【失われしアングラの聖地”にて】



今年は台風の当たり年らしく、次から次へと各地が風水害に見舞われています。幸い 東京は西日本各地ほどの影響は出ていません

が、それでも台風の猛威を前に人間とそ の営みのあまりのちっぽけさを痛感するこの頃です。まもなく台風24号の成長に伴っ て再び

天候が荒れるということですが、皆様のご無事をお祈りいたします。



さて、今日22日は長雨に湿りきった東京にとって久しぶりとなる晴天でした。東海道 新幹線の軌道工事を生業のひとつとしているワタシ

にとってはありがたい天気です。 台風のときは約650メートルのレールを一夜で取り替えるという大工事が延期となり ました。昨夜その

工事を無事に終えることができ、ホッとしたあとのピーカン。徹夜 明けの目をこすりながら地下鉄の出口を出ると、そこには光に満ちあ

ふれた南新宿の 街並みがありました。



今回訪れたのは「新宿文化シネマ」。都心・新宿の東側を南北に貫く明治通りと、東 口繁華街の真ん中を突き抜ける新宿通りの交差点

にある商業ビルのなかにその映画館 群(全4スクリーン)は存在します。ここは映画と飲食店の複合施設として、歌舞伎 町の映画館街

とともに都民の娯楽を支えてきました。

1970年代の初め頃にはこの場所に「蠍座」というアングラ劇場があったそうです。現 在では南口の中心部(新宿伊勢丹デパートの向か

い)にある“目抜き通り”ですが、 当時はたくさんのアングラ演劇人たちが去来していたんですね・・・。その頃にはフ ランス映画の映画

上映(主催:フランス映画社)もされていたようです。その後東宝 系列館となって、はたしてその精神は受け継がれたのか否か?



広大な新宿にあって、東口と南口はもっともこの十数年で変貌を遂げた地区だと思い ます。1989年に上京したワタシは、現在のひとつ

前の姿を目撃した最後の世代かも知 れません。一時期、とある人物の用心棒としてチンピラ稼業に片足を突っ込んでいた ワタシは、こ

の界隈をうろつく無数の“野良犬”の一匹でした。当時の東口には金券 屋やサラ金(現在の“街金”のような極悪金融業者)が乱立し、

そこから絞り出され たおカネが甲州街道高架の向こう(南口)にある「新宿場外」(中央競馬の馬券場) へ豪快に吸い込まれていまし

た。ガード下には夢果てた外れ馬券が逆巻くつむじ風に 踊り、漬け物石をのせたような無数の背中が行き場もなく右往左往する「敗者

の街」・ ・・東口や歌舞伎町でこの世の春を謳う笑顔の群れとは、たった数百メートルという 距離に隔絶された灰色の光景がそこにはあ

りました。

そののち現在では新宿の観光名所ともなっている「タイムズ・スクエア」が建設され、 いまでは毎日いろんなところから訪れるお客さん

で賑わっています。ワタシもいまで は錆びた刃物の代わりにピカピカの携帯電話を手にして、知人と楽しく語らいながら 買い物にいそし

んでいます。



ワタシが選んだのは『ヴィレッジ』という恐怖映画(でいいのかな?)。全408席と いう広々とした館内で、本日限りで掛け替えられる作品

を観ました。

「新宿で映画」って、長年都心に住んでたワリにはあまりしなかった行為ではありま す。どっちかというとワタシにとって新宿や渋谷は

“消費地”ではなく稼ぎ場所だっ たので、なぜか日頃うろつかない遠隔地の映画館に出向いてたような・・・。

でもちょっと懐かしい気がしましたね。男子トイレに行こうとしたとき、ロビーから 観客席の周りをグルッと4分の3周もしなければならな

い建物構造を思い出して「あ あ、ここって恐喝とか薬物取引のメッカだったんだよな」と苦笑しながら・・・。こ この男子トイレは、たしかス

クリーンの真裏にあるのです。なぜか新宿の映画館には、 似たような雰囲気の男子トイレがたくさんありました。きっと似たような用途

に使わ れていたことでしょう。



さておき『ヴィレッジ』、一見して「アイデア勝負の話題作」に終始しそうな映画で すが、これがなかなか奥が深い。最近自分の映画評に

まったく自信をなくしてしまっ たワタシですが「そう言いたがるヤツもいる」ってことで大目に見てください。奥は、 深いです。すくなくとも

作劇構成上のアイデア以上には。

『シックス・センス』のシャマラン監督が織りなす「美しい映像を愉しもう」という ぐらいの意気込みでご覧いただくとちょうどいいかも知れ

ません。「と、オススメし たがるヤツもいる」ってことで未見の皆様、どうかワタシにダマされてください。で も一切の責任はとれないワタ

シをどうかお許しください。



“映画の都”銀座に近い河岸(築地)で働きはじめて一年近く、界隈に馴染みの増え たワタシですが、聞くところによるとどうやら近頃

「雨の夜は映画館」という神話が 崩れつつあるようで。たしかに快晴の昼間っから映画を観て明るいうちに帰宅するの は悪くない。そう

いうことを実感した一日でした。



それでは皆様、いつかどこかの映画館でまたお会いしましょう。

たまには“お昼のロードショー”で・・・!?