裁判についての精神科医たちからのコメント(1)
2006年6月6日付、関東地方のある精神科医に対するインタビュー(概略)
1、「恋人役」は非治療的である。
2、A大学病院の治療の最初のセッティングが、本来の治療から外れていたのではないか、という気がする。治療構造の問題があるのではないか。
3、恋人役になるような治療を行ったのであれば、それは本来の医療からは外れている、といえる。BPDの治療、というもの以前の問題であろう。
4、しかし、それで自殺までを全て、因果論的に説明することは難しいと考える。自殺には、複合的な要因が作用しているとも考えられる。
5、被告側HK両医師による意見書は、両医師がA大学病院系なので、「自分の弁護」になる。これは中立ではない。バイアスがかかるから。
本当は、中立の立場の医師が書くべきであろうし、裁判所が鑑定を依頼すべきではないか。あるいは、裁判所が誰かに意見を求める、ということもあるのではないか。
原告から医師への質問:
被告医師は、「恋愛でなければ死ぬ」と幸子から言われたから「恋愛感情がある」と言った、「死なせないためにやった」と主張しているが、そういう治療方法はある、と言えるのか。
医師の回答:
そういうことになれば、普通は、治療者を変更すると思う。自分も、患者が「死ぬ」というのなら、治療者を変えると思う。たしかに、「うそでも言ってしまう」ということは、「正直な・経験ある先生」であれば、ある。もちろん、経験に基づき、その後の治療を見通してのことだ。
しかし、このケースでは、もっと別の道がなかったのか、と思う。治療者を変えればよかったと思う。原則は、治療者を変えることだから。また、N医師が主治医であるにもかかわらず、被告医師が自分の思いで勝手に介入する、ということがあれば、それは問題である。
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2006年8月23日付、東京都内のある精神科医より、裁判資料についての感想(メール)
6月に資料をお送りいただき、また丁寧な書簡を頂きました。内容を一瞥して、とても深刻なものであり、私が安易に関われるような問題ではないと感じました。また忙しさに取り紛れてお返事を差し上げず、失礼いたしました。しかしその間も頭を離れず、結審を間近に控えられているという事でひと言私の感想だけでもお伝えしたいと思い、メールで失礼させていただきます。
幸子さんの体験なさった事は、私たち臨床家がしばしば遭遇することでもあり、どうしてそれまで健康に過ごされていた方にこのようなことが生じるのかが、専門家の間でも充分に理解されていない問題でもあります。
特に若い女性が恋愛や結婚を機に退行したり、繰り返し自殺を図ったりするようになり、治療的なかかわりに抵抗を示すというケースを私たち臨床家はまれならず体験します。
ボーダーラインという診断は私たちがこれらの人々に暫定的に付けることが多く、実態をわかった上で診断を下しているというわけではありません。
そして患者さんの示す様々な行動は、多くのファクターや偶然が重なった結果であることが多く、逐一因果関係を見出す事が出来ません。
その意味ではお嬢さんのケースについても、自殺が被告医師の不適切なかかわりにより引き起こされたと断言する事は出来ないでしょう。
ただし患者さんたちは一般に親密な関係にある人が同様に精神的に不安定な場合に「ともゆれ」する傾向にあります。
資料を読んだ限りでは被告医師は言動の内容がしばしば変わり、情緒的にも不安定な様子であり、彼とのセッションの後で幸子さんが自殺企図を繰り返したことは無理もないと考えます。
被告医師の精神科医としての振る舞いは、事実関係がこのとおりであるならば、きわめて無責任で思慮に欠いたものという印象を受けます。
患者治療者関係を踏み越えて患者と個人的な関係を結ぶ事はわれわれの世界では明らかなタブーと認識されています。
日本にはそれを罰する法制度が整っていない可能性がありますが、それだけまだ後進国ということなのでしょう。ですからご家族の被告医師が法で裁かれるべきだというお考えは充分理解できます。
個人的には、被告医師が治療者として仕事をしていることに憤りすら覚えます。根本的なモラルの感覚が欠落しているのでしょう。
このケースを通して、日本の臨床家の間でも、治療者としてのモラルの向上が図られるようになればと考えています。
以上簡単ですが、私の気持ちをお伝えしました。お送りいただいた資料ですが、きわめて詳細であり、同様のケースが何故おきるのかについて色々なヒントが隠れている気がします。今後私が臨床を続ける上で参考にさせていただきます。同様の問題で苦しんでいる方々やその後家族の力になれないか、と思うのです。それが私が貢献できる方法ではないかと思います。
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