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息子や孫を装って、高齢者らに電話をかけ「交通事故を起こし、至急示談金が必要になった」などと、指定した口座に現金を振り込ませて騙し取る「おれおれ詐欺」があとをたたない。
警察庁の調べでは、昨年一年間の「おれおれ詐欺」の認知件数は六千五百四件(うち未遂二千百八十五件)、被害総額は約四十三億千八百万円にのる。
被害が出始めたのは、一昨年秋ごろからだが、昨年五月以降急増し、ピークに達した十月には千三百二十件を記録、十一月以後も千件を超える異常事態が続いている。
参考までに、昨年一年間の月別認知件数を記録しておこう。
○一月 十五件
○二月 三十件
○三月 三十二件
○四月 七十四件
○五月 四百三十七件
○六月 二百四十七件
○七月 四百七十五件
○八月 六百十三件
○九月 七百七十五件
○十月 千三百二十件
○十一月 千二百九十五件
○十二月 千百九十一件
一月から五月にかけては、一挙に三十倍近く脹んらんでいる。
「おれおれ詐欺」が急増した時期は、山口組系五菱会のヤミ金融事件が摘発された直後のことで、ヤミ金融の道をふさがれたグループの残党が、新しい資金源を求めて動き出した側面が認められる。
たとえば、今年三月、警視庁捜査二課が摘発した六人組の「おれおれ詐欺」グループのリーダーのH(二四)は、元ヤミ金融業者だった。
Hは、昨年八月、実家のある青森に帰省する際、五人を仲間に誘い、車二台に分乗、おれおれ詐欺をしながら旅行することを計画、東京都の電話帳を車に持ち込み、片っ端から電話をかけながら東北自動車道を北上、青森で一泊したホテルからも電話をかけていた。直接の容疑は、都内の七十九歳の女性ら三人に、孫を装って電話をかけ「交通事故を起こした。示談になったからすぐに現金を振り込んでくれ」と百七十万円を騙し取ったというものだが、グループの容疑はほかにもあり、被害金額は数百万円に上ると見られている。
警視庁が昨年六月、解明した十人グループのリーダーもヤミ金融業者上がりだった。ヤミ金融への締め付けが厳しくなり、おれおれ詐欺に転向したと供述している。ヤミ金融で身につけたノウハウを駆使して、電話をかける役と口座の現金を引き出す役などを作業分担していた。
ヤミ金融を逆手に取った例もある。今年三月、所沢署に検挙されたT(四四)は、「ヤミ金から金を借りた。利息がついて返済が二百万円になり、暴力団の事務所に監禁されている。すぐに返済しないと帰れない」と所沢市内の無職女性(六五)に電話、別居している会社員の次男(三六)と思い込んだ女性を西武線所沢駅西口に呼び出し、代理人と称して現金二百万円を騙し取った。これは昨年九月の事件だが、Tは同様の手口で、ほかに数人から約六百万円を騙し取っていたことが発覚している。
手の込んだ手口では、今年二月、「今、ちょっと大変なことになった。また後で電話する」と電話をかけ、いったん切ったあと、十五分後に、再び「取引に支払う金を自分のミスで用意できなくなった。至急たてかえてほしい」と連絡、入間市内の無職男性(六一)からまんまと現金三百万円を振り込ませた詐欺事件がある。この男性は、電話の主をてっきり都内に住む会社員の次男と思い込んだという。
手口は巧妙化
「おれおれ詐欺」の女性版も頻発した。
「ばあちゃん、わたし、わたし。妊娠しちゃったの。助けて、中絶費用がいるの」などと泣き声で訴えるのが特徴。岐阜県中津川市では、この手口で昨年七月、七十一歳の無職女性と八十三歳の無職男性が孫娘を装った女から三十七万円と三十八万円を騙し取られている。
警察官、弁護士を装い、交通事故や修理費名目で現金を振り込ませる手口も目立った。
埼玉県蕨市の七十二歳の女性は、昨年十月「息子さんが交通事故を起こした」と警察を名乗る電話を受け、修理費などの名目で二百十五万円を振り込まされた。比企郡鳩山町の主婦(四四)は、「ご主人が交通事故を起こし、相手の車に損害を与えた。示談が成立したから三百万円を振り込むように」と電話を受け、取りあえず工面した百八十万円を振り込んだ。あとでウソとわかったが、すでに引き出されていた。埼玉県内では、昨年、この種の手口による詐欺事件だけで、未遂を含めると十件以上発生、被害額は五百万円を超えている。
今年四月、神奈川県秦野市の四十九歳の主婦が千二百万円を騙し取られた事件は実に手が込んでいた。
まず「ご主人が交通事故をおこした」と警察官を名乗る男から連絡が入った。つづいて「相手が妊婦で流産した。事後処理費などがかかる。指定口座に振り込むように」と命令口調で言った。その間に警察官役のほか、泣きじゃくるだけの夫役、「事件にはならない」と説得する弁護士役まで登場した。電話の向こうで泣きじゃくる夫の声を聞いたら、大抵の主婦がおろおろして、言いなりになるだろう。
極めつけは“おれおれ詐欺株式会社”の登場だ。
警視庁捜査二課が昨年十一月、摘発した二十二歳の無職男性Mを主犯とする五人グループがそれ。Mらは、十六歳〜十七歳の少年三人を「仕事をしないか」と“社員”に引き入れ、おれおれ詐欺の孫役などを演じさせていた。昨年十月、群馬県沼田市内の無職女性ら三人の高齢者に、孫などを装って電話をかけ「車で事故を起こした。修理屋から引き取るのに五十万円かかる」などと偽って計百五十万円を振り込ませたのが直接の容疑。
主犯のMは詐欺で稼いだ金を、いったんプールし、グループ内で月給として分配していた。Mら成人の容疑者二人は、毎月二十五日に五十万〜七十万円受け取り、孫役などを演じて電話をかける少年三人には二十万〜二十五万円。さらに少年には、詐欺の成功金額五十万円ごとに二万円の報償金をつけていた。少年らは一人で数十本の電話をかけており、被害総額は一千万円前後に及ぶと見られている。「おれおれ詐欺」をビジネス化した事件は、これが最初である。
「おれおれ詐欺」は、電話の内容を本人に確認するだけで簡単に防げる犯罪だが、被害は今年に入っても一向に衰えていない。
埼玉県内では、二月だけで、百三十件発生(うち未遂五七件)、被害総額は約九千五百万円に達している。一ヵ月の数値としては昨年五月以来過去最高である。一、二月のトータルでは発生件数は百九十二件(うち未遂七十九件)、被害額は約一億四千八百万円で、一件あたりの平均被害額も、昨年の百六万円から百三十一万円に脹らんている。
四月に入ってからも、なお被害が続いている。
南埼玉郡宮代町の七十六歳の無職女性は、孫を装った男に「交際相手の女性の手術費が三十五万円必要になった」と電話を受け、本人と思い込んで振り込んだ。帰宅した孫の会社員に確かめて、ウソとわかった。
さいたま市浦和区の六十二歳女性は、同居している長男を名乗った男から「会社で任されている仕事に支払う金が五百万ほど足りない。百五十万円振り込んでくれ。振り込んだら会社から預かっている携帯電話に連絡してほしい」と電話を受け、指定の番号に電話すると「あと百五十万必要だ」と言われ、さらに百五十万円振り込んだ。結局、三百万円を騙し取られた。
もう一件は,さいたま市中央区内の六十歳の無職男性のケース。別居している長男を名乗る男から「車をぶつけてしまった」と電話があり、「相手の車はベンツだ。買い替え代二百九十八万円を振り込んで欲しい」と言われ、その通りにすると、再び「車検代九十六万円が足りない」と連絡が入り、合計約四百万円の被害を受けた。
越谷市の七十五歳の無職女性は、孫を装う男から「お婆ちゃん。交際している女の子が妊娠してしまった。手術代が六十万円いる。お母さんには内緒にしておいて」と電話を受けた。「お母さんには内緒に…」というのは祖母にとっては殺し文句である。
七十歳代が被害最多
警察庁は当然のことながら、各都道府県警を通じて「おれおれ詐欺」の被害予防対策を積極的に推進している。にもかかわらず被害があとをたたないのは何故なのか。
家族間のコミュニケーションが欠落しているのが最大の原因だが、地域的な問題も若干ある。
被害は都市部に集中し、六割近くが関東地方で発生している。被害者の約八割が六十歳以上の高齢者で、七十歳代が最多。家族構成では六十五歳以上だけの高齢者世帯が半数以上を占め、そのうち単身世帯が約三割、しかも被害者の約七割は女性。高齢者世帯と女性が狙い打ちされている実態が浮かび上がっている。
被害金額は百万円以下が約六割。「このくらいなら高齢者は老後資金で払えるだろう」という犯人側の計算が読み取れる。
もちろん例外はある。
七十歳の男性の場合、孫を装った男から、借金返済名目で、数回にわたって計約千八百万円を騙し取られている。「これはいける」と思った相手からはとことん吸い上げる典型的なケースだ。
騙しの口実は、交通事故の示談が最多で全体の六二%(四〇三五件)、次いでヤミ金融などからの借金返済名目が一九%(一二六八件)、妊娠中絶手術費用名目が六%(三六七件)、その他が一三%(八三四件)となっている。
逮捕された容疑者の多くは、十代後半から三十代の無職男性で、足がつかないように携帯電話と架空・他人名義の預金口座を使っていた。
携帯電話をフル活用し、架空・他人名義の預金口座に返済金を振り込ませる手口は“090金融”と呼ばれるヤミ金業者が“開発”したものである。
架空・他人名義の携帯電話や、預金口座がまかり通る背景には、インターネット上の掲示板などで、その売買を行なっている口座屋の存在がある。口座屋は他人の名義を借りて預金口座をつくる場合が多いが、自分でいくつもの口座をつくって、口座屋に売却する者もいる。
こう見てくると「おれおれ詐欺」は、架空名義の携帯電話と、口座屋から預金口座を買い取らないと“商売”が成り立たないことがはっきりしてくる。
口座屋の暗躍
ところで口座屋は、具体的にどのようなかたちで“商売”をしているのか。
今年二月、警視庁と富山、福井、兵庫各県警の共同捜査本部が詐欺容疑で摘発した東京新宿区内の電話代行会社「F」の役員Hら四人は、二年間に数十人に千四百を超える銀行口座を作らせ、暴力団関係者らに転売、二千万円以上を稼いでいたという。
口座入手の方法は、十五項目にわたってマニュアル化されていた。まず夕刊紙に口座開設者募集の広告を出す。応募者には決まった暗証番号を使わせ、預金の最低単位の百円を入金させるなどして口座を作らせていた。口座の買入価格は、一口座二万〜三万五千円。ヤミ金業者や「おれおれ詐欺」のグループには三万〜四万五千円で売り渡していた。
この流れを図式化すると、F社→夕刊紙広告(口座開設者募集)→応募者が暗証番号を特定した口座開設→F社が応募者の口座買取→口座をプール→口座をヤミ金業者やおれおれ詐欺グループに転売という構図になる。
従って、ヤミ金や「おれおれ詐欺」グループの根絶を図るには、口座屋を押さえることが最も効果的なわけだ。
F社の役員らは「口座の売買が詐欺になるとは思わなかった」と供述したそうだが、開設された口座を本人ではなく、まったく別人が詐欺目的の金の振込先に使うのだから、これは明らかに詐欺補助行為となる。
今年二月、埼玉県警捜査二課と鴻巣署に逮捕された三十一歳の千葉県習志野市の会社員Mは、自分で作った五つの口座を他人に譲渡したことが詐欺に問われた。Mの供述によると、パチンコ店で知り合った男から「借金を棒引きにしてやる」と甘言で誘われ、開設した口座を譲った。
ところが、その口座が「おれおれ詐欺」の振込先に使われたのである。
昨年十一月、「会社の取引先とトラブルになった」と鴻巣市内の六十四歳の無職男性が電話を受け、息子からと思い込んで、指定の口座に三百十五万円を振り込み、あとでウソとわかった。その口座がMの開設したものだった。
Mは「詐欺に使われるとは思わなかった」と弁明したが、他人に譲渡する目的で口座を開設したことが「預金通帳とキャッシュカードを騙し取った」として詐欺に問われた。厳しいといえば厳しいが、当たり前のようにも思える。この種のウラ口座は、ほとんど犯罪に使われるからである。
借名口座の場合、開設者が「通帳を紛失した」などと弁明すると、実際そういう例がよくあるため、刑事責任の追及が難しくなる。しかし昨年十一月、大分県警は「おれおれ詐欺」に悪用された借名口座の開設者四人を詐欺容疑で、口座を買い取った人物も盗品等有償譲り受け容疑で逮捕している。
名義人が短期間に複数の口座を解説し、すぐに他人に転売しているウラを取り、転売目的を隠して口座を開設したことを詐欺に当たると判断した。
借名口座は架空名義や、ニセの身分証を使って作られた口座とは違い、本人確認を済ませていることから、口座の転売は必ずしも即違法とは言えない。何らかの事情で、どうしても自分名義の口座を使えない人もいるわけで、善意の「借名口座」があっても不思議はないわけである。
大分県警の例で明らかなように、地道な捜査の積み上げによって、違法行為を摘発することは十分可能で、口座の転売そのものを法規制する必要はないとの意見が強い。とはいえ、インターネット上で借名口座が野放し状態で売買されている現実に対しては、「法規制すべきだ」との要望がある。
昨年一月に施行された本人確認法では、各金融機関は個人が新しく口座を開設する場合には、名義人の身元を確認することが義務づけられた。これによって名義人が実在しない仮名口座の開設は困難になったが、口座の譲渡規制にまでは踏み込んでいない。
銀行と詐欺師のシーソーゲーム
話を元に戻そう。
先にもちょっと触れたが、警察は「おれおれ詐欺」の被害防止のためさまざまな対策を講じている。ホームページや地域安全ニュースなどの広報媒体で呼びかけたり、特に被害が集中している高齢者に対しては、訪問指導や公民館などで被害防止の寸劇を実施したりしている。
その際、注意事項としてあげているのは、@自分からは身内の名を呼ばず、必ず相手に名乗らせるA電話を切ったあとで身内に相談し、事実かどうかを確認するBおかしいと思ったらすぐ警察に連絡する…の三点である。これを守らない高齢者が騙されているわけである。
金融機関側も、事件の多発を座視しているわけではない。不正口座対策のプロジェクトチームを発足させた銀行もあり、警察から通報のあった不正口座は、自動的に強制解約の対象に指定している例が多い。
だが、ここにも問題がある。彼らは「おれおれ詐欺」に一度使った口座は足がつくのを警戒して、二度使うことはまずないからだ。昨年十二月、山梨県警が「おれおれ詐欺」グループが拠点にしていた東京・杉並のアパートをガさ入れしたところ、未使用の預金通帳三十点が見つかった。次々に振込口座を変えるために、プールしていたのである。
また、一度使った口座を捨てるのは、強制解約対策でもある。
だから金融機関が口座を強制解約しても、それがただちに事件再発防止にはつながらない。さらに新しい「借名口座」がぞくぞくと開設される現実がある。
全国銀行協会の調査によると、昨年一年間に強制解約された不正口座は、三千件を超えるが、実態は詐欺グループとのシーソーゲームなのである。
金融機関職員の気転や善意の第三者の協力で、被害が未然に防止されたケースを次にあげよう。
昨年十一月、秋田県の八十歳女性に孫を名乗る男から「先輩の保証人になり、急に百万円が必要になった。家族に内緒で振り込んで欲しい」と電話があった。女性は孫だと信じて銀行から振り込もうとしたが、受付の職員が不審に思い、家族に連絡、ウソとわかり未遂に終わった。
同じ頃、香川県でも類似事件が発生した。信用金庫を訪れた八十三歳の女性が、三百万円の振込みを依頼した。高齢者には不自然な大金の振込みに不審感を抱いた女性職員が事情を聞いたうえで身内に確かめたところ、詐欺とわかった。
いま一つ。これは特殊な例だ。
七十六歳の女性がタクシーを止め、「急いで銀行まで行って欲しい」と乗り込んだ。「お婆ちゃん、どうしたの」と運転手が訪ねると「孫が交通事故を起こした。すぐに被害者に六十万円を支払わないといけない」という。プロの運転手は事故の処理には精通している。事故を起こしてすぐに賠償金を支払うなどあり得ない。運転手は念のために会社に無線で連絡、会社が警察に通報し、虚偽と判明した。
日本だけの特異犯罪
「おれおれ詐欺」は、海外でも起きているのか。
スイス人ジャーナリストのJ・ル-イン氏に話を聞いた。
―「おれおれ詐欺」のような犯罪は西欧でも起きてますか。
―まったくないデス。聞いたこともない。
―ということは日本だけの特異な事件ということか。
―景気が悪いせいもあるが、上手い取引を口実にした詐欺事件や、富裕階級の身内を誘拐して身代金をゆすり取る事件は頻発している。でも「おれおれ詐欺」なんて事件はゼロだネ。
―なぜかな。
―文化が違うんだ。ヨーロッパでは親子、肉親の関係は大人になれば完全に自立している。それぞれがまったくの別人格だし、もたれあう習慣はない。日本では四十歳にもなる男が平気で親から援助を受けたり、三十歳の娘が家賃も払わないで、親と食事つきで同居したりしている。そしてそんな関係をみんなあたりまえだと思っている。
こんな関係をつづけていると、年齢では大人になっても、精神的にはいつまでも子供の域から出られない。そのくせ親子のコミュニケーションはよくない。親子が一堂に集まって将来の夢や生き方について、じっくり話し合う習慣はまったくない。むしろ親も子もそういうことは面倒くさいと避けたがる。
子供が親を頼るのは金がなくなったときくらいで、通常は見向きもしない。だから親も子も、たがいに相手が何を考えているのかまるでわからない。
その反面、親には奇妙な価値観が定着している。親には子供を守ってやる義務があるといった考え方だ。
社会的に自立していない十八歳以下の子供は、確かに守ってやる必要があるが、大人になった子供を、なぜ社会的弱者である高齢者が守らなければならないのか。
「おれおれ詐欺」そうした日本人の意識の空隙を逆手にとった犯罪だ。
たとえば爺さんが「わしじゃ。いま事故を起こした。金が五十万いる。すぐ振り込んでくれ」と電話をかけてきたとして、果たして息子や孫がすんなりと金を出しますか。「そんなもの払えるか」と、いうんじゃないですか。
さてみなさんはこのコメントをどう評価しますか。
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