんじゃないよ、おまえこ
そ、男のくせに女に勝てると思っているのか」
勝也は、堪らず大声を出した。
「いい加減にしろ!それ以上、生意気を言うと、いくら女でも許さ
ないぞ」
ジェニーが、静かに言った。
「ふん、許せないなら戦いなさいな。本当は、恐いくせに虚勢を張
っているんじゃないの」
「ふざけるな!」
「ふざけてるのは、おまえでしょう!それに、冷静に考えてごらん
。おまえ、私に逆らって、この先、どうやって暮らして行くつもり
なのよ?おまえなんか、何の取り柄もないんだから、わたしに見捨
てられたら、たちまち路頭に迷うのよ。さあ、いい子だから、戦い
なさい。もし、美馬に勝ったら、もう、これきりにしてあげるから
。明日からは、又、デザイナーの修行をさせてあげるから」
ジェニーの言葉に、勝也は頭が冷えた。そう、確かに、今ジェニ
ーに見捨てられると、自分は、生活に窮してしまう。ここは、絶え
がたきを絶えて、この茶番に付き合うしかなさそうだ。それに、こ
の際、少し美馬を懲らしめてやるのもいいだろう。
「分かりました。そこまでおっしゃるのならやりましょう。その変
わり、美馬さんが怪我しても知りませんよ」
美馬は、可笑しくてたまらないという表情で勝也を見た。
「おまえ、正気?」
勝也は、努めて冷静な口調で言った。。
「美馬さん、その言葉をそのまま帰しますよ。まあ、ちょっと、痛
い目に会った方がいいみたいですね。まあ、怪我してお嫁に行けな
くなったら、僕が、貰ってあげますよ」
「いいわ、おまえが勝ったら、結婚してあげるわ。そのかわり、負
けたら、私のサンドバッグになるのよ。天井から吊って、ボコボコ
にしてやるからね」
勝也は、まるで、じゃじゃ馬慣らしだなと思った。まあ、いい、
この生意気な娘を屈伏させて、自分の物にするのも悪くはない。
当初、好意を持った美馬とは、大分、イメージが変わってしまっ
たが、それでも、美馬は美しかったのだから。
「いいでしょう、サンドバッグでも、何にでもなりますよ」
「その言葉、忘れないようにね」
「美馬さんこそ、忘れないように、僕と結婚するんですよ」
ジェニーが、マイクを手にして、喋り始めた。
「さあ、皆様、これより、試合が始まります。ルールは、10ラウ
ンド、10ポイントマストシステム、フリー・ノック・ダウン、偶
然のバッティングに依る負傷は、4ラウンドまでは、引き分け、そ
れ以降は、その前のラウンド終了までのポイントに依る採点となり
ます。スタンディング・カウントは無し、ダウンは、最終ラウンド
のみ、ゴングに救われます。レフェリーは、採点には、加わりませ
ん、3人のジャッジに依る採点です」
いつの間にか、リングのすぐ下に3人の女性が座っていた。
「さあ、二人とも、用意はいいわね!」
ゴングが鳴り響いた。
勝也は、完全に美馬を舐めていた。元世界チャンピオンの自分が
負ける筈はないと思っていた。よし、左ジャブだけで、戦ってやろ
う。ちょっと、強いジャブでも、女にはたまらない筈だ。
美馬は、軽やかにステップを踏みながら、左回りに勝也の前を回
っていた。生意気にノーガードだ。
勝也は、いきなり、踏み込んで素早く左のジャブを突いた。その
瞬間、勝也は、ロープにふっとんだ。美馬が、勝也のジャブに右を
被せたのだ。
勝也は、信じられなかった。美馬のパンチは、全く見えなかった
のだ。しかも、これが、女のパンチだろうか。勝也は、朦朧として
いた。効いていたのだ。ロープ際で、茫然としていると、美馬の左
ボディブローがとんできた。これまた、凄まじく重いパンチだった
。
「うっ!」
勝也が、苦悶の表情を浮かべて、体を曲げようとした、瞬間に美
馬の右のショートアッパーが勝也の顎を見事に捕らえた。
勝也は、リングに崩れ落ちた。
意識は、朦朧としていた。とても、立ち上がれる状態では、なか
った。ジェニーのカウントが8まで、数えられた時、勝也は、腕を
引っ張られて無理矢理立たされた。美馬が引っ張り起こしたのだ。
美馬は、そのまま、勝也を抱きすくめると、ロープに勝也を押し
付けて、右膝で勝也の股間をぐりぐりといたぶった。
「あっ、ああ」
勝也は、悲鳴をあげた。
美馬は、勝也の股間をいたぶりながら口を開いた。
「こんなんで、終わられて堪るもんですか。もっと、楽しませて貰
うわよ。それにしても、弱いわねえ。おまえは、大分参っているよ
うだから、このラウンドの残り時間、わたしが、抱いてあげるわ」
会場から、失笑が漏れた。もう、こうなったら、勝敗は明らかで
あり、すでに残酷ショーとなっていたからだ。ジャッジの一人が、
隣のジャッジに話し掛けた。
「とんだミスマッチね、実力差がありすぎるわ」
「まあ、仕方ないわよ。男相手じゃ、こんなもんでしょう。所詮、
鍛えあげた女に勝てる訳がないのよ」
「それにしても、男って哀れね。特にあいつは、自分がこのクラス
で一番強いと思い込んでいたんですもんね。男の世界チャンピオン
なんて、女の4回戦の選手よりも、弱いのにね」
ラウンド終了のゴングが鳴ると、美馬は、勝也を抱きかかえて、
勝也のコーナーまで運んだ。
「いい、特別に20分間、休ませてあげるから、試合を続けるのよ
」
勝也は、屈辱の余り、何も言えなかった。
10分が過ぎたあたりで、勝也の意識は、しっかりとしてきた。
勝也は、冷静さを取り戻した。そうだ、あの最初の一発を受けたか
ら、調子が狂ったのだ。確かに、美馬は、相当の実力者だが、自分
が冷静に戦えば、負ける相手では、無い筈だ。足を使い、ガードを
固くすれば、何とかなる。
2ラウンド開始のゴングが鳴った。
勝也、美馬共に、足を使って軽快に動きながら、相手の隙をうか
がうという展開になった。
お互いに牽制しあって、試合が膠着状態になった。何とか、活路
を開こうと、美馬が素早くステップインして、オーバーハンドライ
トを振るった。勝也は、その瞬間を待っていた。
勝也は、美馬のパンチをステップバックして、かわすと、バラン
スを崩した、美馬のテンプルに右フックを打ち下ろした。文句なし
のタイミングの筈だった。しかし、勝也のパンチは、空しく空を切
った。
美馬は、ナチュラルな防御感で、間一髪、バランスを取り戻し、
スゥエーで避け切ったのである。
次の瞬間、今度は、美馬の右アッパーがとんできた。勝也は、今
度は、しっかりとガードを固めて、美馬のパンチをブロックした。
しかし、美馬のパンチは、強烈だった。勝也のブロックを突き破
って顎を捕らえたのだ。勝也は、弾き飛ばされたが、何とかダウン
は、免れた。
美馬が前進してくる。勝也は、恐怖にかられた。物が違った。と
てもじゃないがかなわない。
勝也は、やけくそで、目をつぶって、右ストレートを放った。強
い手応えがあった。勝也のパンチは、美馬の顔面を捕らえたのだ。
しかし、美馬は、微動だにしなかった。
「ふん、おまえのパンチは、その程度なの、それじゃあ、蠅も殺せ
ないわよ」
勝也は、悟った。美馬は、わざと打たせたのだ。勝也に自分の力
を思い知らせる為に。
恐怖にかられて、勝也は美馬に抱きつきクリンチに逃れた。情け
なかったが、それしか、方法がなかったのだ。
勝也の顔は、ちょうど、美馬の胸の谷間に挟まっていた。
頭上で、美馬の勝ち誇った声がした。
「あらあら、おまえったら、いやらしいわね。おっぱいが飲みたい
の。いい年して、恥ずかしいわね。そういう悪い子は、お仕置きし
なくちゃね」
美馬は、凄まじい力でクリンチを振りほどくと、離れ際に、左シ
ョートアッパーを突き上げた。
勝也は、堪らずダウンした。
しかし、ジェニーは、悠然と「スリップ!」と宣言した。
「滑りやすくなってるからね、あっ、滑っちゃった」
美馬は、わざとらしく言うと、勝也の顔に跨っておまんこを押し
付けた。強烈な女の匂いに勝也のおちんちんは、はちきれんばかり
に固くなった。
目ざとく見つけた、ジェニーが勝也のおちんちんを鷲掴みにする
と、勝也は、美馬のおまんこ越しによがり声をあげてしまった。
観客から、野次が飛んだ。
「いいわ、そのまま、搾っちゃえ!」
勝也は、屈辱のあまり、涙を流し始めた。
美馬が言い放った。
「あら、嬉し泣きね。おまんこの匂いが嗅げてそんなに嬉しいの」
ジェニーが言った。
「それに、おちんちんも握って貰ってるんだから、そりょあ、感激
するわよ」
とうとう、2ラウンド終了のゴングが鳴るまで、勝也は、弄ばれ
続けた。
ゴングが鳴ると、美馬は立ち上がって、自分のコーナーに戻った
、勝也は、ジェニーにおちんちんを引っ張られて、悲鳴をあげなが
ら、コーナーまで、引きずられた。観客の爆笑に、勝也は、死にた
いと思った。身の程知らずに美馬とジェニーに生意気な態度を取っ
た事を心底後悔していた。
3ラウンド開始のゴングが鳴った。
勝也は、椅子から、立たなかった。
「ああ、お願いです。もう、堪忍してください。僕が、間違ってい
ました。とても、美馬様には、かないません。もう、許してくださ
い」
美馬は、にやりと笑うと、勝也を引っ張り起こした。
「さあ、戦いましょう。おまえ、わたしをお嫁さんにするんだろう
」
勝也は、泣き叫んだ。
「いやあぁっ、堪忍してえ!」
「駄目だね、さあ、私をお嫁さんにしてみな」
美馬は、強烈な右ストレートを打ち下ろした。勝也は、ふっとん
で、リングの外に叩き出された。
もう、これで、開放される、と勝也が、朦朧としながら、考えて
いると、誰かが、自分を抱き上げた。美馬だった。
美馬は、勝也を抱き上げて、最下段のロープの下から、リングに
戻した。
「スリップ!」とジェニーが宣言した。
それからは、正に地獄絵図であった。ダウンしては、無理矢理立
たされ、又、ダウンのくり返しであった。
最終10ラウンドに入った時には、勝也の顔は、腫れ上がり、原
形を留めていなかった。
美馬が、叫んだ。
「さあ、けりをつけてやる」
凄まじい形相で、美馬が右フックのトリプルを勝也のテンプルに
叩きこんだ。勝也は、失神してしまった。
4、敗者の定め
どの位、時間が経ったのであろうか。勝也は、全身に激しい痛み
を感じながら、意識を取り戻した。
勝也は、愕然とした。美馬が逆さまに立っているではないか。し
かし、すぐに、それが間違いだと分かった。美馬が逆さまになって
いるのではなく、自分が、ロープに逆さ吊りにされていたのだ。し
かも、全裸で。
美馬は、レオタードから、白のワンピースに着替えていた。
「おまえ、わたしのこういう格好の方が好きなんだろ。知っていた
のよ。おまえが、わたしを好きだった事くらい」
「あ、ああ、助けて」
「何が、助けてよ、嬉しいくせに。おまえ、わたしでオナニーして
たんだろう?」
図星だった。勝也は、恥ずかしさの余り、顔が真っ赤になってし
まった。
美馬が、嘲るように言った。
「あらあら、真っ赤になっちゃって。図星だったみたいね、でも、
残念ね。せっかく、わたしが側にいるのに、手が使えないから、
扱けないものねえ」
「あ、ああ!」
美馬の羞恥責めに、勝也のおちんちんからは、先走りが溢れ始め
ていた。
「うふふ、おまえ、濡れてきているよ。恥ずかしい子だね。仕方な
い、じゃあ、上のお口で食べてあげるわ」
美馬は、舌を突き出すと、勝也のおちんちんの雁の部分を一舐め
した。
勝也は、堪らずに声をあげた。
「あっ、ああ、いい!美馬様、いい!」
「情けない奴だね、おまえは、さっきまで、あんなに威張っていた
癖に、今じゃ、おちんちん舐められて、ひいひい言ってるんだから
」
美馬は、勝也のおちんちんを一気に咥えると、猛烈な勢いでしゃ
ぶり始めた。
「あっ、ああ、ああんっ!」
美馬の絶技にの前に勝也は、一溜まりも無かった。あっと、言う
間に美馬の口の中にお汁を搾りとられてしまった。
美馬は、にやりと笑うと、勝也のお汁を飲み込み、お汁で汚れた
おちんちんを舌で奇麗になるまで舐め回した。
勝也が、放心していると、再びおちんちんが咥えこまれた。驚い
て上を見ると、何と今度は、ジェニーがしゃぶっていた。それだけ
ではなく、リングの下に、観客が列を作って、勝也のおちんちんを
しゃぶる順番待ちをしているではないか。
勝也は、泣きじゃくった。さっきまでの、誇り高い自分は、もう
どこにもいなかった。ここに、いるのは、女に敗れて、惨めにおち
んちんしゃぶられている負け犬だった。
ジェニーにお汁を搾られた後、何人目かの観客にしゃぶられなが
ら、勝也は、意識が遠くなってきた。薄れゆく意識の中で、自分は
美馬のサンドバッグにされるのだと、観念した。
5、エピローグ
11月も半ばに入り、そろそろ、冬の気配がし始めた頃、喫茶店
で、大学生が二人、話していた。
「それにしても、川村は、どこに行っちまったんだろうな、最近じ
ゃスポーツ新聞にも、失踪の記事が出なくなっちまったけど」
「そうだな、俺は、きっと、どこかで、再起を目指して、トレーニ
ングしていると思うな」
「そうだな、あれだけの誇り高い男だ、どこかで、牙を砥いでいる
に違いないな。あーあ、本当に格好良かったよな」
「ああ、もう一度見たいな」
「全くだ」
その頃、ジェニー・風間の家の地下室で、勝也は、全裸で、天井
から、吊るされて、美馬に滅多打ちにされていた。
殴られれば殴られる程、勝也のおちんちんからは、止めどもなく
お汁が滴り落ちていた。
完