1999年6月公開で映画化もされた「催眠」の続編。しかし純粋な続編では無く、前作と同じ催眠による臨床心理療法をメインに描いているにすぎない。登場人物も舞台も違う。「催眠」はサイコミステリーでそれなりに見せ場はあったが基本的には地味な物語だった。だいいち、誰一人殺されない。
もっとも映画はストーリーを変えているらしくホラー的な要素が追加されているらしい。「連続変死事件がどうとか」と宣伝してるしね。そしてどうやら、映画のオリジナル設定が「千里眼」とリンクしているようだ。
「千里眼」は「催眠」の映画公開に合わせて出版された。最近よくある手だ。鈴木光司の小説は、今はもうほとんどこの方式である。実は「催眠」を読んだのが最近で、「千里眼」の告知がすでに文庫版の帯に印刷されていた。出版業界の常套句なんだろうと思う。でも続編って言ってれば売れると思ってるんだろう。実際売れてるみたいだし。
さて、そんなこんなを考えながら本作を読み出したらこれが実におもしろい。ノンストップアクションというコピーにウソ偽りがない。往年のパニック映画を彷彿させる。プロローグにまず度肝を抜かれた。まるで「リーサル・ウェポン4」のように最初にガツンとくる。
主人公は岬美由紀という女性。元航空自衛隊の幹部候補生で戦闘機イーグルのパイロット。剣道、空手2段。それが自衛隊のあり方に疑問を持ち退役。そのきっかけとなった件に絡んだ脳外科医の友里佐知子の元で臨床心理を学び現在は心理カウンセラーになっている。 容姿は背が低く幼い顔立ちで、声がアニメの声優のようにコロコロしているときた。僕はもう、このキャラクター設定だけでしびれたね。この手の戦うヒロインは大好きである。映画化したら、ぜひ深津絵里ちゃんに演じてもらいたい。
恩師の友利佐知子というのは千里眼の異名をもつ、優れた臨床心理士でもあり、東京晴海医科大付属病院院長である。人の心理を読むのが得意で何でも見通してしまうというところからこの異名がついた。催眠療法については「催眠」にも出てくるが催眠療法で相談者(患者とは呼ばない)の悩みを治療する。ちなみに一般的に言われる催眠術に対して著者は存在自体を否定している。
冒頭の怒濤のプロローグだが、これは突如、茨城山中の古寺が爆発炎上する。最近ちまたで「恒星天球教」と名乗るカルト教団の無差別テロが横行していて、どうやらこれもヤツらの仕業らしいとなる。しかしいつもの爆発物ではなく、米軍の横須賀基地から発射された弾道ミサイルだということが判明する。実は教団の工作員が厳重に管理された制御室に進入して打ち込んだというのが分かるのだ。
しかももう一機のミサイルが、タイマーにより首相官邸にも打ち込まれるのも時間の問題ということが発覚。これを止めるには本人しか知らない暗証コードが必要。国家安全保障会議が開かれ犯人からコードを聞き出すために友利佐知子と、兵器に関して知識のある岬美由紀が召集されることになった。
と、この冒頭だけでも一本のアクション映画ができそうなくらい、いきなりカマしてくれる。しかしこれは本作のほんの序章にすぎない。この後様々な事件が絡みあって収束していく。岬美由紀の相談者の一人に女子小学生がいるのだが、この子が東京湾観音に行くためにタクシーに乗る。この子は毎朝、何かに憑かれたように参拝をしている。そして疲労のために倒れた彼女のポケットから、例のカルト教団の教典が出てくる。
岬美由紀は、女の子を救うために自らこの事件の渦中に飛び込む。そして美由紀は悩み(身体も)傷つきながら獅子奮迅の活躍をする。そしてラストは大活劇。戦闘機同士のドックファイトまでいっちゃうのだ。サイコミステリーとしても絶品でアクション大作ともパニック超大作としてもイケてる。
そのくせ、ほのかな笑いまでもある。美由紀の元上司でメイン登場人物の一人である仙堂空将の、ささやかなエピソードは笑った。何を真剣に科学鑑定しているかと思うと、そんなかい! って叫びたくなるほどのこぎみ良いギャグ。緊迫したなかで展開するユーモアセンスはまさにハリウッド映画的である。
最初に書いたが、「千里眼」は「映画版・催眠」にリンクしている部分がある。それを読んだ後に知ったのだが、ははあ、たぶんこのことなんだなあということは想像つく。だから、この催眠シリーズにふれる正しい順番があるとすれば、1・「小説版・催眠」、2.「映画版・催眠」、3・「千里眼」ということになるだろうか。まあ、そんなことは気にしないでも全然関係なく楽しめるは請け合いだけど。
著者の松岡圭祐氏はこれが三作目なのだが、今後大いに期待できるエンターティンメント作家であると断言できる。久しぶりにハラハラドキドキする上質で面白い小説を読んだ。
誰が読んでも期待を裏切らないはずだ。「千里眼」! 自信をもって星みっつ! ★★★
ヒロイン岬美由紀には星いつつ!(笑) ★★★★★