夢のつづき
夢のつづき (第九節) 〜〜〜the second work from kizuato and k.s.l.
目覚めた そのあとも
夢のつづき みたいで
私は、目を覚ました。
顔に射す光が、眩しい。朝の日差しは、夏の力強さを、残していた。
起きかけの、薄く靄の掛かった意識の中で、
まだ、あのときの夢が、ちらついていた。
私、あのひと、姉さん達・・・
過去と、現在・・・
そして・・・あの夜・・・
夢の中で、幾つもの記憶が、駆け巡る。
ふと、気付く。
私が、目を覚ましたこと。
もう、覚める事はないと思っていた、永い夢から、脱け出したこと。
胸に、手をやると、微かに痛みが、蘇った。
薄紅色の痕は、あの夜の出来事が、夢でない事を、告げていた。
「・・・耕一さん・・・」
私は、ベッドを抜け出し、慌てて着替えると、廊下へ飛び出した。
胸の高鳴りを抑えながら、小走りに、あの人の部屋へ急ぐ。
期待と不安が、胸の中で、絡み付く。
角を曲がり、縁側の廊下へ差し掛かったとき、そこには、姉の姿が、あった。
「・・・千鶴姉さん・・・」
窓から差し込む朝の光に、姉の穏やかな表情が、照らし出される。
姉は、何も言わずに、優しく、微笑んだ。
「・・・ありがとう・・・姉さん・・・」
「・・・お礼を言わなきゃいけないのは・・・私の方・・・
・・・楓・・・行ってあげて・・・」
私は、姉の側をすり抜けて、あのひとの部屋へ向かった。
胸を押さえて、足取りを速めて。
溢れてくる、涙も、止められずに。
「どうしたんだ、楓のやつ、何急いでんだよ。」
「どうしたのかしらね・・・」
「千鶴姉さんも、変だよ。なんで、笑ってるの?」
「あとでね・・・さ、ご飯の支度、しましょ」
「気持ち悪いな、千鶴姉。」
「ふふ・・・」
すべて ふりだしからはじめて
あのひとの部屋が、近づく。
あのひとの気配を感じるたびに、足取りが重くなる。
何を迷う事も無いはずなのに、胸の鼓動と反比例して、歩幅が小さくなる。
新しい再会に、自分でも緊張しているのが、分かった。
静かに、戸口から、部屋の中を伺う。
そこには、小鳥のさえずりに起こされた、あのひとがいた。
あのひとは、顔を手の甲で塞いでいた。
遠くからでも、あのひとが、泣いているのが、解った。
「・・・楓ちゃん・・・」
私の名を呟く、あのひと。同時に、私の胸の中から、想いが溢れ出し、口からこぼれた。
「・・・耕一さん・・・」
私の声に、あのひとは、不意に跳び起きた。ただ、寝呆けているのか、入り口の私に
気付かないまま、涙も拭かずに、部屋の中を眺めていた。
「これ以上、感傷に浸らせないでくれよ・・・」
私の口元が、少し、緩んだ。真面目に悲しんでくれるあのひとの姿が、うれしくもあり
少し、可笑しくもあった。
私は、もう一度、あのひとの名を呟くと、背後から、ぽんぽんと、肩を叩いた。
「耕一 さん」
振り向いたあのひとは、言葉を失っていた。
あのひとの、驚いた顔は、一生、忘れられない、と思う。
握り締めた腕から、あのひとの温もりが、あのときと同じ温もりが伝わる。
「楓ちゃん・・・本当に、楓ちゃんなんだな?」
「はい」
何度、自分の存在を確かめたのだろうか、私は、そのたびに、優しく相槌を打った。
と、不意に、あのひとは、私を、抱きしめた。
あのひとの吐息と、鼓動が、直接に伝わる。
私は、自分の頬が紅潮してゆくのを感じながら、この感覚に酔っていた。
「あたたかい・・・夢じゃない・・・本当の楓ちゃんだ」
「耕一さん・・・」
「・・・楓ちゃん。・・・もう俺たちを縛るものは何もない。一族の掟も、呪われた血の宿命も、
もう、俺たちには関係ないんだ。・・・これからは、ずっとこうして近くにいられる。・・・やっと
あの時の誓いが果たせるよ。・・・楓ちゃん、もう、これからは、寂しい想いはさせないからな。
・・・きっと、幸せにしてみせるからな」
「・・・この温もりも、・・・この力強い腕も、・・・耕一さん、私・・・ずっと忘れませんでした。
あなたが言った言葉、きっと迎えにくるって言葉、私、忘れませんでした。・・・だから、いつか
こうして抱きしめてもらえる日を、ずっと・・・夢みて待ってたんです」
「楓ちゃん・・・」
私は、目を閉じたまま、あのひとの胸に、顔を埋めた。
言葉のあとに、長い沈黙が訪れた。
私も、あのひとも、ずっと抱き合ったまま、お互いを、感じあっていた。
そう、すべて、ここからはじめよう。ここから、ふりだしから、ぜんぶはじめて。
それが、あのときの私達と、いまの私達の、願い。
夢のつづきは、これからはじまるの、だから。
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