被告 桜井医師尋問調書
平成15年(ワ)第2331号
平成18年3月27日 午前10時00分〜午後17時00分
東京地方裁判所 民事第35部 703号法廷
被告 桜井昭彦 年齢 東京都新宿区中落合2-5-1 聖母病院
裁判長(官)は、先生の趣旨を説明し、本人が虚偽の陳述をした場合の制裁を告げ、別紙宣誓書を読み上げさせてその誓いをさせた。
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宣誓
良心に従って真実を述べ、何事も隠さず、偽りを述べないことを誓います。桜井医師
[被告側 池尾奏弁護士][被告側古谷和久弁護士]=[桜井医師]側の弁護士
[原告側 池原弁護士][原告側杉浦弁護士]=原告側の弁護士
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被告代理人(被告側池尾弁護士)
幸子さんは境界性人格障害だったということなんですけど、先生が扱った境界性人格障害の症例数は当時いくつくらいだったでしょうか。
[桜井医師]常時5人から10人の方を取り扱い、延べ50人以上は拝見していると思います。
[被告側池尾弁護士]境界性人格障害というのはどんな特徴がある病気なんですか。
[桜井医師]まず、情緒の波が激しく、平静な時や高揚しているときもありますが、些細なきっかけ、あるいはきっかけなく、ひどく落ち込み、うつ状態におちいり、そして破壊的な行動、自傷行為、自殺企図などを起こすことがしばしばあります。そして、対人関係でも不安定で、ひとりの人間を神のように崇めたり、悪魔のように罵ったり貶めたりすることがあり、長続きする対人関係がなかなか持てません。
[被告側池尾弁護士]境界性人格障害の患者さんが治療者側に恋愛感情を抱くというのはよくあることなんでしょうか。
[桜井医師]しばしばあります。
[被告側池尾弁護士]境界性人格障害は簡単に治療ができる病気なんですか。
[桜井医師]治療は簡単ではありません。
[被告池尾I弁護士]一定の決まった治療方法はありますか。
[桜井医師]このようにするとこうやって良くなるというようなルーチンは存在していません。
[被告側池尾弁護士]治らない例もあるんでしょうか。
[桜井医師]治らない例もあります。
[被告側池尾弁護士]かなりあるんでしょうか。
[桜井医師]ええ、相当数です。
[被告側池尾弁護士]自殺企図はどの程度の割合で見られるんですか。
[桜井医師]自傷行為を含めれば、ほとんどとは言わないまでも、かなりのパーセンテージで見られます。
[被告側池尾弁護士]既遂に至る例はどの程度ですか。
[桜井医師]10%をやや下回ります。
[被告側池尾弁護士]幸子さんの境界性人格障害の発祥時期はいつ頃だとお考えですか。
[桜井医師]まず人格の形成という点からは、小学校3年生の時に刃物を持ち出し、中学3年の時にも自殺企図があるという記録がありますので、境界性の人格障害の基盤はかなり早い時期からあったのかもしれません。しかし、それが症状として発露して顕在化するのは平成6年9月、死にたいという、うつ状態により東京女子医大にかかられた以後、平成6年の9月から12月頃、その頃と考えるのがよろしいかと思います。
[被告側池尾弁護士]その原因はおわかりになりますでしょうか。
[桜井医師]原因というのは、精神疾患について一般になかなか難しいですが、一つは体質的な因子、傷つきやすく脆弱な体質、それによって些細な刺激でも大きなダメージを受けることがあります。そして環境要因、不安定な環境により、やはりさらに傷つきやすさがふえていきます。いじめ、虐待、その他の非常に辛い経験によって境界性人格障害が発祥したり、ひどくなったりすることはよく見ることです。
[被告側池尾弁護士]今回、ご家族の問題というのは何かあるんでしょうか。
[桜井医師]書証にありますように、かなりございます。ご本人が生まれる前、母上が大量服薬されたこと、そして、ご本人思春期の頃に母上は、うつな状態にあったようで、死にたい気持ちをしばしば訴えられていたこと、そして、ご本人大学受験時におばあさまが自死を遂げられ、それを助けられなかったこと、その他家庭環境がありますが、そこまで述べさせていただきます。
[被告側池尾弁護士]幸子さんの自殺企図には特徴はありましたか。
[桜井医師]非常に大きな特徴があり、突然に始まり、これ、特に平成7年5月17日の自殺企図が典型なのですが、全く前触れなく、その日の昼にお腹が痛いと訴えてはおられましたが、夕方を過ぎて、自分でもわけがわからないのだが、オートマチックに病棟から出ていくというような行動をとられて、千鳥が淵まで行って首を吊ろうとすると。不連続な自殺企図をなさるという特徴がありました。
[被告側池尾弁護士]前触れがないということですか。
[桜井医師]そう。
[被告側池尾弁護士]それは一般的な境界性人格障害のパターンというか、一般的なものとはちょっと違うということなんでしょうか。
[桜井医師]ええ、非常に珍しいと思います。普通は前触れがあったり、きっかけ、傷つけられたとか、そういうきっかけはございます。
[被告側池尾弁護士]幸子さんは慶応大学病院入院以前にも自殺企図はありましたか。
[桜井医師]ありました。平成6年12月頃でしたか、自殺目的で薬をため込もうとしたり、それから、ハンカチーフですか、それで首を絞めようとしたりしたことがありました。
[被告側池尾弁護士]慶応大学病院入院後なんですけど、入院直後、慶応大学病院では主治医が2名ついて、メンバーが山田医師、その指導医として先生がついたということですよね。
[桜井医師]そうです。
[被告側池尾弁護士]この頃、主治医2人の面接回数は週何回でしたか。
[桜井医師]山田医師はほぼ毎日、私は週2日程度です。
[被告側池尾護士]夜間に面接をしたこともあるようですが、どういう理由だったんですか。
[桜井医師]一つには、何か患者さんが体の調子が悪いとか、患者さんが不調を訴えた場合、もう一つには、当直で夜間回診する場合に、一言二言お話しをしても、それを記録に残すことがございます。大学病院というのはそういうところでございますので、そのようなことがあると思います。
[被告側池尾弁護士]慶応大学病院では、この当時からチーム医療がとられていたんですよね。
[桜井医師]ええ、そのとおりです。
[被告側池尾弁護士]全ての患者さんに、幸子さんと同じように、2名の主治医と担当の看護士がついたんですか。
[桜井医師]そのとおりです。
[被告側池尾弁護士]担当者やスタッフの間でミーティングなどを持たれていたんでしょうか。
[桜井医師]ええ、頻繁に持たれていました。
[被告側池尾弁護士]5月17日に千鳥が淵での自殺未遂があったんですけれども、その時以来、先生は、幸子さんの病気を治療するために、まず周囲の人と信頼関係を持てること、それから言葉で自分の感情を表現できるようにすることが重要というふうに考えましたよね。
[桜井医師]はい、そのとおりです。
[被告側池尾弁護士]言葉で感情を表現するというのはどんな意味をもつんですか。
[桜井医師]いきなり行動が出るのではなくその前に言葉で表現できるようになって、まず一つは安全になります。そして、言葉で表現する練習をしているうちに自分の感情が、見えないものがだんだん、ああ、いま、自分はなにか腹が立ってこんなことをしてるんだなとか、そういうことがわかるようになってきます。そしてまた、周りの人とのコミュニケーションも良くなりますから、具合も良くなりやすいし、助かりやすくもなるわけです。
[被告側池尾弁護士]原告側が指摘している3つの方針というのがあるんですけど、まず、わがままを許す、2番目に、お母さんと面接をする、3番は、お母さんに主導権を与えるというのは正確な理解なんでしょうか。
[桜井医師]母親と面接をしたことは全くそのとおり、週1回行われています。お母さんに主導権を渡すと言うことは、それまでお父様が主導だったので、少し普通の、母親が少し子どもに近く、父親が少し遠いという程度の、普通の親子3人関係に近い形に持っていったほうがいいのではないかということです。もう一つ、わがままということについてですが、これは記載もありますが、具合の悪い部分の幸子さんについても十分お話を聞いてほしいと言うことがその一つ、そしてもう一つは、危ないこと、とにかくいきなり飛び出しちゃって自殺企図をする、それはいけない、ですが、危なくないことで自由をほしがることは、それは許容していいのではないか。それは病棟の規則などは当然守らなければいけませんけれども、そういうことです。
[被告側池尾弁護士]千鳥が淵の自殺企図以降の先生の面接回数は何回ですか。
[桜井医師]週4回です。
[被告側池尾弁護士]1回あたりの時間は。
[桜井医師]50分から60分です。
[被告側池尾弁護士]患者さんの症状のレベルによってもちがうんでしょうけど、先生は他の患者さんにも同じように面接をされていたんでしょうか。
[桜井医師]そのようなやり方をしたことは時々あります。
[被告側池尾弁護士]先生はその当時、患者さんは何人お持ちだったんですか。
[桜井医師]研修医との二人組みで、おおむね2人から、多くて4,5人、夏休み時期は少し多くなるという感じですね。
[被告側池尾弁護士]時には面接時間がオーバーすることもあったようなんですけど、その理由はなんですか。
[桜井医師]慶応大学病院時代には、面接時間の伸びについてはかなり神経質にコントロールされていて、記録されている2時間ということが一回と、3時間ということが一回ありまして、それ以外は多少、5分、10分ということはあるにしても、それほど延びたことはないのではないかと思います。
[被告側池尾弁護士]その2回の理由はなんですか。
[桜井医師]それは患者さんの状態が不安定だったためなんですけれども、2回とも、その前にエピソードがありました。
[被告側I弁護士]面接回数を減らしたということはあるんですか。
[桜井医師]平成7年11月、慶応大学病院退院の直前になって、私の面接回数を週2回に減らし、その代わりに周囲のスタッフで、もともと手厚くスタッフは関わっているんですが、さらに厚く関わっていこうというやり方をやった時期があります。
[被告側池尾弁護士]その理由はなんですか。
[桜井医師]患者さんが非常に私一人に執着してしまうので、それだとスタッフで抱えるということがやりにくい。だから、みんなでそれを少しでも分担して背負っていこうと。そのことによってバランスがとれると、多少患者さんも安定するかもしれないということです。
[被告側池尾弁護士]慶応大学病院では、幸子さんについて、どのような治療を行っていたんですか。
[桜井医師]一番は、安全確保と、それから安心できる居場所を作るという全体の環境のコントロールです。希死念慮が強かったために行動制限がかなり長い間行われていて、この行動制限とか外出を許可するかどうかとか、そういうやりとりが枠組みになっていました。安心できる場所がないと境界例の方は不安定になっちゃうんで、まず、環境的に安心できること2つ目が薬物療法。これは当初、うつとして入院して、抗うつ薬療法を始めましたが、5月17日の自殺企図で、かなり危険な状態であって、しかも精神病的要素も疑われるということが病棟医長Hとの相談、彼の対診などでも現れましたのです。
[被告側池尾弁護士]薬物療法をしたということですか。
[桜井医師]薬物療法をしました。
[被告側池尾弁護士]そのほかは。
[桜井医師]3つ目に精神療法。個人精神療法、医師の精神療法と、医師は二人ですね、研修医と私、そして担当看護婦、その他のナーススタッフ、そして病棟婦長もこの方に多く関わりました。
[被告側池尾弁護士]精神療法というのはすごくたくさんあるわけですよね。
[桜井医師]そのとおりです。
[被告側池尾弁護士]先生は精神分析をやっていたわけなんですか。
[桜井医師]いいえ、ちがいます。精神分析的な知識を活用した、しかし、精神医療という大枠の中で精神分析的な知識を用いた精神療法を、その大学病院の状況にあわせてアレンジして行っておりました。
[被告側池尾弁護士]中久喜先生は陳述書の中で、週4回の自由連想法という精神分析は境界例には効果はない、むしろ逆効果だというふうに書かれているんですけど、このような考え方が当時常識だったというふうにおっしゃっているんですけど、そのような常識というのは当時あったんでしょうか。
[桜井医師]それは常識ではありません。
[被告側池尾弁護士]現に、このような治療を境界例の患者さんにやっている先生はいらっしゃいますか。
[桜井医師]ええ。精神分析でも英国流の精神分析では、境界例、さらには依存症や精神病的患者に対してまで、週4回から6回の精神分析療法を行います。それは日本でも行われていることです。
[被告側池尾弁護士]先生の治療によって幸子さんに前進はありましたでしょうか。
[桜井医師]ええ、ありました。
[被告側池尾弁護士]どんな前進がありましたか。
[桜井医師]一つは、私、スタッフ、何人かのスタッフにはある程度の信頼感を持って、とにかく自分の気持ちをよく話すようになりました。そして、話すようになることによって行動も少し安定してきて、だんだん他の患者さんなんかとも関わるようになって、病棟で卓球したりとか、そういうこともあるんです。そして、そういう中で、この慶応大学病院入院中に、大きな自殺企図は、退院に至るまで一度も起こっておりません。
[被告側池尾弁護士]集団療法なんかもできていたんでしょうか。
[桜井医師]そうですね。集団療法で音楽やったり、物を作るのが得意だったんです、細かくて。
[被告側池尾弁護士]幸子さんが先生に対して個人的な関係を持ちたいというふうに具体的に口にし始めたのはいつ頃ですか。
[桜井医師]9月初旬以降です。
[被告側池尾弁護士]先生に対する恋愛感情というのは何が契機で発生したとお考えですか。
[桜井医師]一つは、過去の恋人の彼との関係で断られたこと。8月11日頃です、8月中旬に昔の彼と面会され、そして、あからさまな拒絶を受けました。その後2週間ぐらいショック状態っていうんですか、呆然としたような状態が続いていたんですが、その時期に、同時に、ご両親との関係も悪くなりました。その両方の行き場をなくした状態で、私に恋愛と依存を両方一緒にくっつけたような、しがみつきを強く生じたと思います。
[被告側池尾弁護士]先生は幸子さんやご家族に対して恋人役をするというふうに言ったことはありますか。
[桜井医師]ありません。
[被告側池尾弁護士]全くないですか。
[桜井医師]全くありません。
[被告側池尾弁護士]お嬢さんを下さいといったらお父さんは驚くかなとか、年齢が違い過ぎるから結婚はあきらめたとか、そういうようなことを言ったことはありますか。
[桜井医師]そのような趣旨のことを申し上げたことはありません。
[被告側池尾弁護士]幸子さんの恋愛性転移が完全に解消されれば、幸子さんの自殺企図は解消されたとおもいますか。
[桜井医師]そうではありません。
[被告側池尾弁護士]先生は、幸子さんが恋愛感情を口にした時、どんな対応をされていたんでしょうか。
[桜井医師]恋愛感情を彼女が口にされた時には、治療者、医者というのは、あなたが病気を治して幸せになるためにいるんで、そういうふうにやってるし、そういうふうに関わっていると、そういう気持ちでやっているんだと、だから、あなたがそういう気持ちを持つってことは、それは一人の人間の気持ちとしては仕方ないし、尊重するしかないが、それは現実化することはできないんですよと、そういうことを繰り返し述べてます。
[被告側池尾弁護士]それはカルテにもいろいろな記載がありますよね。
[桜井医師]そのとおりです。
[被告側池尾弁護士]幸子さんは平成7年12月に慶応大学病院を退院されましたけど、その後、先生が外来で面接を続けてらっしゃいますよね。
[桜井医師]はい。
[被告側池尾弁護士]面接は週何回でしたか。
[桜井医師]慶応大学病院退院後は週2回です。
[被告側池尾弁護士]平成8年4月には先生が済世会中央病院に移られて、外来で診ていたのですよね。
[桜井医師]はい。
[被告側池尾弁護士]その時の面接は週何回でしたか。
[桜井医師]週1回です。
[被告側池尾弁護士]済世会中央病院の外来通院時代についてZ先生が、定期面接以外にも電話面接、母親との面接、Qとの面接など、治療構造が全く安定せず、治療が進んでいないと言うふうに陳述書で述べているんですけど、この意見に対してはどうお考えになりますか。
[桜井医師]状態が非常に悪化した時の臨時の電話を受けることは、当然、安全配慮上も必要ですし、母親面接、あるいは親しい友人のサポート、主なサポーターになっている方でしたから、そのような方と面接することは治療の大事な一部であって、このZ医師の書かれたことはちょっと考えられません。
[被告側池尾弁護士]平成8年8月から、幸子さんは長谷川病院に入院されましたよね。
[桜井医師]はい。
[被告側池尾弁護士]約1年接触がなかったわけですね。
[桜井医師]はい。
[被告側池尾弁護士]この間、先生のほうから幸子さんにコンタクトをとろうとしたことはありますか。平成8年8月からモーニングワークが始まるまでの間です。
[桜井医師]全くありません。
[被告側池尾弁護士]平成9年10月に中久喜先生からモーニングワークをしてほしいというような話がありましたよね。
[桜井医師]はい。
[被告側池尾弁護士]先生は最初からこれに応じているんですか。
[桜井医師]以前の経緯がありますので、慎重に考えるべきと考えて、中久喜氏と相談しました。
[被告側池尾弁護士]結局、先生が応じたのはなぜなんですか。
[桜井医師]以前の状況を考えれば引き受けるべきではないかとも考えたのですが、私は直近の、その間、一年間の本人の病状を拝見しておりません。中久喜氏は高名な精神科医、精神療法家と知られておりまして、私もその評判を存じ上げていたので、彼の判断を信頼しようと決断した次第です。
[被告側池尾弁護士]モーニングワークが始まる直前に幸子さんは八王子の精神科病院に入院していたそうなんですけど、先生はこのような事情を中久喜先生とかご家族から聞いていましたか。
[桜井医師]誰からも聞いておりません。
[被告側池尾弁護士]知ったのはいつですか。
[桜井医師]本係争によってですね。
[被告側池尾弁護士]カルテが出てきてですか。
[桜井医師]カルテが出てきて知りました。
[被告側池尾弁護士]このモーニングワークでは特殊な条件が設定されましたよね。
[桜井医師]はい。
[被告側池尾弁護士]どんな条件ですか。
[桜井医師]一つは、このモーニングワークの作業の中で私は、通常の医者、治療者として関わるのではなく、彼女のモーニングワークを助けるための協力者として関わるということ。もう一つは、私の書いたモーニングワークの面接の記録が中久喜氏にファクスされて、それは患者さんにも回覧されるということです。
[被告側池尾弁護士]モーニングワークが始まった後、幸子さんは先生に恋愛関係になることを求めてきたわけですよね。
[桜井医師]はい。
[被告側池尾弁護士]先生は、幸子さんがいうような恋愛感情もないし、恋愛関係にもなれないよということは伝えていますか。
[桜井医師]ええ、何回も伝えています。
[被告側池尾弁護士]カルテにも記載はありますよね。
[桜井医師]そうですね。
[被告側池尾弁護士]原告側は先生が恋愛感情を告白したというふうなことをおっしゃっていて、いくつかカルテを引用しているんですが、一般論として、先生はどんなときにどんな経緯でこれらの言葉を使っているんですか。
[桜井医師]まず、このモーニングワークを始めた当初、非常に彼女は状態が悪く、しかもさらに悪化し、すぐにでも自殺企図を起こすという可能性が相当にある状態だということ。非常に危なかったわけです。そして、私との過去のつながり、ある程度は医者、治療者と患者としてでも気持ちが通じ合ったり、お互いの絆があると。で、恋愛感情という物を否定すると、この方にとってはすべての絆を否定されることになってしまって、完全な見捨てられた状態になってしまうと。
[被告側池尾弁護士]例えばどんな経緯の時にこういう言葉を使ったのか。
[桜井医師]これは、それを始めたすぐの時期にも、ちょっと、証書がありますか。
[被告側池尾弁護士](乙A第7号証を示す)
49頁は、前のページを診ると、平成9年11月21日のファクスで、11月19日のことを話していますよね。
[桜井医師]うん。
[被告側池尾弁護士]49頁の真ん中のあたりを見ると「お互いに実際の恋愛関係にはならない」云々というような箇所があるんですけど、先生がこのような表現をした時には、どんなことがあったんですか。
[桜井医師]その前のページ、48頁、セッション内容の規定の時間が非常に乾燥した感じで進行し、最後のほうでは、もう今回で終わりでいいですね、先生のためにもっと聞きたいことはありますかという感じで、言外に、この方はこのように表現するんですから、もう死にますからいいですねというふうに伝えてきます。私も慌てて、それで、面接の最初のほうで彼女が言っていた話を聞こうとします。そこから、何で私は桜井医師先生に恋愛感情を持ってしまったのかと、私は相手が好きでないとこちらから好きになったりしないのにという話題をしたりします。
[被告側池尾弁護士]それで、幸子さんの方から、もう死にますからというような話があって、先生に恋愛感情という言葉を引き出そうとするような会話がずっと、どんどん続くということですか。
[桜井医師]これは中久喜氏への報告で、好きでなかったら死ぬというようなやりとりを露骨には書けないのですけれども、45分間経過してる間のやりとりは、先生はどうせ私のことなんか考えていないんだろう、ああ、だから私のためにもっと聞きたいことありますか、もう来ませんみたいな、そういうやりとりが延々と続くという、これは一つの基本的なパターンでした。
[被告側池尾弁護士]例えば11月19日の話ですけど、Qさんの陳述書を見ると、11月12日の深夜に、この時に先生との間でやっぱりセッションが一回目にあって、その日の深夜にQさんとの間で押し問答が続いて自殺の危険があって、3時間、自殺をやめなさいという説得が続いたというようなことが陳述書に書いてるのはご覧になったと思うんですけど、そのような状態が19日の時も続いてたということなんでしょうか。
[桜井医師]ええ、その押し問答というようなものであると思います。
[被告側池尾弁護士]しかも、乙Aの47頁の真ん中のところに「母上が本人に私が結婚したことを話してしまった」と、「(母上も最初に「私が失言してしまって」と言っておられました)という記載があるんですけど、下の方をみると、平成9年11月13日のことですね。
[桜井医師]はい。
[被告側池尾弁護士]ファクスが送られていて、結婚したのがわかったのは一回目のセッション、11月12日のことでしょうか。
[桜井医師]正確な記憶がありません。12日か13日の間なのか、12日の直前なのかが正確でありません。
[被告側池尾弁護士]いずれにしても、その頃に先生の結婚が幸子さんにわかってしまって、かなり不安定だったということなんでしょうかね。
[桜井医師]そのとおりです。
[被告側池尾弁護士]A7の82頁、太い文字で書いてある頁なんですけど、これは頁が逆になって83頁から続くようですが、1月7日のセッションのことですよね。先生が82頁に書いてあるような、双方向に恋愛感情はあるというような、この発言をした時にはどんなことがあったんですか。
[桜井医師]これは電話で、ラブレター出しても年賀状しか返ってこないと、私は結局あなたにとって大したものでなくて邪魔者なんだと、邪魔者じゃありませんという押し問答をするんですが、結局は恋愛感情ということばをこちらが出すまでは延々と、死ぬ、あるいは死ぬとはっきり言うこともあれば、希死念慮をほのめかすこともあり、じゃあもういいですと言うこともあり、それを延々と、これは本当にこのとき延々と続けられました。
[被告側池尾弁護士]82頁の真ん中あたりに幸子さんのことばとして、「あれだけ押し問答した後でボールを投げたら好きだと言ってくれるものですよ」と書いてありますけど、これは幸子さんのいったことなんですよね。
[桜井医師]そのとおりですね。
[被告側池尾弁護士]幸子さんもそのように考えていたということなんでしょうか。
[桜井医師]そのとおりです。
[被告側池尾弁護士]幸子さんは先生が愛情という言葉を使えば納得することもあったんですか。
[桜井医師]ええ、愛情で納得することもありましたし、私はあなたのことを死んでほしくないとか、気にかけているとか、元気になってほしいってことで納得されることもありました。
[被告側池尾弁護士]でも、恋愛感情という言葉を使わないと納得しないこともあったということなんですか。
[桜井医師]ええ、そこまでどうしてもいわないと納得しないことがたびたびありました。
[被告側池尾弁護士]ここで先生が愛情という言葉を使わなければ、幸子さんはどうなっていたと思いますか。
[桜井医師]即時の自殺企図と思われます。
[被告側池尾弁護士]そうすると、先生としては、こういう言葉を使って救命をするのか、自殺されても仕方ないということで突き放すのか、どちらかだったということですか。
[桜井医師]そのとおりです。
[被告側池尾弁護士]聞くまでもないことなんですけど、治療関係をまず安定させなければ、治療自体することはできないですよね。
[桜井医師]そのとおりです。
[被告側池尾弁護士]境界性人格障害の場合にも、治療の前にはまず安定した治療関係を作らなければいけないというふうなことは文献にもたくさん書いてありますよね。
[桜井医師]はい。
[被告側池尾弁護士]先生が愛情という言葉を使う時の治療的な意味はどんなところにありますか。
[桜井医師]愛情という言葉を用いておりますけれども、やはりこと方との間で一度はできていた時期もある、慶応大学病院に入院中ですね、基本的な人間同士の信頼、それは治療上の信頼関係といってもよろしいんですけれども、人間と人間として信頼しあえるというものを取り戻さなかったらば非常に危ないであろう。第二には、その信頼を壊したままにしてしまえば彼女の病気も非常によくなりにくいであろう。基本的な信頼の上に友情とか恋愛とかそういうものが、いろいろ建物が建つんですけれども、この方の場合にはその恋愛という建物を倒しちゃったら土台が全部ぶっ壊れちゃうわけです。そうなると、もう完全なトラウマ状態で、非常に危ない状態になります。そのような危険は私はこの時期には冒せませんでした。
[被告側池尾弁護士]幸子さんは恋愛感情以外愛情とは認められないというような、認知のゆがみというような状態があったというようなことなんでしょうか。
[桜井医師]ええ、完全なダイコトミー、完全な二者択一でした。このセッション開始から、かなりの期間そうですね。
[被告側池尾弁護士]そうすると先生も、恋愛感情という以外にも愛情はあるんだよというようなことで、幸子さんの歪みを修整していくことも治療的な役には立ったということなんでしょうかね。
[桜井医師]当初は不可能でしたけれども。当初ですと、ああ、人間愛ですね、わかりましたとか、そういうふうになりまして、じゃあ帰りますっていう、そういう感じになりますから。だんだんわかるようになっていってますね。
[被告側池尾弁護士]帰りますというのは、もう危険だということなんですね。
[桜井医師]うん、来週も来ませんという、その間に死んでますということになります。
[被告側池尾弁護士]境界性人格障害の治療において、愛情を教えると病理を悪化させるとか自殺を誘発するというような治療はあるんでしょうか。
[桜井医師]そのような治療はありません。
[被告側池尾弁護士]この頃、ご家族の協力体制は得られていたんですか。
[桜井医師]最初の胃、二ヶ月、Q氏が面接の終了時に本人と接触を取っているようでした。その後、私からお呼びしたことが、先ほど、書証で原告側から示していただいた数回ありますが、そのほかに、ほとんどご家族の協力は得られておりません。
[被告側池尾弁護士]先生はカルテにも細心の注意を払って書かれたということなんですけど、先生がこれだけの配慮をしなければ、幸子さんに先生の真意が見抜かれてしまう危険性というのはあったんでしょうか。
[桜井医師]ええ、ありました。非常に鋭敏な方であったこと、そして、ネガティブな言葉にも、あからさまな嘘にも、あっという間に気づいてしまいます。
[被告側池尾弁護士]具体的に、そのような危険があったことはありますか。
[桜井医師]中久喜氏と私がみんなでぐるになっているのではないかというので大騒ぎになったこと、さっき話題が出ましたけれども、そういうことがありました。
[被告側池尾弁護士]中久喜先生のカルテにも出てきますよね。
[桜井医師]はい。
[被告側池尾弁護士]この時期、先生のほうから治療者をおりてしまったら、どうなっていたと思いますか。
[桜井医師]最終的に一年半を経過した後に、ようやく、もしかするとおりられるのではないかというので頑張りましたが、この済世会中央病院のモーニングワークセッションの中途で私が治療を中断したら、非常に危険であったと思います。もちろん自殺企図ということになると予測しておりました。
[被告側池尾弁護士]そうすると、先生が治療をおりたりとか、幸子さんを突き放したりということをせずに、救命の努力を最大限続けてきたというほうを選んだというのは、いま考えて、非難されることだと思いますか。
[桜井医師]今考えても全く正しいことです。
[被告側池尾弁護士]ただ先生は、幸子さんが精神的に安定してる段階では、恋愛感情はないということは伝えていたんですね。
[桜井医師]そうです。次第にそう伝えられる時が増えていっていますね。
[被告側池尾弁護士](甲A第一号証の1を示す)190頁、中久喜先生の平成11年3月13日のカルテなんですけど、これはモーニングワークの最後のほうですよね。終わる直前ですよね。この頃、幸子さんは最終的には先生に恋愛感情はないということは理解していたんでしょうか。
[桜井医師]このとき、97%理解したと。中久喜先生の記録に残っていますが、この97%という言葉は私も記憶があり、直接聞いています。
[被告側池尾弁護士]97%はもう受け入れたというふうに幸子さんが言っているということですね。
[桜井医師]ええ。
[被告側池尾弁護士]モーニングワークのセッションの期間、幸子さんの症状は増悪しているんでしょうか。
[桜井医師]改善しています。
[被告側池尾弁護士]具体的にはどんなことですか。
[桜井医師]まず、外部的なことからいうと、平成10年1月頃からアルバイトを定期的にできるようになりました。午後、週4回、接骨医院の看護婦さん役をなさるようになりました。そして、この時期、感情の波立ちはあっても、大きな自殺企図をほとんど起こしてはいません。10月頃にお見合いを押しつけられたとご本人はおっしゃっていますが、大量服薬をされたことが1度あります。そして、将来の希望、ドクターになりたいとか、そしてイギリスへ留学してバイオリンを習いたいとか、そういう希望を持てるようになっております。
[被告側池尾弁護士]モーニングワークのセッション中、中久喜先生は先生のレポートもみていたし、幸子さんの面接もされていたということなんですけど、N先生からセッションの中止を指示されたことはないですよね。
[桜井医師]ありません。
[被告側池尾弁護士]その方法とかないようについて、これはいかがなものかというような指導を受けたこともないですよね。
[桜井医師]批判めいたものは一切ありませんでした。
[被告側池尾弁護士]今回、中久喜先生から陳述書が出てますけど、これを読んでどう思われましたか。
[桜井医師]大変びっくりいたしました。
[被告側池尾弁護士]それはなぜですか。
[桜井医師]このように思われていたのなら、なぜそのことを私に伝えられなかったのか、あるいはこのセッションを中断されなかったのか、非常に不思議に思いました。
[被告側池尾弁護士]原告側は、慶応大学病院時代も含めてなんですけど、先生の面接の後に幸子さんが自殺しようとするパターンがあって、それがくり返されたというふうに主張されているんですけど、そのような事実はありますか。
[桜井医師]それは事実ではありません。記録を見ていただいて、私の面接回数を見ていただければわかることだと思います。例えば済世会中央病院時代の電話面接、週3回ありますね。その曜日は全て、その時間の後に幸子さんは接骨院のアルバイトに通っておられます。それは、自殺企図をしたとかそういうことではなくて、働ける状態で通ったということです。
[被告側池尾弁護士]自殺企図をされていたら接骨院に通うような状態ではないということですか。
[桜井医師]そうです。
[被告側池尾弁護士]平成11年4月にセッションは中断になりましたけれども、その後、平成12年1月まで、先生から幸子さんに対してコンタクトをとろうとしたことはありますか。
[桜井医師]ありません。
[被告側池尾弁護士]その後、平成12年1月頃、幸子さんから婚約しましたという連絡がありましたよね。
[桜井医師]はい。
[被告側池尾弁護士]その時、幸子さんの話しぶりからして、幸子さんの様子はどうだとお考えになりましたか。
[桜井医師]短い電話のやりとりでしたので、全体的な状態はわかりませんが、私に対する感情、あるいはしゃべりっぷりは安定しており、ある程度安定しているかと思いました。
[被告側池尾弁護士]平成12年3月中に、Mさん、お母さん、それから中久喜先生から、幸子さんと話をしてほしいという連絡がありましたよね。
[桜井医師]ええ。
[被告側池尾弁護士]中久喜先生は具体的にどういうふうに言ってたんですか。
[桜井医師]彼女の状態は安定していて、あなたと面接しても安全だと、そのように保証されていましたんで。
[被告側池尾弁護士]具体的に何をしてくれと頼まれたんですか。
[桜井医師]話をしてくれということで、世間話。ただ、また定期的に話をしてほしいということであったと思います。
[被告側池尾弁護士]先生はどう答えたんですか。
[桜井医師]私としては、定期的にお話しするのは私の都合からしても無理であろうと返答をし、ただ、非常に悪い別れ方、幸子さんが私の家族を脅迫するとかいう、それは幸子さん自身にとってもよくない別れになっておりますので、和解をする、悪い関係で別れたのをいい関係あるいは普通の関係に戻すということには非常に彼女にとっても意味があるのではないかと考え、私のほうは一度お目にかかりましょうということを最初に言っております。
[被告側池尾弁護士]そしてその後、3月31日に幸子さんと先生が話されたんですよね。
[桜井医師]ええ。
[被告側池尾弁護士]電話で話をした感じでは、幸子さんの様子はどうでしたか。
[桜井医師]とても声が柔らかい感じになっていて、とても気持ちが落ち着いているように思われました。私についても、恋愛感情はおろか、何か絡みついてくるようなところが全然なくて、とても友好的だったですね。
[被告側池尾弁護士]恋愛感情がどうのという話もなかったわけですね。
[桜井医師]うん、ありません。
[被告側池尾弁護士]このとき、幸子さんからどういう提案がなされたんですか。
[桜井医師]多分、かかるのは週1回、定期的に私と話をしたいとおっしゃられたと思います。その内容としては、世間話をしてほしいと。世間話という点については私も受け入れました。それで、私のほうとしては、週1回というのは確実に、その頃のスケジュールでとれないかもしれないので、1回1回、次のお約束をしてお話しするというパターンがその後できました。
[被告側池尾弁護士]そしてその後、先生は幸子さんと済世会中央病院で会っているんですよね。
[桜井医師]はい。
[被告側池尾弁護士]これは陳述書には4月15日と書いてあるんですけど、4月22日の誤りということでよろしいんですか。
[桜井医師]うん、よろしいです。
[被告側池尾弁護士]何分ぐらい話をされたんですか。
[桜井医師]正確に記憶しませんが、話の内容は、お天気の話をして、いい天気の日に会えてよかったですねということですので、長くても15分、5分くらいだったかもしれません。
[被告側池尾弁護士]このとき、幸子さんの様子はいかがでしたか。
[桜井医師]明るい顔で、ちょっとかたい表情だったけど、元気に動かれていたと思います。
[被告側池尾弁護士]このとき、恋愛感情というような話は出たんでしょうか。
[桜井医師]全く出ていません。
[被告側池尾弁護士]その後、電話で幸子さんと話をされていると思うんですけど、4月26日にはどんな話があったんでしょうか。
[桜井医師]これはちょっとわかりにくい話なんですけれども、彼女は一生懸命、私から黄色い花束、これは彼女の頭の中では恋愛感情あるいは恋愛をもらおうとして頑張っていたと、で、先生は白い花束、これは人間としての愛情とか親の愛情のようなもの、それを一生懸命くれようとしていた、でも、私は白い花束をだめにしちゃったかもしれないと、そういうことを淡々と落ち着いて語ってらっしゃいました。
[被告側池尾弁護士]ただ、それが生きるために必要なものだったというようなことをおっしゃってたわけですね。
[桜井医師]そうです。
[被告側池尾弁護士]4月26日は特に調子が悪いようではなかったんですか。
[桜井医師]うん、とても情緒的に安定していました。しゃべりっぷりで、かなりその時のことがわかりますので。
[被告側池尾弁護士](乙A第15号証を示す)27頁、中久喜先生の東横病院のカルテなんですけど、この本文は読みづらいので訳のほうを示しますが、平成12年4月26日、下から4行目の後ろのほうですけど、「DrSが自分の生死をにぎっているのではないことがわかった。」と書いてありますね。DrSって先生のことですよね。
[桜井医師]はい。
[被告側池尾弁護士]これはどういう意味だと思いますか。
[桜井医師]私が幸子さんにとっての第一の重要人物、彼女の命をにぎるような、あんまり大事な人間ではなくなってきたということを示してるのでしょう。
[被告側池尾弁護士]そして翌日の4月27日に、これはセレモニーです、さようならという電話がかかってきたそうですね。
[桜井医師]はい。
[被告側池尾弁護士]このときは突然こういう電話がかかってきたんですか。
[桜井医師]ええ、午前中で突然でした。
[被告側池尾弁護士]電話の途中からそうなったんではなくて、突然ですか。
[桜井医師]そう、最初からそのご用件でした。
[被告側池尾弁護士]突然こういう状態になった原因はわかりますか。
[桜井医師]私にはわかりません。
[被告側池尾弁護士]幸子さんは5月1日にも自殺企図を起こされてますよね。
[桜井医師]はい。
[被告側池尾弁護士]その理由として、先生に何というふうに説明されていましたか。
[桜井医師]5月の2日のお電話でうかがったことは、私からのメールが来るのが遅かった、そして友人、Qさんに電話をしたが、とってくれなかったのか、相手にされなかったのか、相手をしてもらえなかった、そしてフィアンセの方が3時間も、本人の言ですけれども、床屋に行ってしまっていたという、そういうことがきっかけなのだと私に語っておられました。
[被告側池尾弁護士]実際、Mさんの陳述書を拝見すると、Mさんはこのとき床屋さんに行くために数時間外出されていたようですよね。
[桜井医師]ああ、そのようです。
[被告側池尾弁護士]Mさんも幸子さんから、5月1日の自殺の原因は、彼女の信頼しているQさんとJさんという二人の友人から拒絶されたことが原因であるというふうにおっしゃっているということですね。
[桜井医師]そのように拝読しました。
[被告側池尾弁護士]また、NSに宛てたファクスの中でも、今回の自殺未遂ははっきり言って全く彼、桜井医師先生には関係がないというふうに述べていますよね。
[桜井医師]うん、そのとおりです。
[被告側池尾弁護士]そうすると幸子さんは、少なくとも先生を含む3名の方に、今回の自殺未遂の原因は先生ではないというふうに話しているということですよね。
[桜井医師]はい、そのとおりです。
乙A第9号証を示す。
[被告側池尾弁護士]5月2日に先生が中久喜先生に送ったファクスなんですけど、中久喜先生は先生にことわりなくこれを幸子さんに転送してしまったということですね。
[桜井医師]はい。
[被告側池尾弁護士]その転送が危険だというのは、どういう意味で危険なんですか。
[桜井医師]私が距離をとろうとしているということも書いてあるんですが、それは私自身も伝えていることです。ただ、私が中久喜氏にこのことを送ったということを、つまり、幸子さんにとっては自分の知らないところで誰かが何かをするっていうことがとても危険だということがあるわけです。
[被告側池尾弁護士]みんな自分に知らせておいてほしいということなんでしょうかね。
[桜井医師]そうですね。
甲A第2号証を示す。
[被告側池尾弁護士]Pの650と書いてあるもので、ご主人からご連絡をいただきましたという、これは5月1日の23時32分に送られたものなんですけど。
[桜井医師]そうですね。
[被告側池尾弁護士]このとき先生は、「当分あなたに近づかないほうがよいと思います。十分に余裕があったらばご連絡下さい。」と、しばしのご猶予をというメールを5月1日に送っているんですよね。
[桜井医師]ええ、そのように書きましたね。
[被告側池尾弁護士]Mさんの陳述書によると、5月2日は午前中は大変調子がよかったというふうに書いてありますよね。
[桜井医師]ああ、そのように拝読しました。
[被告側池尾弁護士]そうすると、先生から当面距離をおきたいというメールを送ったことについては、特に幸子さんは問題にしていなかったということなんでしょうかね。
[桜井医師]うん、そのようですね。
[被告側池尾弁護士]その後、先生は大阪の自宅にいる幸子さんと電話で話をしていますよね。
[桜井医師]はい、しています。
[被告側池尾弁護士]どんな話をしたんですか。
[桜井医師]これ、さっきの3人のお友だちの話の次ですね。彼女は私に定期的に、彼女の言うコミットメント、約束といっていいんだと思うんですけれども、定期的に話をしてくれと、水曜日に週2時間、毎週、それも治療者としてじゃなくて友人として、そして綿他が死ななくていいようになるように話をしてくれと約束をしてくれとおっしゃられました。その全部の条件というのは、私にとってはとても満たせそうもないものでしたので、粉のことは私はお断りしました。その代わり、私はこれまで3月30日から、1回1回お約束をして、ほぼ1週間に1回くらい電話でお話しをしていますので、この日が5月2日で、やや短めの5月7日、連休明けにまたお話しをしましょうといって、そういう、連休明けにお話しをしようということで電話を起きました。
[被告側池尾弁護士]それまえで1回1回約束をして電話で世間話をするということ自体は、先生は続けてもいいという話をされたんですか。
[桜井医師]そのとおりです。
[被告側池尾弁護士]先生は、幸子さんが5月2日に自殺をしてしまう危険があるとは考えていらっしゃいましたか。
[桜井医師]考えていませんでした。
[被告側池尾弁護士]それはなぜですか。
[桜井医師]一つ目は、お話しをしてる途中で少しずつ彼女の感情が穏やかになってきたと思われたこと。二つ目は、やっぱり次の約束をしているということはとても大事であって、次の約束をしている時は、かなりおつらくても、何とか次の約束に来てくれたり電話をしたりしてくれるという経験がありました。そして、モーニングワークの1年6ヶ月、これは長い期間で、かなり僕にとっても何倍も彼女にとって大変だったと思いますが、その期間もそういうやり方で、次の約束をして、それまでは彼女は安全に過ごすようになさっていたので、そのようなことから、次の約束をしたことで、かなり安全になったのではないかと思いました。
[被告側池尾弁護士]先生は、この最後の電話が幸子さんの自殺の原因になったと考えますか。
[桜井医師]思いません。
[被告側池尾弁護士]その理由をおっしゃっていただけますか。
[桜井医師]まず一つ目は、5月1日の自殺の原因については私には関係ないっていうふうに彼女は言ってますけれども、いろんなことが契機としてあるのも事実かもしれませんが、他の記録を見る限りでは、結婚についての悩みが一番多く出てきています。
[被告側池尾弁護士]5月13日、約10日後に結婚式を控えていらっしゃったようですね。
[桜井医師]ええ、そのとおりです。
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被告代理人(被告側古谷弁護士)
[被告側古谷弁護士]平成12年4月からの再度の幸子さんとのお話し合いですけど、これは方法は電話ということに限られてたんですか。
[桜井医師]違います。私はとにかく一遍お目にかかって和解、悪い関係じゃなくて、せめて普通の関係にしましょうということですけど、そういうことを言っておりまして、あちらは何か毎週1回と希望していらっしゃったんですけど、食い違いがややあるまま、現実的に電話で週1回とやっていたわけです。
[被告側古谷弁護士]中久喜先生から聞いたこと、あるいは幸子さんは毎週水曜日、定期にお話しをしたいと。
[桜井医師]ええ。
[被告側古谷弁護士]せんせいのほうはそうじゃなくて、1回1回、次回を決めさせてくださいということが一つですよね。
[桜井医師]はい。
[被告側古谷弁護士]それから、話題としては世間話を中心にということだったんですか。
[桜井医師]ええ、世間話を中心にということは、最初に幸子さんとの間で一応の合意がありました。
[被告側古谷弁護士]その方法は、電話で話をするということ以外に、例えばメールとか、場合によっては和解のために会うとかいうことも先生のほうは考えてたということですか。
[桜井医師]そのとおりです。
[被告側古谷弁護士]電話でやりとりするという約束にはなってなかったということですね。
[桜井医師]それは違います。
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原告代理人(原告側池原弁護士)
[原告側池原弁護士]幸子さんは境界性人格障害であるという診断はいつ頃下したんですか。
[桜井医師]平成7年5月17日から6月2日までの間です。
[原告側池原弁護士]その当時、慶応大学病院のカルテによると、自殺未遂もあったような方ということがあって、5月17日のエピソードも、自殺未遂は恋人関係の問題だったということでしょうか。
[桜井医師]5月17日の自殺未遂については、ちょっと長い返答になりますが。
[原告側池原弁護士]違えば違うで結構です。
[桜井医師]違います。半分しか当たっていません。
[原告側池原弁護士]幸子さん自体に恋人に対する非常に大きい依存が生じたりとか、あるいはあなた自身に結果的には依存が生じていたように見えるんですけれども、そういうものは非常に危険な性質を持ったものではなかったんですか。あなた自身について、幸子さんについてですが。
[桜井医師]まず、平成7年の8月くらいまでの時期についていえば、これは全く危険のないものだったということは私ははっきり言えます。
[原告側池原弁護士]いつから危険なものになったの。
[桜井医師]危険なものであったということではありませんが、平成7年の9月以降は、比較的私に対してしがみつく傾向が増えたということはいえると思います。
[原告側池原弁護士](乙A第1号証を示す)172頁、平成7年9月7日の記述、下から3行ですけれども、「以前は彼にふられると死んでしまう(自殺)のではないかという構図からDrに見放されると狂うのではないかという恐れの方向に変化している」と書いてありますね。
[桜井医師]はい。
[原告側池原弁護士]これは、それまでは恋人を失うと自殺企図に結びつきやすいという構図から、あなたに対する、ここで「Dr」というのはあなたのことですよね。
[桜井医師]そうです。
[原告側池原弁護士]あなたに見放されると狂うのではないか、あるいは自殺してしまうのではないか、そういう危険性があったということではないですか。
[桜井医師]その件につきましては、こういうことですね。それは9月の6日のことですよね。それは、8月の11日だったかな、彼に捨てられた後、直後の時期で、私にしがみつくようになった時期ですが、それは、彼に捨てられたために死にたくなったり具合が悪くなる、それを治療者が代わりに支えてるというような言い方が出来ると思いますが。
[原告側池原弁護士]幸子さんがあなたに対して恋愛性の転移を持っていたという事実は、あなた自身は認めるんですか、認めないんですか。
[桜井医師]はい、認めます。
[原告側池原弁護士]それはいつ頃形成されたというふうに思うんですか。
[桜井医師]私は平成7年9月初頭あるいはその直前の時期かと思います。
[原告側池原弁護士]そのような恋愛性の転移が生じた場合、その依存、転移の対象であるあなたが対象を見放してしまうと、自殺企図が起こるという危険性があるという認識ではなかったですか。
[桜井医師]それは恋愛と依存が両方起こっている場合に見放してしまうと自殺が起こるかもしれないってことですか。
[原告側池原弁護士]幸子さんの場合、幸子さんとあなたの関係で、あなたが幸子さんを見放してしまうと、要するに幸子さんが自殺してしまう危険性があるというふうに思っていたのではないですか。
[桜井医師]9月6日頃の時点では、そう考えています。
[原告側池原弁護士]幸子さんが境界性人格障害であるということは5月の下旬にはわかってるわけですよね。
[桜井医師]はい。
[原告側池原弁護士]そういう方に安易に主治医なり担当医なりが依存の対象になってしまうと、いわば自分が離れようとすると患者さんが自殺しようとするというパターンができあがっちゃうということは考えなかったんですか。あなたが患者さんである幸子さんの依存あるいは転移の対象になってしまうと、あなたが幸子さんを見放そうとすると幸子さんが自殺してしまうようになるということは事前に考えなかったんですか。
[桜井医師]ある程度の依存ということは当然、境界例の患者さんの治療の中で起こりえます。ただ、当例の転移は類例を見ない、つまり本当に恋愛でおつきあいをしないと死んでしまうというような転移であって、この転移が形成されることは私は予測しておりませんでした。
[原告側池原弁護士]幸子さん自身が恋人に対する失恋を契機にして自殺企図を起こしたことがあるということは認めるんですか。
[桜井医師]5月17日の自殺企図については、これは原因不明でございます。
[原告側池原弁護士]それ以外はどうですか。
[桜井医師]それ以外の自殺企図も、恋人に振られたからという理由で起こったということは一度も確認されておりません。
[原告側池原弁護士]あなたとしては、転移が起こるまで、その転移が生じた場合に主治医と患者との関係が非常に難しい関係になるということは考えなかったんですか。
[桜井医師]転移というものが起これば、ある程度難しくなることは通常のことですが、普通はというより、ほとんどの場合、ある程度の転移で少し難しくなっても、それをなんとかやっていけます。
[原告側池原弁護士]そうすると、あなたとしては、8月の下旬あるいは9月の上旬段階で、転移が生じる前の段階で、もし転移が生じてしまうと、自分が見放すようなことをすると患者である幸子さんが死んでしまう危険性があるということは全く認識していなかったということですか。つまり、自ら転移の対象になっていくことによって、主治医である自分が手を引こうとすると、あるいは見放すような言動をしてしまうと、患者である幸子さんが死を選ぶ危険性があるということは全く予測しなかったということですか。
[桜井医師]境界例の治療で、しっかりと主治医を引き受ける場合・・・・
[原告側池原弁護士]まず結論から教えていただけますか。予測したんですか、しないんですか。
[桜井医師]ちょっと転移という言葉一つでも範囲が広すぎて、だから、この患者さんの場合の結果的に起こった、この転移を予測したということの質問でよろしいのかどうか。私はこの結果の、幸子さんの転移を予測しませんでした。
[原告側池原弁護士]転移を予測しなかったというのは、転移することを予測しなかったという意味ですか、それとも・・・
[桜井医師]転移の内容です。
[原告側池原弁護士]つまり、転移を生じた後で自分自身が見放すような言動をしてしまったりすると死を招く危険性があるということを予測しなかったということですか。
[桜井医師]そのことを申し上げているのではありません。この患者さんの、この形の転移を予測しなかったということです。
[原告側池原弁護士](乙A第1号証を示す)240頁、11月10日の記載です。ここにO医師から「<桜井Drにだけ頼り、他の援助を受けないという(コミュニケーションの様式)が問題であること。今後治療を病棟で続けるに当たっては、11/8(水)に決めたことの確認が必要であること、>を伝える。」という記載がありますね。
[桜井医師]はい。
[原告側池原弁護士]これは、大野医師から、あなたと幸子さんの治療関係が適当ではないという指摘を受けたという意味ではないのですか。
[桜井医師]これは異なります。この頁、上2行を見てください。「11月9日からドクターの面接が2×1Wに減るということに関して納得できないといっている。」「AM、やはり納得がいかない、1回30minで3×にしてほしい」、「Drが検討しますと答えてしまったことからまた混乱状態となる」、「PM、婦長にそのことでくってかかる」、「Dr芳賀面接時にはやや頑張ろうという意欲を見せる。」これは大野先生が患者さんにおっしゃってることですね。
[原告側池原弁護士]そうすると、あなたとの関係、つまり、桜井医師ドクターにだけ頼り、他の援助を受けないというコミュニケーションというのは、実際にあった事実を言っているのではなくて、幸子さんに大野医師が言っているだけという意味なんですか。
[桜井医師]いや、幸子さんが私にだけ頼ろうとする傾向はその当時ありました。
[原告側池原弁護士]そのことが問題であるということはここで指摘されてるんじゃないですか。
[桜井医師]それは患者さんの問題として大野医師が指摘しているのでしょう。
[原告側池原弁護士]あなたには問題がなかったという意味なんですか。
[桜井医師]そうですね。
[原告側池原弁護士]しかし、このとき、前田医師が交代で治療に入ったり、さらにスタッフで関わるという治療方針も決められていますね。
[桜井医師]前田医師が交代したのは定期的なドクター交代で芳賀医師から交代しています。そしてスタッフが全員で関わるというのは、私が大変なんで、みんなチーム医療でもともと関わってくれてるんですが、もっと強力に助けてあげようと言うことを言ってくださったわけです。
[原告側池原弁護士]11月8日に幸子さんのご両親が婦長さんと面接をして、方針をつくってから本人を入れるという記述があるんですけれど、ここの方針というのは、定期的にもともとやる前提だった方針の変更という意味なんですか。要するに、両親からの指摘を受けて、かつ、あなたと幸子さんの関係が適切でないので、スタッフを入れて治療体制を変えるという決定をしたという意味ではないんですか。
[桜井医師]そのように私は聞いたことがありません。そのような記載もないと思います。
[原告側池原弁護士]病棟内には、例えば山田医師とか前田医師とか、あるいは女性ですけどB医師とか、あるいはその後も、女性ですけど長谷川病院で原先生、何人かの先生が幸子さんに関わってるんですが、あなただけ転移を生じたのはどうしてなんでしょうか。
[桜井医師]私には強いしがみつきを生じましたが、他の医師には持続的な関係を作っておりませんね。治療関係自体を作っておりませんね。
[原告側池原弁護士]あなたに強いしがみつきをしたのはなぜなんでしょうか。
[桜井医師]やはり、少しでも自分のことを理解されたと思ったからではないでしょうか。
[原告側池原弁護士]ただ逆に、しがみつかれるあなたとして、他の医師との間でもある程度の依存というか、頼れる関係を作っていくってことが必要だったんじゃないですか。例えば慶応大学病院の治療関係の時など。
[桜井医師]必要とは必ずしも言いませんが、11月の時点ではその方がやりやすいことは事実なので、周囲の援助、これはとてもありがたかったです。
[原告側池原弁護士]形成されてしまった幸子さんの転移を解消するためには、あなたは何をしたんですか。全時期を通じて、おおむね見れるのは、結局、あなたが見放すようなことをいってしまったり手を引いてしまうようなことをしてしまうと幸子さんが死んでしまうのではないかと言うことで、表現は適当じゃないかもしれませんけど、その場限りの面接をしてますよね。終局的に転移関係を解消するような働きかけをされてないんじゃないですか。
[桜井医師]その場限りという言葉には抗議します。
[原告側池原弁護士]ですから、どういう解消方法をとったんでしょうか。
[桜井医師]では、例に挙げるのは、平成8年の長谷川病院と原医師との協働関係での治療の場合、このときは比較的普通の話を、普通の面接をしておりました。患者さんが自分の身の回りにあったことなんかを話して、私は比較的それを聞いているという、これは普通の治療です。
[原告側池原弁護士]それ以外はありますか。K病院のことは一つ、何かをしたということで結構ですけど、それ以外はあるんですか。
[桜井医師]全ての時期において、患者さんと私の関係を少しでも適正にしようとすることは、常に努力はされております。
[原告側池原弁護士]ただ、全般的に見ると、結局、あなたが突き放すような、恋愛関係がないようなことを言ってしまうと幸子さんの自殺リスクが増大するという関係は消えていかないですよね。消えていったんですか。
[桜井医師]中久喜医師のモーニングワークの一年半、その間にはそのリスクは減じて、最終的には消えましたね。
[原告側池原弁護士]先ほど、主尋問で、平成10年1月頃からモーニングワークの効果が出て、少し改善してきたというようなことをおっしゃったんでしたかね。そういう意味ですか。
[桜井医師]1月頃からアルバイトに行ったと。
[原告側池原弁護士]それは先ほど、症状が改善してることのエピソードとしておっしゃったんじゃないですか。
[桜井医師]そうですね。はい。
[原告側池原弁護士]済世会中央病院での第二セッションというでしょうか、中久喜医師との並行的な診療関係が始まってからで受けれども、その始まるに当たって、あなたの方としては、自分から送るファクスを全部幸子さんに見られては困るというようなことは申し入れなかったんですか。
[桜井医師]それは申し入れていません。
[原告側池原弁護士]どうして申し入れなかったんですか。
[桜井医師]これは、N医師が、その条件でなければこの患者さんは我々治療者側を全部信頼しないだろうと、そう判断してそうおっしゃいまして、そのことは私も、この点については賛成いたしました。
[原告側池原弁護士]中久喜先生との間で、もし非常に深刻な問題が起こったりとか、どうしても伝えておきたい情報、幸子さんには言えないけれども中久喜先生には言いたい情報があるというような場合は、どうするということで決めていなかったんですか。
[桜井医師]当初の間は電話連絡をしばらくしておりました。記録が残っておりますから。
[原告側池原弁護士]そういう電話連絡の中で、ファクスにはこういう書いてあるんですけども、実はそれは必ずしも真意ではないのだというような説明はされなかったんですか。
[桜井医師]していません。
[原告側池原弁護士]平成11年4月3日に、幸子さんとの間の、中久喜先生との並行的な診療体制をやめていますよね。
[桜井医師]はい。
[原告側池原弁護士]それは、幸子さんの方からあなたのおうちに直接何か抗議、連絡があったりしたんでやめたということでしたか。
[桜井医師]正確に言うと、いろんなことするぞという脅しでございます。
[原告側池原弁護士]その時に中久喜医師のほうに、もうこれ以上、今までの治療関係をやめてしまうけれども、幸子さんに万が一のことがあると困るのでというような連絡はしていませんよね。
[桜井医師]私は中久喜医師のオフィスにおじゃまして、1時間面談をして、その後の幸子さんのことについて話し合っております。
[原告側池原弁護士]それはいつのことですか。
[桜井医師]これは、ちょっと記録を見ないとわかりません。
[原告側池原弁護士]その話は、幸子さんからあなたの家に対する直接的な抗議や脅しのようなことがある前じゃないですか。
[桜井医師]その後でもあるのです。
[原告側池原弁護士]後に行っていますか。
[桜井医師]ええ。その時は、私一人でN医師のオフィスにお邪魔しております。
[原告側池原弁護士]それは何か記録があるんですか。
[桜井医師]申しわけありません、私のほうに記録には少なくとも残っておりません。
[原告側池原弁護士]あなたは陳述書の中で、面接の中断とか入院なんかに関しても、中久喜医師に何度も言ったことがあると書いていますよね。
[桜井医師]ええ。
[原告側池原弁護士]こういうことを電話で直接中久喜医師におっしゃれるのであれば、なにも心にもないことを、ファクスに書いてあることについてN医師に、いや、あれは私の真意ではないんですと言うことを説明しても差し支えないんじゃないですか。
[桜井医師]二つあるんですけど、一つ目は、私は中久喜氏が、少なくとも精神療法関係、精神療法関係というのはたいがい恋愛関係よりもずっと深いものになるくらいのものだったり、全然親子関係みたいに深いものに、違うものになったりすることがあって、彼が純粋に恋愛関係だけで私たちの関係を見るということは、正直、予測してなかったんですよね。
[原告側池原弁護士]あなたの立場からすると、あなた自身が逆転移を起こしているというふうに中久喜医師から誤解されるとは思っていなかったという意味なんですか。
[桜井医師]もう少しご理解いただけるかなと思っていたことは一つあります。
[原告側池原弁護士]事前に、実は幸子さんはずっと自分が彼女に何か恋愛的な感情を持っているかもしれないということを言っているかもしれないけれども、それは私自身の真意とは違うんですと言う弁明をしたり、情報を与えたりはしてないんですか。モーニングワークをはじめるにあたって、初回の前でもいいですし、あるいは、実際に恋愛感情があるというように感じさせる表現のファクスを送る時でもいいです。
[桜井医師]11月12日、13日、そして中久喜氏の17日、私の19日という連続性のある記録が残っておりますけれども、もうその12日に来た時点で、3時間、Q氏がお世話をしなければならないほど彼女は混乱していたようですね。そして、母上が、12日か13日かわかりませんけれども、私が結婚をしているということを告げられたわけです。そこでまた混乱に拍車がかかります。その段階で、中久喜氏が先程述べられてましたけれども、電話だろうが何だろうが、とにかく情報は共有するというふうな絶対的なポリシーがありますので、中久喜氏に連絡をすることも、少なくともリスクはあったでしょう。それを患者さんに直接伝えられるというリスクはあったでしょう。それは実際に起こっていることです。
[原告側池原弁護士]アルバイトにいったりしているということで、平成10年1月ぐらいからは大分症状が落ち着いてきてるという認識はそれでいいんですか。平成10年1月頃とおっしゃったように聞こえたんですが。
[桜井医師]とても1月は、少なくとも1月の最初のほうは全然落ち着いてないですよ。
[原告側池原弁護士](甲A第1号証の2を示す)47頁、これは平成10年1月17日にあなたから中久喜先生に送られたものですよね。
[桜井医師]はい。
[原告側池原弁護士]48頁に、「恋愛的な感情(揺れる)基盤の上に、それを見ないふりをしながら治療を一生懸命構築してもうまくいかないのは当然だった」と。このとき、恋愛的な感情という基盤というような表現をされてるんですけど、こういう事をあえて言わなければいけないような危険な病状が幸子さんにあったんですか。
[桜井医師]1月の時点は、まだ不安定な時期です。
[原告側池原弁護士]特に自殺の、こういうあえて恋愛という言葉を使わないと幸子さんが極めて動揺して危険な状態になるというような事情は、何が言えますか。
[桜井医師]そのことはしばしばくり返されていて、一回の面接の中でも、書いてないこともありますが、常時そうなる方なのですよ。
[原告側池原弁護士]同じく甲A1の2の185頁は、182頁のファクスの送信の刻印からすると98年と読めるんですけれど、98年ですと平成10年11月頃と言うことですね。185頁を見ますと、ここにも、「愛情関係−非常に原初的なもの−は確かに存在していた」云々という記載がありますが、このときは、あなたの先ほどの御証言からすると、もうすでに平成10年も終わりに近づいてるわけですから、相当安定していたということにならないですか。
[桜井医師]自殺企図を防いで、大きな自殺企図がないということは希死念慮がないということとは異なっています。ですから・・・
[原告側池原弁護士]とりたてて具体的に危険性があるような徴候はなかったと聞いていいですか。
[桜井医師]10月に大量服薬されていますよね。
[原告側池原弁護士]この日の前後というのはどうですか。
[桜井医師]記憶がありません。
[原告側池原弁護士]もともとここでファクスをしている事柄というのは、診療室で幸子さんに言ったことについてファクスをしてるわけですよね。
[桜井医師]そうです。
[原告側池原弁護士]そうすると、あえて幸子さんに2度伝えるという意味で、恋愛関係にあるとかどうとかってことをN医師にまで言う必要はないんじゃないですか。
[桜井医師]・・・・・・・。
[原告側池原弁護士]そのことをあえて記載する必要はあるんですか。
[桜井医師]それはあえてきさいして、中久喜氏のところでも見えるということで安定が出ると思います。
[原告側池原弁護士]あなたからのファクスの中で、幸子さんにおわびをしなきゃいけないという表現とか、治療上のトラウマであるという表現とか、ほとんど虐待であるというような表現だとか、こういうのが出てきますよね。
[桜井医師]ええ。
[原告側池原弁護士]これらは別に、あえてあなたが幸子さんに言わなくても、要するに恋愛感情ということとイコールのものではないですから、幸子さんがすぐに自殺する危険性というのはないんじゃないですか。
[桜井医師]その点は確かにそのとおりですが。
[原告側池原弁護士]ということになると、あなた自身が幸子さんにおわびをしなきゃいけないという気持ちを持っていたり、治療上のトラウマになったとか、あるいは虐待というのは事実なんですか。
[桜井医師]違います。
[原告側池原弁護士]では、何でそういう表現を・・・
[桜井医師]ひとつひとつお示ししていただいて反論させていただけますか。
[原告側池原弁護士](乙A第7号証を示す。)46頁、平成9年11月12日付の報告書の2枚目で、「私としてはやはり治療のトラウマが問題だと認めざるをえません。」という記述がありますけど。
[桜井医師]これは、やっぱりよくなろうと思って慶応大学病院に入院されて、結局、昔の彼に全否定されたり、最後、11月になってそんなことが起こって、消化器でガラス壊して退院させられちゃったんですよね。だから、せっかく慶応大学病院や私に頼ったのにうまく行かなかった、これはやっぱりつらいことで、トラウマです。
[原告側池原弁護士]トラウマがあったということは事実になるわけですか。
[桜井医師]そうです。しかし、それは治療上の過誤を認めるとか、やり方が悪いということを認めてるということとは異なりますので。
[原告側池原弁護士]そうすると、トラウマの原因は何ですかね。
[桜井医師]やはり、治療をしたけれども本人にとってはつらい状態になったということですね。
[原告側池原弁護士]本人にとって何がつらかったんですか。
[桜井医師]退院させられちゃったことはつらかったと思います。
[原告側池原弁護士]退院させられたことがトラウマを生じさせたという理解になるんですか。
[桜井医師]その言い方はちょっと受け入れられませんけれども。
[原告側池原弁護士]同じく乙A7の68頁には「虐待であると思う」というような表現があるんですね。これはいつ頃送られたものかというと、65頁を見ますと平成9年12月19日の報告書の一部だと思われるんですが、虐待だと思われるというのは、ただの言葉の問題なんですか。
[桜井医師]これは、彼女は私を恋愛対象として求めてやってくるわけですよ。当然、そのことを私は断らなきゃいけない。ただ、断るばっかりだと彼女は向こうへ行っちゃうじゃないですか。向こうへ行っちゃって私との関係が切れたら、これ平成9年ですかね、この時期は中久喜氏が長い冬休みに入るくらいの期間です。私としては、恋愛ではなくても、人間としての情でも愛情でも、そういうものを何とか、そういうもので彼女をこっちに引っぱらなければ彼女に死なれてしまうわけです。そして、じゃあ恋人になってくださいっていわれたら、それはだめですって言わざるを得ないときがいっぱい出てきます。これは彼女にとって確かに虐待的な状況とはいえると思います。ただ、そのことは、この状況で私にとって止められることではありません。
[原告側池原弁護士]ここでちょっと教えてほしいんですけど、「私はものすごい地からで幸子さんを下の方(無意識の方)で引っぱっている。」というのはどういう意味なんですか。
[桜井医師]やっぱり人間関係のつながりで彼女をこっちへ引っ張ってるということです。
[原告側池原弁護士]それは通常の人間関係なんですか、無意識の世界で働いてる作用なんですか。
[桜井医師]それを簡単に分けるのは難しいと思いますけれども。
[原告側池原弁護士]ただ、あなたの表現では「(無意識の方)で引っ張っている。」という表現になっていますけどね。
[桜井医師]そうですね。
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原告代理人(原告側杉浦弁護士)
[原告側杉浦弁護士]幸子さんの境界性人格障害の発生時期についてはかなり早いというふうにおっしゃられて、小学校3年生、あるいは中学校3年生でも刃物を持ち出しということをさっきおっしゃいましたね。
[桜井医師]はい。
[原告側杉浦弁護士]小学校3年生の時の刃物の持ち出しというのはどんな状態だったんですか。
[桜井医師]これは僕はそれほど詳しく覚えてないんですけども、お母さんとはものを持ち出してやり合ったっていうような話だったと。
[原告側杉浦弁護士]やりあったというのはどんなことでしょうか。
[桜井医師]刃物を下に置いて議論をした。ちょっとこれ、僕、完全な記憶がないんで、申しわけありません。
[原告側杉浦弁護士]こういった重大な認定に当たって確たる事実を認識されないまま判断されるのかなというところ、ちょっと素人的に疑問を持ったもんですから確認しただけです。さっき主尋問の中で、カルテの中で桜井医師先生の方が幸子さんにいろいろな思いのあるような記載があったと、ただ、これはカルテ上とりつくろっとかないと感づかれてしまうんではないかというようなご質問があって、そうだというふうにいわれたと記憶してるんですけど、よろしいですか。
[桜井医師]はい。
[原告側杉浦弁護士]そうすると、カルテにも本当のことを書かないということになるわけですか。
[桜井医師]できるだけ本当のことを書きますが、どうしようもない時には言葉を換えるということです。このことについて、もう少し解説してください。
[原告側杉浦弁護士]カルテにはどのようなことを書かなければいけないということを医師としては学んでいらっしゃいますか。
[桜井医師]本当のことです。ちょっと説明させてください。言わせてください。私が言葉を変える時は、恋愛という言葉を使ったりして、普通の人間の情というので伝わらない時に彼女に伝わる言葉に、これは彼女の言葉になっちゃいますけど、それは翻訳してるというふうにお考えください。全部が作り物だったりとか、そういうものではありません。その部分だけ、どうしても彼女に伝わらないことを彼女にわかるように書いているわけです。
[原告側杉浦弁護士]書いているというよりも、彼女にはそう伝えるということですね。カルテに書かれたことは発せられた言葉と同じ事が書かれているわけですね。
[桜井医師]おおむね。
[原告側杉浦弁護士]同じですね。
[桜井医師]すごく編集されてますけど、おおむねそうです。
[原告側杉浦弁護士]おおむね同じということは、彼女に伝わるのは、その言葉が伝わっているということですね。あなたがどう内心思っていらっしゃるかは別にしても。
[桜井医師]それは彼女に聞いて・・・
[原告側杉浦弁護士]彼女には、その言葉に書いてあることを伝えていらっしゃるということですね。
[桜井医師]そうです。
[原告側杉浦弁護士]先ほど、人間と人間との関わりというような形で接触したというお話しがあったんですけれども、モーニングワークのところでしょうかね。素人的に考えますと、医師と患者との関わりではないかというふうに思うんですけど、人間と人間との関わりというのはどういったことなんでしょうか。
[桜井医師]この場合は、私の方も私の感じたことを話すと、彼女も彼女の感じたことを話すと、そういうことですね。
[原告側杉浦弁護士]それは生身の人間と人間との関わりというふうに伺っていいんですか。医者としての立場ではなく、人間としての感性としてぶつかられたというふうに伺っていいわけですか。ぶつかってなくてもいいですよ、接触したと。それでいいですか。
[桜井医師]結構です。
[原告側杉浦弁護士]セッションをされて、これがモーニングワークの時ですかね、改善されたというあかしとして接骨院へ行ってらしたというお話しがありましたね。
[桜井医師]ええ。
[原告側杉浦弁護士]接骨院へ行って、その後、帰られる時の幸子さんの様子のことはご存じですか。一回一回のことではありません。大体その頃、接骨院に行かれた後、どのようにして帰宅されてたかはご存じですか。
[桜井医師]・・・ちょっと。
[原告側杉浦弁護士]モーニングワークのときに大分改善されてきたと、その理由は何ですかというふうに主尋問で質問があった時に、接骨院にかりに行ってらしたから、これはもう改善してるんだというふうにさっきおっしゃられたので、接骨院に行ってどのような状態か、あるいは接骨院から帰られる時の彼女がどのような状態かということについて、認識があられるかどうか。
[桜井医師]すいません、どっちにしても、今記憶してませんので。
[原告側杉浦弁護士]接骨院に行ったということしかご存じないということですね。
[桜井医師]接骨院で働いているご様子についてはよく伺っていました。帰り道のことも聞いたと思うんですけども、ちょっと記憶もないし、今の頭にも出てこないです。
[原告側杉浦弁護士]お母さんの陳述書の中には出ておりますけれども、本当にもう一人じゃ帰れないような状態で帰られていたということです。
[桜井医師]うん。
[原告側杉浦弁護士]先ほど、トラウマと虐待というところが出てまいりましたけれども、桜井医師先生自身は、引き上げて拒絶するというようなことというのは、これは医師の治療としてやってらしたんですか。
[桜井医師]それ以外に、この時期のこの方と関わる道はありません。ですから、これは人間としてもそうですし、この方法でしかこの人をつなぎ止められないので、そうしなければやはり死に至ると思われるんです。だから、これは治療ですね。
[原告側杉浦弁護士]そうすると、適切な治療ということでいいんですか。
[桜井医師]そのように思います。
[原告側杉浦弁護士]なぜこれを虐待と書かれたんですか。
[桜井医師]そうであっても、彼女にとってつらいことであることは間違いないからです。
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被告代理人(被告側池尾弁護士)
[被告側池尾弁護士]先ほど、小学生の頃、中学生の頃、お母さんと喧嘩をして包丁云々という話が出てきましたよね。
[桜井医師]ええ。
[被告側池尾弁護士](乙A第1号証を示す)72頁、5月24日のカルテの真ん中あたり、「小学生の頃」と、ここが先生のいわれたことですか。
[桜井医師]ああ、そうですね。「小学生の頃(小3〜小4)母とケンカした。(理由??)母に包丁突きつけてあなたを殺して私も死ぬとかいって母はやるならやってみなさいと言って、にらみ合う」。
[被告側池尾弁護士]ということですね。
[桜井医師]うん、そうです。
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裁判官(小川)
先ほどのお話ですと、幸子さんは恋愛性転移を起こされていて、しかも依存が強かったというお話しでしたが、同じような症例を持たれた患者さんを担当されたことは今までも一度もないということですか。
[桜井医師]これは、私自身でもないし、類例のあるケースは私は、ほとんど中、聞いたことがないですね。
[裁判官・小川] 文献等の症例報告とかも、特に聞いたことがないということですか。
[桜井医師]そうですね。
[裁判官・小川]あなたとしても大変治療困難を極めたということを陳述書にもお書きになってられますが、より上の上司の医師とかに、一体どうしたらいいのかということを相談されたりしたことはありましたか。
[桜井医師]ええ。先ほど、慶応大学病院時代のカルテを示されたのは大野医師という人が出てきましたり、済世会中央病院時代は上司の半田部長もおりますし。ただ、どんな人に聞いても、それほどいい知恵は出てこなかったですね。
[裁判官・小川]そうすると、上司の方々のご意見というのは、あなたが治療を続けていきなさい、というご指示だったんでしょうか。
[桜井医師]まあ、何とかがんばってくださいということになります。
[裁判官・小川]平成12年3月以降の幸子さんとのやりとりの関係についてなんですが、中久喜医師はあなたに事前に、中久喜医師とあなたとのやりとりについて全て幸子さんには報告しますよということを確認されていましたか。平成12年の、世間話という、そこの話。
[桜井医師]その時に私からの情報を幸子さんに渡すかどうかということの確認はなされていません。
[裁判官・小川]平成12年5月2日に幸子さんと最後に電話された時のことなんですけれども、5月7日にまたお話しをしましょうということを幸子さんとお約束されたということなんですが、その電話の終わり方というのは、どういう感じの終わり方だったんでしょうか。納得されて終わりだったのか、もう時間が来てしまったから終わりだったのか。
[桜井医師]彼女の頼みを断ったので若干機嫌は悪かったかもしれませんが、5月の7日にお話し合いをするということについては肯定されていたと記憶しています。
[裁判官・小川]あなたの陳述書によると、電話を切られましたというふうにありますが、これは幸子さんの方から電話をお切りになったということですか。
[桜井医師]いや、一応両方で話をして、どっちかがガチャンと切ったというのではなかったです。
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裁判官(坂庭)
先ほど、中久喜医師の尋問の際に、幸子さんの慶応大学病院入院時代の話ですけれども、自由連想法による面接が週何回もあって、それが多すぎるという話が出てきたかと思いますけれども、あなたがされていた面接の方法というのは自由連想法と呼ばれるものでよろしいんでしょうか。
[桜井医師]設定とかが違いますけれども、ほぼ自由連想法に近いもの。大体、厳密な自由連想法ってのは、本当にブランクスクリーンといって、ぴちっと座るか後ろに座って、こっちの表情とか全然読めないようにするんですけれども。ただ、この場合の面接は、要するに日本の伝統的なカウンセリングは、比較的どれもアクティブに返すんじゃなくて、傾聴するんですよ。ロジャースでも傾聴しますので、そういう意味では厳密な自由連想法ではなく、比較的受け身的な面接というふうに見ていただいてもよいかと思います。
[裁判官・坂庭]位置としては、お互い向かい合うような形で話をすると。
[桜井医師]体面です。ちょっと遠めの椅子に座ってやっておりました。
[裁判官・坂庭]慶応大学病院に入院してた時期に幸子さんに関わられた医師、あなたのほかに前田医師、山田医師、芳賀医師といらっしゃったと思いますけど、この3名の医師はみなさん研修医だったんでしょうか。
[桜井医師]全て研修医です。
[裁判官・坂庭]この3名、前田医師、山田医師、芳賀医師がこの病棟におられた時期ですとか、あるいは幸子さんを担当されていた時期というのは、途中で引き継ぎとかありますけど、これがどういう事情で起こったのかを教えていただきたいんですが、それはルーチンに、いつになったら動くというようなしくみがあって、それで動いたということなんでしょうか。
[桜井医師]そうです。
[裁判官・坂庭]例えば担当を離れた前田医師ですとかは、その後は別の患者さんを担当されていたということになりますか。
[桜井医師]そうです。上下のペアを組み替えます。
[裁判官・坂庭]幸子さんに生じていました恋愛性転移が非常に類例を見ないもので、予測もできなかったとおっしゃいましたけれども、どういった点で特殊だったんでしょうか。
[桜井医師]一つ目は、淡い気持ちで恋心を持つみたいなものは、これはありふれてるんですね。もうちょっと段階が強くなると、先生のこと大好きっていうくらいのはあるとします。でも、実際に交際を申し込む方っていうのは、これは珍しいです。珍しいけれども、1回断られて、それであきらめる人はいるかもしれません。絶対ないとは言えない。時々あると。でも、断られても断られてもあきらめないで、まるでずっと、よく言えば親鳥を追っかける小ガモみたいに、こうやってくっついてくるということは私はみたことはありません。
[裁判官・坂庭]あなたが幸子さんの転移が類例をみないものだということに気づかれたのはいつ頃になるでしょうか。
[桜井医師]これは9月の初頭に、起こって何日目かに、ほぼ気づきました。
[裁判官・坂庭](乙A第7号証を示す。)201頁、平成11年4月にセッションを打ち切る時に送られたメールかと思うんですけど、この中に「あなたが恋人としての私を求めていて、ほかの何ものでもないというのが私にもやっとわかりました(97%でなく、100%わかったと思います)」と書いてありますけど、これは今お話しいただいたような類例をみない転移であったか否かということと関係してくる話なんでしょうか。
[桜井医師]もちろんそうです。
[裁判官・坂庭]ここで「やっとわかりました」ってかかれてるのにちょっとひっかかってるんですけれども。
[桜井医師]だから、例えば、ほんのちょっとは治療を求める気持ちがあるんじゃないか、私を治療者として使ってくれるんじゃないかという気持ちを、このときまでずっと持ってたってことです。
[裁判官・坂庭]それを、この段階であなたは、もうそれは無理だということを。
[桜井医師]この人に治療者として関わるのは100%無理なんだというふうに、この段階でやっと思ったという。
[裁判官・坂庭]もしこういった事情により早く気づいていたとしたら、幸子さんに対する対応の方向は変わっていたということになりますか。
[桜井医師]それがもし明確になっていればですね。ただ、それが、気づくというよりも、お互いにもうそうなるしかないというふうにだんだん熟してきたと私は思ってます。恋愛だけじゃなくて、やっぱり親子的な依存みたいなものも一緒に入ってますから、そういう部分で彼女が私を使ってくれた部分は当然あると思います。
[裁判官・坂庭]恋愛しか求めていないということになりますと、もう治療は、少なくともあなたによる治療は不可能だという判断になるんでしょうか。
[桜井医師]ええ。要するに、一緒に結婚したいとか、それだけが100%目的であれば困難です。
[裁判官・坂庭]あなたご自身の当時の認識としましては、平成9年11月からのモーニングワークというのは、簡単にいいますと、何を目的として、どのようなことを行うことだというふうにお考えだったんでしょうか。
[桜井医師]これはあまり日本でやらないことなんで、私なりの考えを持ったり、N氏なりの考えがあったりして、治療の振り返りをしようと考えたのが最初の考えで、それはある程度中久喜氏と一致してると思います。だから、あのときこうだったとか、そういうことを話し合うと、そこで過去の感情も出てきて、少し解けてくる。それをもう一回、ああ、やっぱりああだったねみたいに、もう一回落ち着かせると、そういうことですね。
[裁判官・坂庭]過去にけじめをつけるというような表現でいいんでしょうか。
[桜井医師]ええ、そうです、けじめをつける。一遍、その前にちょっとやっぱり懐かしんだりしてね、その上でけじめをつけるってことです。
[裁判官・坂庭]そのモーニングワークの目的が途中から変容してきたというようなことはあったんでしょうか。
[桜井医師]これは振り返って記録を詳細に検討しますと、もう二回目のセッションでは無理になってるし、一回目と二回目の間の11月17日の中久喜氏の記録でも、もうこれは無期限だというふうに変わってます。だから、1回目からもうほとんどうまくいかなかったのだと思います。
[裁判官・坂庭]そうしますと、一回目から、あるいは二回目からのモーニングワークの目的というのはなんになるんでしょうか。
[桜井医師]まず、私の方はとにかく少しでもこの方をサポートすることですね。目前に中久喜氏の長い冬休みが待ってるという、これはとっても危機的な状況だったわけです。なんとかサポートしなきゃいけない、そして少しでもいい人間関係をまた盛り返していく。昔あった絆をやっぱり少しずつでも、これちょっと、ただ追っかけてくるだけっていう転移性恋愛になる前には、ややいい信頼関係がありましたから、なんとかそれを少しでももとに戻そうというのが目的になりました。
[裁判官・坂庭]慶応大学病院に入院してた時に一時は信頼関係ができたということですけど、信頼関係が崩れてしまった原因はどのあたりにあるとお考えだったんでしょうか。
[桜井医師]これはやっぱり、先程述べたようにいくつかのことが一遍に起こっておりまして、昔の彼にふられた、その後2週間くらいの間にご家族との間も崩壊しています。扱いにくくなったというふうにご家族も述べられていらっしゃいます。そして私との間も、好きすきできたんじゃなくて、一度ちょっと崩れているのかなと。これはすごく判断は難しいんですけれども、ちょうどその頃に女性の患者さんが入ってきて、幸子さんがその方にとても嫉妬した。そして、桜井医師先生の一番目の患者さんの座が揺らぐのではないかというふうにカルテに書いてあるんですけど、その辺でちょっと一遍私との信頼も揺らぐんですね。揺らいだ後で、何かそれまでの信頼関係とはちょっと別物の、とにかく追っかけていくという関係が生じてきてるようです。
[裁判官・坂庭]それで、それにはこたえらえなかったということになるわけですか。
[桜井医師]そうです。
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裁判長 金井康雄
中久喜医師からの依頼を受けてだと思うんですけれども、平成9年の末から面接をまた再開しましたよね。その過程で、中久喜医師の治療方針といいますか、その点はあなたは何かはっきりと伝えられてたんでしょうか。
[桜井医師]いくつかの部分的な助言あるいは言葉はありましたけれども、中久喜医師の治療方針ははっきりとは伝えられておらず、むしろ患者さんの話から中久喜氏の治療方針を推定していることが多かったです。
裁判長 金井康雄
あなたの方は、診療すると、そのレポートを中久喜医師に毎回報告してるわけですね。
[桜井医師]はい。
裁判長 金井康雄
それに対する、中久喜さんからの反応というのはどういうかたちで伝わってくるんでしょうか。
[桜井医師]時々電話で話したことは、特に初期の方にあって、中久喜氏のカルテに残っておりますけれども、途中からはあんまり返ってこなくなりましたね。
裁判長 金井康雄
そうすると、精神療法を二人のドクターがやっていくという関係になってたかと思うんですが、それ自体は困ることはなかったんですか。
[桜井医師]私自身は自分が医者で薬を投薬しながら、サイコロジストが面接をしてるっていうんで、そのサイコロジストのところでどんな話をしてるのかと、あなたはどう思ってるのとか、ちょっと聞きながら、なんとかそれにあわせてやってくみたいなことはわりと多いんで。日本の保険診療は医者が面接なかなかできませんので、そんなつもりでやっておりましたけれども、ふたを開けてみましたら、私が思ったよりも随分大きなずれがあったようでございます。
裁判長 金井康雄
その面接ですけれども、これは済世会中央病院でされているということですわね、
[桜井医師]そうです。
裁判長 金井康雄
その際はどういう場所の設定になるんでしょうか。
[桜井医師] 場所は普通の診察室です。
裁判長 金井康雄
あなたと幸子さんが相対で話をしていくという形になりますか。
[桜井医師]そうです。間に大きい机があって、私の後ろに本棚をしょってるような設定です。
裁判長 金井康雄
看護師とか、そのほかの方々というのはそういう場には居合わせるんですか。
[桜井医師]普通の診察室でも中には入ってきません。看護婦は原則的にはいってまいりません。
裁判長 金井康雄
B中央病院でのそういう治療過程で、どなたか上司と相談しながらやるとかということはあったんですか。
[桜井医師]上司も、大丈夫かというような声は当然かけてくれておりましたけれども。
裁判長 金井康雄
今回、意見書を書かれている半田さん、この方とは幸子さんの診療については、当時、いろいろ話を、意見交換をするとか、そういうことはあったんですか。
[桜井医師]まあ、ある程度ですね。あまり強い示唆はもらっていません。彼は精神療法の専門家ではないということに当時はなっていたのかな。だから、なんとか頑張ってくれという感じでありました。
裁判長 金井康雄
そうしますと、済世会中央病院の診療過程というのは、主にあなたが考えてやっておられて、その結果は常に中久喜医師に報告していたという形で考えておけばいいんですね。
[桜井医師]そう、中久喜医師との関係が大きな関係です。
以上
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