精神的な問題はカウンセリングや心理療法で治すのがよくて、薬をのむのは本当の治療ではないと考える方がいます。このため解熱剤や胃腸薬は薬に「頼る」という言い方をしないのに、精神科で使う薬は「頼らない方がいい」などと言われます。
精神的な問題にはいろいろなものがあります。「ゆううつだ」、「不安だ」、「元気がない」などというのは誰でも経験しますし、「意地悪される」、「盗聴器がある」などと考えるような極端なものもあります。ゆううつで元気がない人がいると、精神医学の専門的な知識のない人はすぐ、何がストレスになったのだろうと考えます。でもゆううつで元気のない状態は、例えば甲状腺機能低下症や脳腫瘍などという体の病気や、副腎皮質ステロイドなどという体の病気の治療薬が原因になることがあります。また精神分裂病やうつ病という現在まだ原因のよくわかってない病気で生じることもありますし、環境の変化やその人が元々持っている性格が関係することもあるでしょう。こう言うと、「分裂病なんてそんなに多くなくて、ほとんどが環境や性格の問題でしょう」とよく質問されます。しかし分裂病というのは120人に一人程度の割合で起こる珍しくない病気ですし、うつ病もそれ以上に多いと言われています。現在の状態を注意深く尋ねて、どんな病気に由来しているかを診断するのが精神科医の第一の役割であり、精神的な問題を解決するためには不可欠です。
さてカウンセリングか薬かの問題に戻りましょう。精神分裂病や躁うつ病の躁状態、うつ病の治療では薬物療法が必ず必要であり、いわゆるカウンセリングは必要だが補助的であるといってもよいと思います。主に分裂病の治療に使う薬は抗精神病薬、うつ病の治療に用いる薬は抗うつ薬といわれます。性格や環境が原因になっている場合は神経症と呼ばれ、カウンセリングや心理療法と薬が併用されますが、患者さんと精神科医がよく相談した上で、カウンセリングだけで治療を続けることもあります。神経症の治療には主に抗不安薬と呼ぶ薬を用います。これまで神経症と呼ばれてきた病気の中には最近、抗うつ薬や抗不安薬がよく効くことがわかってきた病気がありますから、治療方針は精神科医とよく相談して下さい。
とにかく治療法として、薬よりカウンセリングや心理療法が優るということはなく、病気によっては薬による治療が極めて重要であるということだけは覚えておいていだだきたいと思います。
「薬はこわいが、カウンセリングや心理療法は副作用がないからいい」という言葉を耳にすることがあります。カウンセリングや心理療法も、治療としてきちんと用いればとてもよい方法ですが、もしそれが治療対象としてふさわしくない病気や、適切でない方法でなされると、副作用が出ることは知っておいて下さい。かえって精神面の問題が複雑になって解決しにくくなったり、ゆううつ感が強まったりすることは珍しくありません。その意味ではカウンセリングや心理療法も、薬と同じように副作用が出る可能性があると考えておくべきです。以上