中久喜医師尋問調書

平成18年3月27日 午前10時00分

氏名 中久喜雅文
年齢 76歳
住所(省略)

裁判長(官)は、先生の趣旨を説明し、証人が偽証をした場合の罰を告げ、別紙宣誓書を読み上げさせてその誓いをさせた。

宣誓 良心に従って真実を述べ、何事も隠さず、偽りを述べないことを誓います。

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池原弁護士=原告側弁護士
池尾弁護士=被告側弁護士
古谷弁護士=被告側弁護士
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原告代理人(池原弁護士)
証人のご経歴についてですが、195X年にP大学の医学部を卒業されて、195X年にP大学から医学博士学位を授与されていると。

[中久喜]はい、そうです。

[池原弁護士]196X年にP大学の助手になられておられますね。

[中久喜]はい、そうです。

[池原弁護士]196X年にはアメリカのR大学に研究のため留学され、196X年から6X年まではJ大学で精神科のレジデントの訓練を行われたということでよろしですね。

[中久喜]はい、そのとおりです。

[池原弁護士]196X年に帰国されて、196X年までP大学医学部の講師をされて、P大学病院の精神科病棟医長をつとめられたと。

[中久喜]はい、そのとおりです。

[池原弁護士]196X年から197X年まではJ大学の精神科助教授をなされていますね。

[中久喜]はい、そうです。

[池原弁護士]197X年から現在に至るまで、J大学精神科臨床助教授の地位を持っておられるということでよろしいですね。

[中久喜]はい、そうです。

[池原弁護士]一方、1974年にアメリカの精神科専門医の資格も取得されているということでよろしいですか。

[中久喜]はい、そうです。

[池原弁護士]そして、アメリカでも精神科医として開業されておられますが、1995年4月に帰国されて、M医科大学の客員教授に就任されたということでよろしいですね。

[中久喜]はい、そうです。

[池原弁護士]帰国後、Eの所長として、個人としての開業もされているということですね。

[中久喜]はい、そのとおりです。

[X弁護士]なお、199X年から日本W学会の認定のスーパーバイザーをされ、200X年11月からは日本Q学会認定精神療法医のスーパーバイザーをされているということでよろしいですね。

[中久喜]はい、そうです。

[池原弁護士]証人が亡くなられた幸子さんの治療を開始されたのは平成9年2月7日ということでよろしいでしょうか。

[中久喜]はい、そのとおりです。

[池原弁護士]その診療を開始されたのは平成9年、つまり1997年になりますが、11月12日から、被告の桜井医師のところへも治療に行くという体制になっていますよね。

[中久喜]その開始当時はそうではありませんで、私が開始してからそれを決めたわけです。

[池原弁護士]N先生のところでの治療の開始が平成9年2月7日で、治療が進んだ後、その年の11月になって桜井医師のところにも行かせるという形になっていますか。

[中久喜]そのとおりです。

[池原弁護士]このときに、桜井医師とN先生の間での診療上の情報の共有化といいますか、連絡はどのように取り決められたんでしょうか。

[中久喜]再開に当たっては、これは再開したのは、幸子さんが桜井医師についていろいろ話をされるわけですね。その関係がまた非常に葛藤的で、ずっと続いてるってことが判明したわけですから、それはやっぱりけじめをつけるために、治療終結ですね、その必要があると思いまして、そのタイミングを待っていたわけですね。桜井医師との治療終結の最後をいつにするかってことですね。それがちょうど、その当時、Qさん、幸子さんの親友ですけども、Qさんが桜井医師に連絡をして、どうしても会ってほしいと。で、桜井医師が、じゃあということで。ただ、その当時、私が主治医だったもんですから、私に連絡して、私のオーケーを受けたいっていうことで、じゃあいいタイミングだと思って。

[池原弁護士]治療が始まったということですね。

[中久喜]そうですね。

[池原弁護士]先生ご自身は、M医科大学の客員教授もされていて、それ以外の精神科病院とのつながりもお持ちなんでしょうか。

[中久喜]はい。その当時、すでにT病院というのがありまして、そこに週一遍、コンサルタントとしていったり、今でも行っております。

[池原弁護士]そうすると、幸子さんに限らず、もし先生のところに患者さんが入院を必要とするぐらい具合が悪くなったという場合には、しかるべく精神科病院に入院させるということは可能だったんですか。

[中久喜]それは可能です。現在でもそうしております。

[池原弁護士]桜井医師との平行した治療関係が平成9年11月から進んでいきますが、この前提として、桜井医師の方から診療の内容についてN先生の方にファクスを入れるなりして連絡を取るということになっていましたか。

[中久喜]ええ。こういう方の治療にはそういうコミュニケーションが非常に大事ですし、お互いに診療をどういうふうに行われているかってことを知ることが必要ですから、桜井医師に、面接の後、その内容をファクスで知らせてほしいと、そういうことを前提にして、このへ以降面接ですね、それが行われたわけです。

[池原弁護士]桜井医師から受けとったファクスの内容については、幸子さんにも情報開示をするということは前提になっていたのでしょうか。

[中久喜]そのとおりです。

[池原弁護士]そのことは中久喜先生の方から桜井医師の方に、当然見せることになりますよという連絡をされたんですか。

[中久喜]はい、そうです。

[池原弁護士]治療上、患者さんに伝えることが好ましくない情報というものがあるかどうかわかりませんけれども、悪影響をおよぼす危険性のあるような情報を桜井医師が先生のところに連絡をすることができないという問題は起こらなかったでしょうか。

[中久喜]それはあったかもしれませんけれども、こういう境界の患者さんを治療する場合には情報開示ってことがとても大事なんですね。それを一貫してやらないと患者さんは混乱してしまいます。したがって、私はそういう情報開示を幸子さんにもしたわけですね。

[池原弁護士]桜井医師の側から、例えば幸子さんの病状や境界性人格障害という病気からすると、全て本音、本心を開示してしまうと、ご本人に大変な混乱を生じてしまうとか、あるいは自殺の危険性を増やしてしまうかもしれないので、今申し上げたような、先生に全ての情報をお流しして、それを幸子さんに全て見せてしまうということは適当ではないというような話はありませんでしたか。

[中久喜]そういう話はありませんでしたし、私もそれを続けることが幸子さんにとっていいことだと確信しておりました。

[池原弁護士]そうしますと、桜井医師のもとで受ける治療に関する情報は、全て真実の情報として中久喜先生のところに伝えられて、そしてそれは当然、また幸子さんにも伝えた上で、お互いに治療関係を勧めていくという合意だったということでいいんでしょうか。

[中久喜]そのとおりです。それが信頼関係をつくる上で最も大事なことだと思いました。

[池原弁護士]桜井医師は、本件の訴訟になって、中久喜先生のところでは緊急の場合に入院ができないということが一つあって、したがって、自分が間接的に幸子さんに伝える事柄によって、もし自殺の危険性が起こった時に取り返しのつかないことになるのではないかということが心配だった、それから、幸子さんに全ての情報がそのまま流れてしまうので、自分の言動によって幸子さんが自殺に踏み切るということがあると困るということで、本当のことが言えなかったというようなことを言っているのですが、どうお考えでしょうか。

[中久喜]その本当のことが言えないということ自体がとても問題だったと思います。むしろ全面的に本当のことをおっしゃった方が、かえってこの治療にはよかったと思うんですね。といいますのは、例えば、彼は治療中に結婚をされてるわけです。婚約者と結婚されてるんですね。それはもう行動で恋愛感情はないってことを示したわけですね。それを幸子さんはちゃんと受けとめて、かえってその後、状態が安定したわけです。ですからそういうふうに、行動よりはむしろ言葉でちゃんと言明した方が、コミュニケートしたほうが良かったと思います。

[池原弁護士]N先生の立場からご覧になって、桜井医師から送られてきたファクスについて、これは本当のことではないなとか、あるいは、幸子さんに伝えられることをおもんばかって、本心とは違うことを書いているなというふうに思うようなファクスはありましたか。

[中久喜]ありません。ファクスに書かれたことは全部幸子さんから私は聞いておりますし、それは大体一致していたわけですね。ですから、本当のことを伝えられたと私は思っておりました。

[池原弁護士]中久喜先生のお立場からみて、桜井医師の幸子さんに対する診療態度、診療の仕方というものについての問題点というのを簡単に指摘していただくと、どういうところが一番問題だとお考えですか。

[中久喜]慶応病院の時の診療ですけれども、カルテを拝見しますと、週4回、自由連想という形で精神療法をやっておられたようで、彼は今でもそれがよかったと言っておりますけれども、精神医学界の常識では、境界例の患者さんに週4回もインテンシブに治療をする、サイコセラピーをするってことは禁忌とされているわけです。いけないとされているわけですね。ですから、そういうことをしますと、患者さんは自由連想的にいろんな空想がわいてくるわけですよね。すると転移も起こってきますし、ですから、そういうことはいけないことだなってるわけですね。それは常識です。

[池原弁護士]境界性人格障害の方一般についても、それから本件の幸子さんに関しても、まず自由連想というような精神分析の仕方は適当ではなかったと。

[中久喜]そのとおりです。

[池原弁護士]それから回数としても、週4回というような診療の仕方というのは限度を超えているということになりますか。

[中久喜]そのとおりです。

[池原弁護士]それ以外に、桜井医師の言動などで不適切だとお考えになられるようなところはないでしょうか。

[中久喜]済世会中央病院の外来で、夜遅くまで診療されて、時には6時間、7時間にわたって診療されたということがありましたけれども、それは非常に反治療的であったと思いますね。大体、面接には1時間半から2時間が限度なんですね。それ以上になりますと、もう集中力がなくなってきますし、かえって逆効果になってしまうわけですね。それをあえてしたということは、幸子さんの状態を悪くした、結局、家族の方に来てもらってうちに同伴していただくと、そういうことになったと思うんですけれども、それは非常に反治療的な態度だったと思いますね。

[池原弁護士]乙A第1号証を示す
これは慶応大学病院のカルテなんですけれども、173頁の前の頁から見ますと平成7年9月7日付の記載に書いてあるところですが、173頁の中で上から4行目、「Dr被告の距離のとり方(おもわせぶりな態度、という表現、をする)につき終始」って書いてあるんですかね。同じく190頁、例えば上から3行目のところ、「今までDrにすきだよといいつづけてきたが桜井Drは「それもいいね」などおもわせぶりな言葉、態度をとってPt」、つまり患者「にゆさぶりをかけていた、らしい」という記載があったり。これは慶応大学病院の他の医師の記載だと思うんですけれど、恐らく芳賀医師の記載ではないかと思われるんですが。それから195頁、やはり上から2行目から、「桜井Drに関しては被告Drの”おもわせぶり”な言動というようなものが幸子さんを翻弄したという可能性はあるでしょうか。

[中久喜]それは大いにあると思います。

[池原弁護士]例えば先生が認識されてる範囲では、どんなことがあったと思われていますか。

[中久喜]桜井医師自身からのファクス、私宛てのファクスで、桜井さんと私とは微妙に合うところがあって、お互いに引きつけられると、そういう私も引きつけられたってことははっきり明言してありました、そこに。そういうところで、自分も入院中に桜井医師に対して思わせぶりな態度をとったらしいと、そういうことはおっしゃってますね。

[池原弁護士]幸子さんが桜井医師に対して恋愛性の転移を有するに至っていたということは、おおむね当事者間で争いがないように思うんですが。

[中久喜]ええ、そのとおりですね。

[池原弁護士]桜井医師の側が幸子さんに対して逆転移といいますが、むしろ医師として患者に恋愛的な感情を持っていたという点については、被告の桜井医師は否定をしているんですけれども、先生から見られたときには、逆転移ということがあったことになるんでしょうか。ないことになるでしょうか。

[中久喜]はっきり言って、あったことになります。それはファクスで彼も何度も何度も繰り返し言っております。

[池原弁護士]乙A第7号証を示す
65頁に、ご報告と題する書類になってまして、平成9年12月19日の日付があります。この一連の、同時に送られたファクスだと思うのですが、その頁の4枚目、証拠でいいますと68頁になりますが、この真ん中あたりの「ディベートなら負けませんよ。」と書いてある下のところですが、Sという頭文字で「私はものすごい力で幸子さんを下の方(無意識の方)で引っ張ってる。それなのに寄ってくるとバッシングする。(これが非常に重要なことだと感じています)まったくの虐待であると思う。申し訳ないと思う。」という記載がありますが、ここにいうSというのは桜井医師のことでしょうか。

[中久喜]そう思います。

[池原弁護士]これは先生もお読みになってるわけですね。

[中久喜]はい。

[池原弁護士]これをお読みになって、どのようなことをお考えになりましたか。

[中久喜]これはまさにそのとおり、虐待だったと思います。引きつけておきながら今度はバッシングするという、これは境界例の患者さんの治療の場合に非常に反治療的なことですね。一貫性がないわけですね。ですから、我々が読んでも、それは混乱しますね。幸子さんにとってはもっと混乱したと思います。そのテーマは一貫して治療に流れておりまして、それは自殺に至ったときまで、その傾向は流れていたと思います。引きつけておいて、それを拒絶するという、そういう一貫しない態度ですね。

[池原弁護士]こういう表現は、恐らく被告の桜井医師の弁明によれば、そう書かないと幸子さんが自殺してしまうかもしれないという弁明になるんだと思うんですけれど、この当時、そういう危険性があったんでしょうか。

[中久喜]むしろはっきりおっしゃったほうが治療上はよかったと思います。といいますのは、彼は行動の上で恋愛感情がないってことを結婚によって示したわけです。それで幸子さんの反応は非常な怒り、自殺でなくて怒りになったわけですね。それは非常に治療的だったと思います。それによって関係が解消されたわけですけれども、その後、幸子さんの状態はかえってよくなってるわけですね。そういううやむやとした関係から離れて、関係が改善されたと私は解釈いたします。

[池原弁護士]A第1号証の2を示す
40頁は平成10年1月13日付の、桜井医師から、中久喜先生と、それから手書きで幸子様と書いてある報告書ですが、これでずっと連続して送られてきたと思われる、証拠でいいますと44頁の上に、つまり、太字で簡単に書いておきます、「双方向に恋愛(原初的ですごいエネルギーの)感情はある。現実の外側の世界ではそれは不可能。ということでそんな感情はなかったことに切り捨てる、ということを(私も幸子さんも)いつもしている、ということだと思います。」というような記述がありますが、これはお読みになったことがありますね。

[中久喜]あります。

[池原弁護士]これはどういうことを指していることになるんでしょうか。

[中久喜]つまり、幸子さんの転移ですね、恋愛転移、それから片方にセラピストの桜井医師の逆転移、恋愛感情、その両方、転移、逆転移、両方恋愛で結びついていると、そういうことだと思います。そう解釈します。

[池原弁護士]これは、桜井医師が実はご自分自身が本心で思っていることではないけれども幸子さんの手前、このように書かざるを得なかったというような状況はこのときあったんでしょうか。

[中久喜]それは桜井医師に聞いてみないと分かりませんけれども、私が幸子さんの治療で聞いてる限り、それは本当だったと思います。

[池原弁護士]同じ甲A1の2の47頁及び48頁は平成10年1月17日付の、桜井医師から中久喜先生への報告と題する書面ですけれども、この2枚目、つまり証拠でいうと48頁のほうに、「恋愛的な感情という(揺れる)基盤の上に、それを見ない振りをしながら治療を一生懸命構築してもうまく行かないのは当然だった、というのが私にやっとわかったことです。」と、「このことは、もちろん、治療者としてのわたしが幸子さんにどうお詫びしても足りないことです。」と、こう書いてありますが、これも桜井医師が結局逆転移の感情を持っていたということを示すと理解してよろしいんでしょうか。

[中久喜]ええ、そのとおりです。

[池原弁護士]同じく甲A1の2の182頁及び185頁、これは今までの書面のようにご報告という形での形式はちょっと違ってるんですけれども、182頁の右肩には桜井医師の名前と済世会中央病院のハンコが押してあって、左側はちょっと消えておりますが、これは中久喜先生宛てのファクスということでよろしいでしょうか。

[中久喜]中久喜先生御机下と書いてありますね。

[池原弁護士]これのときに送られたもので、185頁の中頃よりちょっと下、1)になっているところに、「恋愛感情・・・、非常に原初的なもの−は確かに存在したし、今もセッションに存在する。(だから1月5日の「愛情はなかった」という発言は心理的には「裏切り」であると認められる。)」と。それから2番のほうで、「しかし、被告はそれを現実の恋愛による交際という道で発展させることを選ばなかった(今も選ばないと)、これは幸子さんからみれば被告が結婚していると形で現実化している。」と、こういうふうに書いてあるんですね。これも結局、現実的な社会関係としては、いわゆる恋人同士というか、恋愛をして、あるいは結婚をするという男女関係にはなり得ないけれども、気持ちの上では恋愛的なものを持っていたということを示してることになるでしょうか。

[中久喜]はい、そのとおりだと思います。

[池原弁護士]45頁は平成9年11月12日付の桜井医師から中久喜先生へのご報告というものですけれども、これの2枚目、証拠でいうと46頁の上から1行目からいきますと、「(桜井)先生のことは意地になって言わないようにしたので中久喜先生は最初の恋人とのトラウマだと思っている」との言でした。しかし、本日の面接で、私としてはやはり治療のトラウマが問題だと認めざるを得ません。」という記述がありますね。これはどういう意味なんでしょうか。

[中久喜]つまり、もともとは幸子さんはボーイフレンドとの恋愛関係の終結、それがもとでうつになったわけですが、その時点ではそれあ問題ではなくて、むしろ桜井医師との関係の中でのトラウマ、それが重要な現象であると、そういうふうに彼は認めているわけです。

[池原弁護士]桜井医師の治療そのものが、逆にいうと、幸子さんの心理的な外傷体験を与えたと、トラウマというのはそういう意味ですか。

[中久喜]そう、そう彼も認めているわけです。

[池原弁護士]そういう認識は、先生からごらんになって、間違った認識なんでしょうか、正しい認識なんでしょうか。

[中久喜]正しい認識だと思います。

[池原弁護士]同じく乙A7号証の48頁、平成9年11月21日付の、同様のご報告と題する書面ですが、49頁のほうを見ますと、真ん中のあたりに、「お互いに実際の恋愛関係にはならない、という理屈の上での確信があったので余計に情緒的にはお互いに(否認しながら)恋愛感情(少なくともそれに近いもの)を動かした、ということはあきらかのように思えました。」という記述がありますね。

[中久喜]はい。

[池原弁護士]これも、単に幸子さんが恋愛感情を持っていたということではなくて、桜井医師自身も持っていたということを示しているものですか。

[中久喜]そう示していると思います。

[池原弁護士]なおかつ、それが現実の生活関係の中では実現されないような関係であることが、さらに困難な状況になってたということになりますか。

[中久喜]そういうことになります。

[池原弁護士]乙A7号証83頁、これも同じく桜井医師のところから送られてきたファクスですね。

[中久喜]はい。

[池原弁護士]1月7日の記述で、下から4行目ですけれども、「たしかに私の方は(幸子さんと同じぐらいの大きさと思う;むしろこちらが幸子さんを振り回したと感じている)「恋愛感情」(非常に原初的な感情)を向けていたし、今も(年末のセッションではっきりと認識した)その感情はある。」と書いてありますね。これも同様のことを言ってるわけですね。

[中久喜]そのとおりだと思います。

[池原弁護士]こういうところに、桜井医師と中久喜先生との間での並行的な治療関係が進んでいく中で、桜井医師自身が従来の慶応病院時代あるいは済世会中央病院時代の幸子さんに対する本音としての思いというものを表現していたというふうに考えてよろしいでしょうか。

[中久喜]そう考えていいと思います。

[池原弁護士]こういうことを総合すると、桜井医師自身も結局は逆転移に巻き込まれていたということになるんでしょうか。

[中久喜]当然そう考えざるを得ません。

[池原弁護士]幸子さん自身の生育暦についての幾つかの指摘や、問題点があるかのように指摘されておりますが、幸子さんの生育暦の問題が最終的な自殺の原因となったとか、あるいはきっかけになったということは言えるんでしょうか。

[中久喜]そうは言えないと思います。

[池原弁護士]どうしてそのようにお考えになりますか。

[中久喜]やっぱり非常に真剣な自殺企図あるいは完結した自殺、こういう行為というのは非常に特異な感情状態でありまして、幸子さんの小さいときからの感情とか行動とは全く切り離して考えるべき病理だと思うんですね。そういう小さいときの状況というのは多くの患者さんが多かれ少なかれ持ってることで、健康な我々でも持っているわけですね。

[池原弁護士]健康人でも幸子さんに見られた程度のことはエピソードとしてあり得るし、一般の境界性人格障害の方であれば、この程度のエピソードというのが特別重大なものとは考えられないと。

[中久喜]考えません。

[池原弁護士]幸子さんの自殺企図について少し見て見ますと、平成7年、8年頃の自殺企図というのは余り深刻な手段をとっていないんですけれども、慶応病院時代を過ぎてから、病院に入院して治療を要する程度の自殺企図を何回か起こしていますね。これは桜井医師との関係が問題を大きくしたというふうに考えるべきでしょうか。

[中久喜]例えば、幸子さんが自殺企図をする前に幸子さんは必ず桜井医師に電話をしてるわけですね。それは桜井医師の声を聞きたいということで、それはもうルーチンになっていたわけですね。ということは、桜井医師との関係がかなり自殺企図に関係していたと見ることができます。

[池原弁護士]2000年、つまり平成12年になってから、桜井医師と幸子さんとの面接といいますか、会うということを再開する計画が持ち上がりましたね。これはどういう目的でそれをされようとしたんでしょうか。

[中久喜]これは幸子さんの提案でございまして、私は初めはそれは中止をしてたわけですね。また危ない状況になるからやめたほうがいいんじゃないかということで中止したんですが、彼女は2回目のセッションでその理由を詳しく述べてくだすって、それはそれに書いてありますけれども、第1に、この関係は彼女の生命力を維持する、自分、もう死んでしまったような、賦活した心、賦活させてくれる人は桜井医師だけであると、そう彼女は述べたわけですね。第2に、一応結婚することになっていたので、心の関係、桜井医師の葛藤的な関係を一応整理して結婚に向かいたい、新しい生活を始めたいということですね。第3に、桜井医師もこういう傷を負った人だと思うので、お互いに補助しながら、セルフヘルプって彼女は言ってます、自助グループですね、そういう関係を保ってやっていくのはお互いにいいんじゃないかと、友人関係ですね。ですから、そういうソーシャルな関係を続けていきたいと、そう彼女はおっしゃっていたわけね。私はその頃、彼女はうつ状態だったもんですから、非常に前向きな姿勢で建設的であるし、前のような転移に基づいた破壊的な衝動的行動は起こさないと思いまして、世間話程度だったらいいんじゃないかということで、一応、じゃあこのメッセージは桜井医師に伝えますということで、電話したわけです。私は、桜井医師はそういう過去の体験がありますから、家族に脅迫の電話をかけるとかですね、当然、桜井医師はノーとおっしゃると思ったんですね。ところが桜井医師は、じゃあ考えてみます、幸子さんとお話してみますということで、電話でお話をしたらしいんですね。そうしましたら、彼の印象は、彼女は非常に改善してよくなっていると、で、意図もよく分かったと、それなら私もそうしますということで再開されたわけですね。ですから、私は強制的に再開してくれと言ったことは全くありません。これは桜井医師と幸子さんとの間の相互の理解でそうなったわけで。

[池原弁護士]その関係再開に当たって、基本的な合意事項といいますか、あるいは枠組みといいますか、構造といいますか、そういうものは定められたんですか。

[中久喜]それは、幸子さんと桜井医師の間で週に1遍、水曜日の午後、1時間か2時間ぐらい、お茶飲み話をすると、そういうことでいいっていうわけですね。それで関係が修復されていればいいと思って、私も深い病理的な関係になると思いませんでしたから、それで私はもう介入しませんと、2人でやってください、そういうことで始められたわけですね。

[池原弁護士]結果的に、先生が定められた構造といいますか、約束というのは守られたんでしょうか。

[中久喜]私はその情報は全く入っておりませんので分かりませんけれども、何か電話やなんかでかなり交流があったように、後で読みますと分かりました。

[池原弁護士]結果的に見ると、どうもその基本条件は破られているように見えるんですけれども、その当時はご存じなかったということですか。

[中久喜]はい、分かりませんでした。

[池原弁護士]2000年当時、既に婚約者がいたわけですけれども、社会生活上で婚約者、いわば愛する男性がいるという状態と、病的に発生した異性に対する転移感情というのは、両立、併存することはあり得るんでしょうか。

[中久喜]それはたくさんあります、そういう状況は。並立することはたくさんありますですね。

[池原弁護士]そうすると、幸子さん自体から完全に転移感情が消えていたということにはならないということになるんですか。

[中久喜]完全に消えたってことにならないと思います。ただ、将来のストレス状況で、それがまた再燃されるという可能性はあったと思いますね。

[池原弁護士]それが世間話程度の、週1回程度のものであれば、転移感情が賦活されるといいますか、増強されるということはないだろうと予測されていたと。

[中久喜]当時の状態からしまして、それはないと私は考えました。

[池原弁護士]しかし、その枠組みが崩れた結果、予想外の結果が生じたということになりますか。

[中久喜]5月1日に彼女は企図をしておられるわけですね。そのときに私は、Mさんから電話があって、彼女とも実際に電話で話をしたわけです。その時点では、針で刺したってなことを言っておりましたけれども、声ははっきりしておりましたし、状態としては悪い状態でなかった。ただ、針で刺したんなら、その傷を、感染が起こると悪いので病院に行って診てもらいなさいと、そういうことをお話したわけね。実際、彼女はそうしたわけです。ですから、その時点では自殺の、これ以上の自殺の危険はあると私は思いませんでした。

[池原弁護士]結果から振り返ってみたときに、結局、4月、それから5月初頭の桜井医師とのやりとりが結果的に転移感情を再度増強、賦活してしまったということは考えられますか。

[中久喜]それは考えられます。

被告代理人(池尾奏弁護士)
幸子さんは境界性人格障害ということをご診断されていると思うんですけれど、境界性人格障害というのは治療すれば簡単に治る病気なんでしょうか。

[中久喜]簡単には治りませんけど、治る可能性はある。私はアメリカでもたくさん治療しましたけど、完全によくなった方はたくさんおります。

[池尾弁護士]治らないことも多いですね。

[中久喜]まああります。

[池尾弁護士]一般論として、境界性人格障害の患者さんが自殺をして終わる例というのもかなりあるんでしょうか。

[中久喜]そういう例もあります。

[池尾弁護士]幸子さんにも自殺の行動はよく見られましたよね。

[中久喜]はい。

[池尾弁護士]幸子さんの自殺企図は突然行われることが多かったでしょうか。

[中久喜]大抵何かのきっかけがあって起こっておりましたですね。

[池尾弁護士]先生の診療のことについてですけれども、平成9年2月に先生が面接を開始されていると思うんですが、このとき幸子さんの状態は悪かったですか。

[中久喜]そのときには幸子さんは薬漬けの状態ですね。たくさん、もう10種類以上の薬が処方されておりまして、薬漬けの状態だったですね。そういう点では、状態はあんまりよくなかったですね。

[池尾弁護士]自殺念慮をよく口にされていたんでしょうか。

[中久喜]その時点ではしておりません。私は治療を開始する条件としまして、あなたは自殺企図を過去に何度もしておりますけれども、そういうことをするんだったら、ここで治療をすることは時間とお金のむだになりますから、やりませんとはっきり申し上げました。

[池尾弁護士]幸子さんは感情が表に出せない状況だったのでしょうか。

[中久喜]その薬漬けの状態がなくなってからは感情が出せるようになりました。

[池尾弁護士]先生は、7月頃にバージョン2も感情を出していくのも大切だというふうにカルテに記載されていますが、これはどういう意味なんでしょうか。

[中久喜]彼女が言うにはバージョン1とバージョン2がありまして、バージョン1のほうが彼女の健康な自己ですね、バージョン2が病的な自分ということに彼女は転移しておりましたですね。ですから、バージョン2をかりて彼女は感情を出していたわけですね。ですから、それを通して感情を出すのがいいでしょうということで、そういうことを申し上げたわけです。

[池尾弁護士]感情をもっと出していきなさいという指導をしていたということですか。

[中久喜]そうですね。

[池尾弁護士]幸子さんは、桜井医師とモーニングワークを開始するかどうかについて、モーニングワークを開始する前に、桜井医師からほぼ100%拒絶されるだろうというふうなことは言っていなかったでしょうか。

[中久喜]それは言っておりませんでした。

[池尾弁護士]桜井医師に拒絶されたら自殺のきっかけにもなるというふうには言っていませんでしたか。

[中久喜]そういうことは言っておりません。実は、桜井医師との関係を再開する前に、Qさんが桜井医師にコンタクトして、ぜひ会ってくれと。で、桜井医師はそれに同意したようなんですね。ただ、主治医が私だったので、私の了解を得たいということで連絡してきたわけです。

[池尾弁護士]甲A第1号証の1を示す
19頁、1997年、平成9年3月8日の先生のカルテですが、上から10行目くらいですけれども、「彼は拒絶するであろう、・・・したら自殺のきっかけになると思った。」というふうに書いてあるんですけれども、幸子さんは桜井医師と会ったら自殺のきっかけになるんではないかということで恐れていたんではないでしょうか。

[中久喜]非常に会いたい気持ちが強かったわけですね。一方で拒絶されたら死にたい気持ちが起こる、そのことを言ってるんだろうと思う。

[池尾弁護士]先生は陳述書の中で、「私との信頼が安定してきたところで、いつかは桜井医師との治療終結の作業が必要と考えていた」というふうにおっしゃってますよね。

[中久喜]ええ、そのとおりです。

[池尾弁護士]モーニングワークを始める直前、幸子さんは八王子の精神病院に入院したことがないですか。

[中久喜]直前はなかったと思います。

[池尾弁護士]乙A第15号証を示す
これは武田病院のカルテなんですけれども、9頁、平成9年10月5日というのはモーニングワークを始める直前ですけれども、「自殺念慮強く危険な状態。入院を家族が希望、八王子の飛鳥病院に紹介」と書いてありますが。要するに、モーニングワークの直前、幸子さんは八王子の精神科病院に入院するほど状態が悪かったということではないんですか。

[中久喜]10月5日といいますと、2月から私の治療が始まっておりますから。

[池尾弁護士]先生の治療は始まっているんですけども、桜井医師のモーニングワークが始まる直前、八王子の精神科病院に入院をされていたという事実があるということですよね。

[中久喜]それによるとそうなりますよね。

[池尾弁護士]先生はその病院に、先生ご自身が紹介状を書いていらっしゃるんじゃないですか。

[中久喜]私は書いておりません。

[池尾弁護士]乙A15号証の13頁は、先生が八王子のG病院というところに平成9年10日付で書かれた情報提供書じゃないですか。

[中久喜]そのようですね。

[池尾弁護士]お忘れになってましたか。

[中久喜]そうですね。

[池尾弁護士]幸子さんはこういうような状態で、モーニングワークをする直前はかなり具合が悪かったんではないですか。

[中久喜]私の全体的な判断としては、私との信頼関係ができれば、モーニングワークは遅かれ早かれしなければならない状況でありましたので、その時点でQさんが連絡をつけて、桜井医師が会ってもいいということでしたので、それを機会に、モーニングワークというのはちょっと言葉があれで、治療の終結ですね、終結作業に入ってもらうというふうに判断したわけです。

[池尾弁護士]ただ、八王子の精神科病院に入院するほど危険な状態がその直前にあって、モーニングワークをするのは少し早い段階ではなかったんでしょうか。

[中久喜]2月から診ておりまして、もうそろそろその時期であると私は判断しました。

[池尾弁護士]危険ではないと判断されたということですか。

[中久喜]はい、そうです。

[池尾弁護士]先生ご自身はモーニングワークをするということはできないんですか。

[中久喜]私がしてもよかったんですけども、本人が会ってもいいとおっしゃっていたので、桜井医師ですよね、そのほうが効果的であると私は考えたわけですね。

[池尾弁護士]先生は桜井医師からのレポートを受け取って、逐一読んでいらっしゃったわけですよね。

[中久喜]はい、そうです。

[池尾弁護士]幸子さんとのセッションも、その当時、定期的に継続的してやってらっしゃったですね。

[中久喜]はい、そのとおりです。

[池尾弁護士]先生は陳述書の中で、桜井医師が2回目のセッションのときに恋愛感情を告白したというふうに述べていますよね。

[中久喜]はい。

[池尾弁護士]それによって3カ月でモーニングワークを終結させることが不可能になたというふうにおっしゃってますね。

[中久喜]ええ、そうですね。

[池尾弁護士]それは間違いないんですか。

[中久喜]間違いないです。

[池尾弁護士]3カ月というのが無期限に延長になったのは、桜井医師が恋愛感情を告白したからなんですか。

[中久喜]はい、そのとおりです。

[池尾弁護士]甲A第1号証の1を示す
66頁、97年、平成9年11月17日、第1回目のセッションの後の先生のカルテでよろしいですか。

[中久喜]はい。

[池尾弁護士]いろいろ書いてあるんですけど、67頁の上のほう、「何が発展してゆくか分からないこと、終結という」、ちょっと読めないんですが、「期限を限定しないことにきめよう」というふうに書いてあって、「彼女もなっとく」したと書いてありますよね。

[中久喜]ええ。

[池尾弁護士]つまり、第2回目のセッション以前に既に、期限は決めないことにしようというふうに先生は幸子さんとお話しになっていますよね。

[中久喜]初めの条件としては3カ月という期限限定だったんですね。それで、ここで期限を決めないことにしたのは、何か私、理由書いてると思います。

[池尾弁護士]説明していただけますか。

[中久喜]・・・・。

[池尾弁護士]特に桜井医師が告白したとかなんとかというようなことは書いていないし、そもそも先生が、桜井医師が告白されたという第2回目セッションの以前の記録なんですけど。だから先生は、ちょっと陳述書は記載が違っていて、この第1回セッションが終わった後に、既に期限を決めないことにしようと決めていたということでよろしいですね。

[中久喜]ここに書いてあります。「終結という事にこだわるよりは、一応押し入れの中にしまっておいたDr被告との体験をしまつすることによって感情をWorkする」、徹底操作することが、今まではFreezeされていた感情が解けて、このギャップを現在。

[池尾弁護士]将来へつなげていくと。

[中久喜]つなげていくということですね。

[池尾弁護士]何が発展していくか分からない、したがって、期限を限定しないことに決めようと。

[中久喜]そういうことですね、はい。

[池尾弁護士]先生は、幸子さんの自殺念慮は面接のときに桜井医師の言動によって引き起こされたというふうに述べていますよね。

[中久喜]ええ。

[池尾弁護士]先生は当時、そのことを認識していらっしゃったんでしょうか。

[中久喜]それは幸子さんとの面接で知っておりました。

[池尾弁護士]モーニングワークでつらい気持ちを持ったとしても、それは過去の感情を振り返る作業なわけですから、それは避けて通れないことではないんですか。

[中久喜]それは非常に痛みを伴う感情体験ですね。

[池尾弁護士]先生は、桜井医師が恋愛感情を告白したとか、一貫しない態度だったとか、あと面接時間が長かったというふうなことをおっしゃっていて、先程も主尋問の中で、反治療的だった、不適切だったというふうに証言されましたよね。

[中久喜]はい。

[池尾弁護士]先生は、それほど不適切であるというふうに考えていらっしゃったのであれば、例えば面接を中断するとか、方法がよくないからやめさせなさいとか、そういうような指示を桜井医師にしたことはあるんですか。

[中久喜]私は彼のスーパーバイザーではありませんし、彼は独立した精神科医でありますし、私が何かせよってことはできないわけですね。ですから、桜井医師がやめるっていうんでしたら、それは構わないのです。私はその後の後始末はしますから、その覚悟でいたわけですね。だから、私が何かしなさいってことは言えない立場だったですね。

[池尾弁護士]そうすると、不適切ではあったけれども、ちょっと言葉は悪いですけど、ほっておいたということですか。

[中久喜]ほっといたというよりは、桜井医師の判断に任せたってことですね。

[池尾弁護士]甲A第1号証の1を示す
先生がモーニングワークについてお書きになっているところを拾っていきたいと思うんですけど、116頁は平成10年、98年5月16日ですけれども、真ん中のあたりに、Thって先生のことですよね。

[中久喜]はい。

[池尾弁護士]セラピストってことでしょうか。

[中久喜]はい、そうです。

[池尾弁護士]「Thとしては幸子とDr被告との関係を続けたいといった、自分もそう思う、関係は切らない方がよい」と言ったということが書いてありますよね。これは先生のことですよね。

[中久喜]はい、そうです。

[池尾弁護士]126頁は平成10年6月26日ですけれども、下のほう、彼とは桜井医師ですが、幸子さんが「彼にだかれたいというニーズはある」というふうに言ったのに対して、先生が、「それをいったらどうか」、「彼がどうであれ、この関係を続けて、あなたの心を賦活させよう」と書いてありますね。

[中久喜]はい。

[池尾弁護士]次に133頁、平成10年7月18日、「Dr桜井との関係はThがいない間切らないほうがよい」と書いてありますね。

[中久喜]はい。

[池尾弁護士]135頁、平成10年7月19日のカルテですけれども、ちょっと見にくいんですが、「関係を継続することの大切さ」、「それならとにかく」、ちょっと読めないですが、「待つこと、そのうち終結するチャンスが出てくるかもしれない」というふうにおっしゃってますね。

[中久喜]はい。

[池尾弁護士]185頁、平成11年2月21日ですけれども、括弧の中ですが、「昨日のジョイントセッションでDr桜井との関係を続けてするか、Thとしては、彼女は彼と人間的つながりがあるとすれば彼女に生命力を与えることのできる人であって、続けて恋人関係を求めるのでは彼は応じなられないと思う」というようなことが書いてありますよね。

[中久喜]はい。

[池尾弁護士]それから、先生がモーニングワークには意味があるというふうに彼女に説明しているところなんですけど、176頁、平成11年1月23日の話ですけれども、幸子さんが、「この1年、自分はむだにした」と言ったことに対して、「無駄ではなかったと思う、それなりに意味があった、幸子は変わった、幸子の自我の成長に貢献したと思う、こういうお互いに建設的な関係はできると思う」というふうにおっしゃっていますね。

[中久喜]はい。

[池尾弁護士]146頁、平成10年9月20日、一番下ですけど、「何でもいえるというのは幸子さんにとっては健康な関係、Dr桜井にもいいのではないか、Dr桜井も活気のある関係になってきた感じと言っている」と書いてありますね。

[中久喜]はい。

[池尾弁護士]180頁、平成11年2月6日、下のほうですけど、「Dr桜井に対する気持ち、セクシャルな気持ちを」、何とかで「表現すること」というふうにおっしゃっていますね。

[中久喜]「言葉で」ですね。

[I弁護士]213頁、これはセッションが終わった平成11年6月6日におっしゃってることなんですけれども、「現在あなたは人間の心を持つようになってきている、これをのりこえて始めて」何とかな「人間になる」と。

[中久喜]コンプリートですかね。初めてコンプリートな人間になる。つまり、まとまった人間になるってことですね。

[池尾弁護士]こういうふうなカルテの記載を見ていると、先生はこの当時、モーニングワークは有益であるし継続したほうがいいというふうに考えていて、それを幸子さんにも続けなさいというふうにおっしゃっていたんではないんですか。

[中久喜]そのとおりです。

[池尾弁護士]今見たように、先生は幸子さんに自分の感情を出しなさいと何度も何度もおっしゃっていますよね。

[中久喜]はい。

[池尾弁護士]感情を出すというのはどんな意味があるんですか。

[中久喜]幸子さんが抑うつ様態であっってことは、感情を抑圧していたためですね。ですから、それを表現して、それをプロセスして理解していくという、そのプロセスが大事だったわけですね。そのために感情を表現するようにというふうに私はしたわけです。

[池尾弁護士]このモーニングワークを通じて、幸子さんは感情を出せるようになったというふうに先生は理解されてますよね。

[中久喜]そのことはあったと思います。

[池尾弁護士]だから、このモーニングワークを通じて、幸子さんにはそれなりの進歩はあったというふうに考えていらっしゃったわけですよね。

[中久喜]それなりのポジティブなところはあったと思います。

[池尾弁護士]桜井医師は愛情という言葉を使った理由について、愛情という言葉を使わなければそのとき危機を乗り越えられなかったからだというふうに言っていることは先生もご存じだと思うんですけれども、それはご存じですよね。

[中久喜]それはファクスでそういう情報がたくさん入ってきたんですけども、それを桜井医師がそういう意図を持ってやったということは私は分かりませんでした。

[池尾弁護士]今回、桜井医師の陳述書は読んでないですか。

[中久喜]一応読んでます。ただ、彼が言ってるには、自殺をとめるためにこういう言葉を使ったんだというふうに、そういうふうにおっしゃってますね。

[池尾弁護士]先生は、自殺の危険性が極めて高くて、恋愛感情とか愛情とかという言葉を使わなければ納得しないというような、幸子さんのような患者さんがいらっしゃった場合に、これは愛情ではないと、それでもはっきり否定すべきだったというふうにお考えですか。

[中久喜]考えます。

[池尾弁護士]それはなぜですか。

[中久]こういう患者さんは治療者の非常に無意識の微妙な感情を敏感に感じ取るわけですね。ですから、それをカバーしてても読み取ってしまうわけですね。ですから、むしろはっきりして、明確にして、私もあなたを愛する気持ちはあるけれども実際にはそういう恋愛感情に入れないと、そういうことを明言して、それでその感情を整理すると、そういうことが一番大事だと思いますね。

[池尾弁護士]つまり、桜井医師に恋愛感情がなかったんだから、それをはっきり言うべきだったということですか。

[中久喜]あったわけです、恋愛感情が。

[池尾弁護士]だから、それをはっきり言うべきだったということですか。

[中久喜]そうです、そのとおりですね。

[池尾弁護士]その結果、患者さんを突き放してしまって、患者さんが自殺をしてしまったら、そうしたらどうしたらよろしいんですか。

[中久喜]そういう明言したときに、私にそれを報告してくれればいいわけですね。といいますのは、そういうプロセスのときに彼は結婚してるわけですよね。結婚して、でも彼女は自殺企図しなかったわけです。ちゃんとそれを受けとめて、怒りが出たわけですね。怒りが出て、彼の家族に脅迫の電話をしたりなんかしたわけですね。ですから、こういう脅迫の電話。

[池尾弁護士]家族に何の電話ですか。

[中久喜]家族に電話したわけです、脅迫の電話を。

[池尾弁護士]ちょっとそれは時期が違うんじゃないかと思うんですけど。桜井医師が結婚するというのが分かったのは平成9年11月で、セッションが終わったのは平成11年なので、全く時期がずれているんですけど。

[中久喜]時期が遅れたと思うんですけども、そこではっきり明言すれば、彼女は自殺企図よりは、むしろ怒りの感情にアクセスできたと思うんですね。

[池尾弁護士]でも、それは推測にすぎないですね。

[中久喜]私の面接の結果では、そういうふうに私は判断しました。

[池尾弁護士]そうすると、自殺の危険はあっても突き放すのはしょうがないというご判断ですか。

[中久喜]突き放すとか、恋愛感情はあるけれどもソーシャルに恋愛関係に入れないということをはっきりおっしゃって、そのときの気持ちの傷つき、それを取り上げてやっていくのが精神療法ですね。

[池尾弁護士]桜井医師はソーシャルに恋愛関係には入れないということは何度も言ってるんですけど。

[中久喜]ですから、そのときの傷つきですね、それを取り上げるのが、十分に取り上げなかったと思うんですね、それは。

[池尾弁護士]先生は幸子さんにレポートをすべて閲覧させていたんですよね。

[中久喜]はい。

[池尾弁護士]幸子さんから、内容にずれがあるとか、私が言いたかったのはこういうことじゃないというようなことを先生におっしゃったことはないですか。

[中久喜]桜井医師からの報告と幸子さんの感じた、それがずれがあるってことは時々おっしゃっておりました。

[池尾弁護士]先生と桜井医師が演技をして自分のことをだましているというふうなことで、そんなことをおっしゃったことはないですか。

[中久喜]いや、ありません。

[池尾弁護士]甲A第1号証の1を示す
75頁は平成9年、97年12月20日ですけれども、その真ん中くらいのところに、ややパニックの状況というようなことがあって、「2日前にはThとDr桜井が何か共謀して、Dr桜井に幸子をきるふりをさせていたのではないかと疑った」というふうに書いてあるんですけど、そういうようなことで幸子さんが、先生と桜井医師か共謀して自分をだましているんじゃないかというふうに言ったということはありますですね。

[中久喜]これによるとそうですね。

[池尾弁護士]今、先生は、桜井医師が結婚したということを伝えた後、幸子さんが安定していたというふうにおっしゃいましたよね。

[中久喜]はい。

[池尾弁護士]安定していたんですか。

[中久喜]非常にアプセットしましたですね。

[池尾弁護士]安定はしてなかったですよね。

[中久喜]安定しなくて、これを行動にあらわしたわけです。

[池尾弁護士]それで自殺の危険がかなり高くて、Qさんの陳述書を読むと、3時間、自殺をやめるように説得したというようなことが書いてありますけど、そういう状態だったんじゃないですか。

[中久喜]感情は非常に不安定だったと思いますね。

[池尾弁護士]桜井医師が結婚をしたということが彼女に伝わったのは平成9年11月というのはお分かりになっていますよね。

[中久喜]はい。

[池尾弁護士]危機のときに患者さんと電話で話したりするのは禁じられているんでしょうか。例えば先生と幸子さんでもいいし、桜井医師と幸子さんでもいいんですけど。

[中久喜]別に禁止されておりません。

[池尾弁護士]電話で世間話をしたりとかいうのも特に禁止はされていないですよね。

[中久喜]されておりません。

[池尾弁護士]プレゼントのお返しをしたり、はがきを出したりするというのはどうですか。

[中久喜]治療的状況によって、それは、そういうこともあり得ますですね。

[I弁護士]先生も実際にやられたことありますよね。

[中久喜]幸子さんが私にクリスマスプレゼントを、自分でお作りになったものを渡してくれたことはあります。私は出しませんでしたけど。

[池尾弁護士]先生がホワイトデーのお返しをしたことはないですか。

[中久喜]よく記憶にありません。

[池尾弁護士]甲A第1号証の1を示す
98頁、平成10年、98年3月14日ですけど、欄外のほうに、「今日WhiteValentinの返しをする チョコレート」と書いてありますよね。

[中久喜]ええ。

[池尾弁護士]これは先生がチョコレートを渡されたってことですよね。

[中久喜]そういうことになりますね。

[池尾弁護士]このセッションの期間中の幸子さんの状況についてですけど、モーニングワークの期間中、幸子さんは群馬大学の医学部に入る希望を持ってらっしゃっていて、先生が推薦状を書いたということもありますよね。

[N]あります。

[池尾弁護士]その中には、彼女の状態は安定していて、もうこれ以上、人格をさらに豊かなものにしようとして面接を続けているんですよというようなことが書かれてありますね。

[中久喜]書いてありますね。

[池尾弁護士]甲A第1号証の2を示す
136頁、幸子さんから中久喜先生に対してのはがきなんですけど、今まで代わりのきかない他者というのは私にはなかったというふうなことが書いてあって、「私ははじめてかわりのきかない他者をみつけたのです」というふうに書いてありますよね。

[中久喜]ええ。

[池尾弁護士]これは中久喜先生のことを指しているということでよろしいですか。

[中久喜]はい、そうですね。

[池尾弁護士]幸子さんはこの時期、恋愛関係だけではなくて、中久喜先生のような方に対しても信頼関係を持ちつつあったし、恋愛関係以外にも代わりのきかない第三者が存在し得るんだということを理解されていたということですよね。

[中久喜]治療関係が確立したってことですね。

[I弁護士]平成11年4月に、このモーニングワークが中断されていますよね。

[中久喜]はい。

[池尾弁護士]先生はこの当時、モーニングワークはいい方向に向かっていたというふうにお考えになってましたか。

[中久喜]当然、彼女は桜井医師が結婚したってことをご存じでしたし、それで非常に。

[池尾弁護士]11年4月のことです。幸子さんが桜井医師の家にファクスを送ったりとかして、そのことがきっかけでモーニングワークが中断になったときのことなんですけど、このとき先生は、モーニングワークはいい方向に向かっていたというふうにお考えですか。

[中久喜]それは中断された形ですね。

[池尾弁護士]中断された形なんですけど、中断されなければいい方向に向かっていたというふうにお考えになりますか。

[中久喜]それまでの桜井医師の対応から見ると、うまくいかなかったと思います、それ続けても。ですから、終結されて、かえってよかったと私は思いました。

[池尾弁護士]甲A第1号証の1を示す
246頁、平成11年11月なのでモーニングワークが中断されたかなり後ではあるんですけど、この下のほうの括弧の中、先生の書いてあるところ、これは幸子さんのことだと思うんですけど、「まだあの関係の中止を否認している、あの関係はpositiveにむかおうという時にこわれて」、その後、「negativeの面」がというのがちょっと読みづらいんですけど、この記載は、あの関係はこれからポジティブなほうに向かっていく途中だったのにということではないですか。

[中久喜]これからポジティブというのは建設的に向かうというときですよね。

[池尾弁護士]建設的になろうとしていたのに壊れたということですよね。

[中久喜]そうです。

[池尾弁護士]だから、先生はこのときには、このまま続けていけば建設的な方向に行ってたのにというふうにお考えになってたんじゃないですか。

[中久喜]そのポテンシャルがあったということですね。

[I弁護士]このモーニングワークが中断した後なんですけど、幸子さんは、留学とか、将来どうするかとかということについて、かなり具体的に考えていらっしゃいますよね。

[中久喜]そうですね。

[I弁護士]これは治療的には前進してるというふうに言えますよね。

[N]そう言えると思います。

[I弁護士]平成12年に入ると、幸子さんの状態は2月から3月くらいに悪くなったということですよね。

[N]そうです。

[池尾弁護士]Mさんと同居を始めたのが平成12年1月頃でよろしいですか。

[中久喜]はい。

[池尾弁護士]先生のカルテを見ると、幸子さんが結婚問題で悩んでいたというようなことがかなりたくさん書いてあるんですけれども、先生はその点についてはどうお考えですか。

[中久喜]それは私も認識しておりました。

[池尾弁護士]平成12年1月には、慶応大学病院に入院中に知り合った友人が自殺をされて、それでかなり精神的に動揺されたということもあったんではないですか。

[中久喜]ええ、それも知っております。

[池尾弁護士]また、群馬大への進学がだめになったりとか、音楽留学もプロにはなれないんじゃないかというようなことを言われて、かなり悩んでいらっしゃったということはないですか。

[中久喜]うん、それも知っております。

[池尾弁護士]こういう状態の中で先生は、平成12年3月に、幸子さんから頼まれて、桜井医師との関係を取り持っていらっしゃいますよね。

[中久喜]はい。

[I弁護士]先生はモーニングワーク時代の桜井医師の治療が不適切だったというふうなことを先程からおっしゃっていて、このときも幸子さんに対して、まだ危ないのではないかというふうに助言をされたというふうに言ってますよね。

[中久喜]はい。

[池尾弁護士]それなのに、なぜ桜井医師に仲介をしたかというのがよく分からないんですけど、もう一度説明していただけますか。

[中久喜]第1回目の治療再開と、そのときの関係再開、それは全く違った状況になったわけですね。

[池尾弁護士]どんなふうに。

[中久喜]彼女は桜井医師に対する転移感情を私との関係の中でワークスルーしまして、非常によい、転移に関してはよくなっていたわけです。それで、その時点で彼女は実家から離れておりまして、大阪に住んでますから、東京に友だちがたくさんいたわけですね。大阪でいなかったわけです。そういうサポートシステムが何もなかったわけですね。そういうことで非常に寂しい気持ちを持ってた。それから結婚の準備ってのも、これも大変なことですね。これは健康な人でも大変なことですね。そういうことでストレス状態にあったわけですね。それで、桜井医師の表面的なサポート、それでもいいから、そうすれば自分の心がまた賦活されると、そう考えたわけですね。私もそれを理解できたわけです。

[池尾弁護士]そうすると、このとき幸子さんの転移はもう解消していたということなんでしょうか。

[中久喜]十分に解消してたと考えました。

[I弁護士]このときはお茶飲み話をするという話だったわけですよね。

[中久喜]はい、そうです。

[池尾弁護士]桜井医師との関係を再開したことによって、幸子さんの状態はどうなりましたか。

[中久喜]予想したとおり、よくなりましたですね。4月は大分よくなっております。

[池尾弁護士]大阪で聴講生の可能性を探ったりとか、いろいろと積極的なことをされてますよね。

[中久喜]はい。

[池尾弁護士]その後、4月下旬から5月上旬にかけて、また状態が悪化しているんですけども、その原因は何なんでしょうか。

[中久喜]それが、そういうストレスが続いたってこともあるし、それから、桜井医師とのコミュニケーション、それがだんだん頻繁になってきて、それで、内容は私はよく分からないんですけども、友人としてコミットしてくれるかどうかってことが何か大変な中心的な話題になったようですね、桜井医師が自分に対して。

[池尾弁護士]5月1日のことですが、幸子さんはこのとき、5月1日の自殺未遂について、桜井医師とは直接関係ないというふうに先生の陳述書に書かれているんですけど。

[中久喜]はい。

[池尾弁護士]甲A第2号証を示す
正確にはそうではなくて、30枚目、題名、「今回の顛末(なんともはや)」と書いてある幸子さんのファクスは、5月1日の後に先生に送られてきたファクスなんでしょうかね。ファクス配信サービスで5月2日と書いてあります。

[中久喜]そうなりますね。

[池尾弁護士]ここには、上から4行目ですけど、「今回の自殺未遂ははっきり言って全く彼(桜井Dr)に関係がない」というふうに書いてありますね。

[中久喜]はい。5月1日の企図ですね、それは。

[池尾弁護士]次に先生は、甲A2の38頁なんですが、上のほうに672というふうに書いてあって、平成12年5月2日付、9時47分の中久喜先生御机下と書いてある、桜井医師から中久喜先生に対するファクスなんですけど、先生は、幸子さんが5月1日に自殺未遂をされた翌日、このファクスを幸子さんに転送されてますよね。

[中久喜]はい。

[I弁護士]事前に桜井医師と話はしていますか。

[中久喜]しておりません。桜井医師はこのことは知ってると思う。全部桜井医師から来たファクスは幸子さんに自動的に流すってことは知っていたと思います。

[池尾弁護士]じゃあ、全くこれは事前に話はされていないんですね。

[中久喜]はい。

[池尾弁護士]Mさんの陳述書によると、5月2日は午前中は大変調子がよかったのに、この転送されてきたファクスを見て、がらりと表情が変わったというふうにお書きになっているんです。それは先生はご存じですか。

[中久喜]後から知りました。

[池尾弁護士]先生は、このファクスを転送すべきではなかったというふうにはお考えにはなりませんか。

[中久喜]そうは思いません。

[池尾弁護士]それはなぜですか。

[中久喜]幸子さんは何が起こってるかということを全部知る権利がありましたし、知ったほうが治療によいと思ったからです。

[池尾弁護士]危険かどうか考えなかったということですか。

[中久喜]危険だとは思いませんでした。

[池尾弁護士]危険だと思わなかった理由は何ですか。

[中久喜]といいますのは、その頃、週1回、私は面接しておりましたし、5月1日の電話での話ではそういう危険性は全く感じませんでした。

[池尾弁護士]先生は幸子さんに対して、友人としてコミットしないのはおかしいというふうにおっしゃったというふうに書いてありますよね。

[中久喜]はい、書いてあります。

[池尾弁護士]友人としてコミットしないのはおかしいというのはどういう意味なんですか。

[中久喜]つまり、友だちであればそれなりの約束といいますか、信頼関係といいますか、それがあるはずですね。それをコミットしてくれないということを言われたらしいんですね、桜井医師から。それで非常に彼女はがっかりしたようなんですね。

[池尾弁護士]桜井医師には友人としてコミットする義務があると考えたわけですか。

[中久喜]義務というよりは、これだけの関係があったらには友人関係を続けて、ただお茶飲み話をする程度のことだったらしてもいいんじゃないかと、そういう考えですね。

[池尾弁護士]先生は当日5月2日5時45分頃、幸子さんと話されてますよね。

[中久喜]はい。

[池尾弁護士]このときは特に自殺の危険は感じられなかったですか。

[中久喜]全く感じませんでした。

[池尾弁護士]幸子さんはどんな感じでしたか。

[中久喜]幸子さんは、今まで桜井医師とお話をしていましたとおっしゃってましたね。それで、桜井医師が友人としてコミットしてくれないので困っていますとおっしゃってましたね。

[池尾弁護士]ただ、その話をしてる幸子さんの状態は、別に危険が迫ってる様子でもなかったと。

[中久喜]全く感じませんでした。

[池尾弁護士]先生は、今回の幸子さんの自殺原因について、桜井医師との電話での会話が引き金になった可能性が大きいというふうにおっしゃってますよね。

[中久喜]はい。

[池尾弁護士]桜井医師は、この最後の電話の内容について、毎週水曜日に2時間、友人として話をしてくれというふうに要求されて、治療者としてであればいいけど友人としてはできないというふうに答えた、それで、5月7日にまた電話をしましょうと言って電話を置いたというふうに言ってるんですけど、このやりとりが自殺の引き金になったということなんですか。

[中久喜]そうではなくて、それ以外のことですね。

[池尾弁護士]どんなことですか。

[中久喜]それは分かりません、どういうことか。そういうことがたくさんあるんです。

[池尾弁護士]例えば、挙げていただけますか。

[中久喜]つまり、友人としてコミットしてくれないとか、そういうことですね。

[池尾弁護士]ただ、友人としてコミットしてくれと言って、先生に電話をかけてきたときは危険な感じは全くなかったんですよね。

[中久喜5月1日にはなかったですね。5月2日の電話でもそういうの。ですから、私が提案しましたのは、それではもう一度桜井医師と交渉したらどうですかってことでしたね。ゴールデンウイークの後にそうお話をしたらどうでしょうってことをお話しして、彼女はそれを理解しまして、非常にリラックスして、そうですねというふうに。

[池尾弁護士]全く危険はなかったわけですよね。

[中久喜]そうです。それはMさんはそばにおりましたから、Mさんの証言でも分かると思います。

[池尾弁護士]前日の5月1日の自殺未遂では、婚約者の方が床屋に行ってたとか、WさんとQさんという友人から拒絶されたというのがきっかけだというふうなことが、桜井医師の話とかMさんの陳述書に出たりもするんですけど、このとき幸子さんからすれば、些細なことでも何でも自殺のきっかけになるような状態ではなかったですか。

[中久喜]そういう非常にストレスな状況でしたから、非常に敏感な状態ではありましたですね。

[池尾弁護士]ただ、何が原因だったのか、何がきっかけだったのかというのは、先生はもう推測されるしかないですよね。そういうことになっちゃいますよね。

[中久喜]そのとおりですね。

被告代理人(古谷弁護士)
先生は先程、主尋問で、その患者さんを場合によっては入院させることもあるというふうに言われましたですよね。

[中久喜]うん。

[古谷弁護士]ただ、先生のお考えとしては、日本において入院治療そのものについては消極的なんじゃないですか。

[中久喜]そのとおりです。

[古谷弁護士]甲B第3号証を示す
5頁、「5 私が幸子さんを入院させなかったことについて」と。「当時の日本の精神医療は、現在もそうですが、そういう医療チームを持った精神病院は、日本には私の知る限りありませんでした。」とお書きになってるんで、日本の当時、今もかもしれませんけど、幸子さんのような病気をケアする入院治療の病院はないという認識だったわけですか。

[中久喜]例えばさっき出しました飛鳥病院ですね、そういうところでは薬漬けにするだけなんですね。ですから、そこではもうほんの短期間で退院しましたですね。

[古谷弁護士]乙A第7号証を示す
47頁は桜井医師から中久喜先生への手紙ですけど、この真ん中頃に、「母上が本人に私が結婚したことを話してしまったと本人はいうのですが」というくだりがあって「(母上も最初に「私が失言をしてしまって」と言っておられました)」というくだりがあるんですよね。

[中久喜]ええ。

[古谷弁護士]その意味では、この手紙自体は平成9年11月13日ですけれども、モーニングワークが始まった頃に幸子さんが桜井医師が結婚したということを知ったんですよね。それは分かりますよね。

[中久喜]モーニングワークが始まったのは。

[古谷弁護士]平成9年11月12日です。

[中久喜]そうすると、すぐですね。

[古谷弁護士]桜井医師の結婚を幸子さんが知ったときに、先生の先程のお話ですと、これをきちっと受けとめて、よくなったというようなことを主尋問でおっしゃいませんでしたか。

[中久喜]受けとめて、それで非常にアプセットして、怒りの感情が出たわけです。

[古谷弁護士]自殺の危険性というのはなかったですか。

[中久喜]なかったです。

[古谷弁護士]今の乙A7号証の47頁の上、「本日午後」「幸子さんのお母様から電話があり、(もう病院には行かないと言っているー死ぬとほのめかしているようなものなので母親はあわてた?)」という記載もあるんですが、そういったことは本当になかったんですかね。

[中久喜]こういうことはしょっちゅうありましたですね、幸子さんの状態というのは不安定でしたから。

[古谷弁護士]甲B第9号証を示す
Qさんの陳述書ですけど、さっきお示しした平成9年11月13日の前日、つまり11月12日が最初のモーニングワークだったんですけど、このときのことを言われていて、13頁の真ん中から始まるんですけど、16という項目の3行目、「セッションが始まってから、面接や電話の後で幸子さんの具合が悪くなったり自殺の危険性が高まるような状況が頻発し始めた。」という記載があって、それから数行下に、「11月12日のカルテです。このカルテによれば、「先生(被告)の態度が違う」「先生(被告)は死なない限りはあなたを診ますと言ったではないか、昔のことを話すと言うことは今の関係がないと言うことではないか」と幸子さんが桜井医師を問い詰めています。また、お母さんが幸子さんに桜井医師が「結婚した」ということ話した、と記されています。」と、「同日の深夜、幸子さんから電話がかかってきました。」という記載の数行下に「幸子さんは危機的な状況にある時の電話はいつもそのように始まりました。」という記載があるんです。次の14頁の上から7行目、「このとき私は、桜井医師と幸子さんの関係がどのようなものだったかをもう一度きちんと認識する必要がある、という点を強調し続け、幸子さんが今後のことに目を向けるような話し方をして、自殺を思いとどまる方法で話を進めました。このような会話を続け、3時間ほど経過して、結局幸子さんは自殺を思いとどまり、帰宅しました。」と。やっぱり結婚ということを聞かれて、本当に自殺をしそうになったんではないんでしょうかね。分かりませんか。

[中久喜]結婚をする、あるいは準備をするってことは非常にストレスなことはだれでも体験することですよね。

[古谷弁護士]結婚の準備じゃなくて、桜井医師が結婚したということを幸子さんがこのとき知って自殺しそうになったということをQさんが書かれてると思うんですけど、さっき先生は、幸子さんは桜井医師が結婚したことを知っても、それを受けとめて、何か安定したかのような主張をされたので、そうではないんじゃないですかということでお聞きしてるんですけど。

[中久喜]その直後は確かに彼女は非常に情緒不安定になりますね。ただ、それを乗り越えて、その気持ちを行動にあらわしたわけですね。

[古谷弁護士]乙A第7号証を示す
82頁、双方向に恋愛感情はあるという記載がありますよね。

[中久喜]ええ。

[古谷弁護士]先生は、これは幸子さんが桜井医師は恋愛転移をしていて、桜井医師がその逆転移をしているということだというふうに説明されませんでしたか。

[中久喜]ええ、そうです。双方向というのはそういう意味ですね。

[古谷弁護士]これが心底真実だというふうに言われた、その理由をもう一度言ってくれませんか。なぜこれが真実だと言えるんですか。

[中久喜]こう書かれてあるからには、これを真実と認めるほかしょうがないですね。書かれてあるわけですから。

[古谷弁護士]理由は何か幸子さんから聞いているというようなことをおっしゃいませんでしかたか。そうではないですか。ここに書かれてあるから真実だというふうに思われたということですか。

[中久喜]そうですね。

[古谷弁護士]ただ、一方で、先程何か、桜井医師に聞いてみないと分からないがということもおっしゃいましたよね。

[中久喜]はい。

[古谷弁護士]当時、そのことを桜井医師に聞いてみたことはありますか。

[中久喜]聞いてません。こういうことは幸子さんから聞いておりましたから、推測がついておりました。

[古谷弁護士]幸子さんから聞いていたというのは、結局、桜井医師とのやりとりのそのままを聞いてたということですよね。

[中久喜]そういうことですね。

[古谷弁護士]そのやりとりそのままは桜井医師がちゃんと書きとめて、そのまま先生に送ってたから、だから要するに、幸子さんが言っているということはここに書かれてるのと同じことだということだけですよね。

[中久喜]患者さんが感じたことというのは、我々は治療では非常に大事にするわけですね。ですから、感じたことが一番大事なわけです。これを感じたわけですね。桜井医師もこういうことを書いておられるわけでしょう。結局それを患者さんに伝えているわけです。

[古谷弁護士]甲A第2号証を示す
25頁、平成12年3月、桜井医師に幸子さんとの再セッションということについて仲介をとられたということですよね。

[中久喜]はい。

[古谷弁護士]3月31日、桜井医師から中久喜先生に来たファクスが、今の甲A2号証の右上に642と書いてある。前略から数えて9行目ぐらい、あるいは8行目ぐらい、「彼女から伺う先生のスケジュールより大分ましとは言え、定期的に週1回の時間を作るのは困難そうです。」という記載があります。つまり、桜井医師としては、それは友人として話をするということは拒絶はしませんでしたけど、定期的にこのように接触したり連絡するということは初めから無理だということを先生に伝えてたんじゃないですか。

[中久喜]そういうファクスはもらいましたですね。

[古谷弁護士]当時の幸子さんについて、いろんな悩みがあって不安定な状態だったというふうに、そういう面もあったと思うんですけど。

[中久喜]そうですね。

[古谷弁護士]その中で、先生は幸子さんの主治医でしたですよね。

[中久喜]ええ。

[古谷弁護士]幸子さんと桜井医師との間で友人というようなやりとりをすることについて、やっぱり先生がちゃんと間に入って、その中身がどうなのかということをきちっとチェックをするという責任はあったとは思いませんか。

[中久喜]幸子さんが提案されたことはお茶飲み話ってことなんですね。雑話的な会話ですね。そういうことであれば、それで幸子さんがサポートされれば、それはいいと思ったわけですね。ですから、前回の関係再開のときは全く状況が違っていたわけです。

原告代理人(池原弁護士)
先生は、一般的には日本の精神医療で入院治療には消極的だろいうお考えだということですが、これは、自殺の危険性がかなり目前に迫っているとか緊急的な入院が必要であるというときにも入院をさせないという、そういう立場をおっしゃっているんですか。

[中久喜]そういうことではありません。

[池原弁護士]危機介入が必要なときには、当然入院ということも考えられるということでよろしいわけですね。

[中久喜]当然そうですね。

[池原弁護士]平成11年4月に、結局、桜井医師とのセッションというのは突然中止になってしまったわけですけれども、こうした事態のときに桜井医師のほうから、もうこれで終わりにするので先生のほうでフォローしてくれないと自殺の危険があるかもしれませんとかいうような警告はなかったでしょうか。

[中久喜]治療は終結しましたという連絡はありました。

[池原弁護士]ということは、事後的な報告という。

[中久喜]自殺云々のことは何もおっしゃっていなかったです。

[池原弁護士]そこから考えると、桜井医師が終始幸子さんの自殺を心配して発言を、欺瞞的なといいますか、虚偽の、真意でない発言をしていたとは必ずしも言えないということになりますか。

[中久喜]と思います。

[池原弁護士]桜井医師は結局恋愛感情はなかったというふうに反対尋問でおっしゃいましたでしょうか。

[中久喜]言いません。

[池原弁護士]中久喜先生のご理解としては、桜井医師も幸子さんに恋愛感情を持っていたという認識でよろしいわけですか。

[中久喜]そうです、お互いに恋愛感情を持っていたということですね。

裁判官(裁判官・小川)
医師が患者に逆転移を起こしてしまった場合には、一般的にはどういう対応をとるべきなんでしょうか。

[中久喜]一般的には、その医師は、第三者、つまりコンサルタントとかスーパーバイザーに相談して、気持ちを整理するということが当然のことと記載されております。

[裁判官・小川]あなたとしては、桜井医師からのファクスで、平成9年11月あたりから、もう逆転移を起こしてるのではないかと思われたことはよろしいですよね。

[中久喜]はい、そのとおりですね。

[裁判官・小川]そのときに、あなたのほうから桜井医師に対して何か指導等をするように考えられなかったのでしょうか。

[中久喜]その後も桜井医師とは電話でコンタクトしたりして、現実的なアドバイスはしておりました。それはカルテに書いてあると思います。

[裁判官・小川]逆に桜井医師のほうからあなたに対して、ファクス以外で何かやりとりとかはありませんでしたか。

[中久喜]時々ありました。

[裁判官・小川]それは特に幸子さんには伝えてないということですか。

[中久喜]私の面接の中でそれは伝えました。

[裁判官・小川]平成12年3月に桜井医師と幸子さんの、友人としてということでしょうか、やりとりが再開されたことなんですが、このとき証人としては、桜井医師がどのような立場で幸子さんと接しなければならないと考えていたのでしょうか。

[中久喜]週に1遍、世間話をすると、そういうことが幸子さんの要請でしたので、そのとおりにすればよろしかったと思います。

[裁判官・小川]それは、被告は医師としてかかわるべきと考えておられたのか、医師ではなく、医師としての立場を離れた友人としてかかわるようにということを求められたのでしょうか。

[中久喜]友人としてです。それは桜井医師もご存じだったと思います。

[裁判官・小川]このときのやりとりについても、被告から証人のほうに連絡があったことはすべて幸子さんに伝えるということは、事前に被告にお話しされていたということですか。

[中久喜]もし連絡があれば全部伝えるってことは私の基本方針ですから、幸子さんはそれはご存じだったと思います。

[裁判官・小川]被告はご存じでしたか。

[中久喜]被告もそのことは、私は情報入れればすぐご両親にも本人にも伝えるという方針でおりましたから、当然知っていたと思います。

[裁判官・小川]一般的な方針としてそのようであったから、当然知っていただろうというお考えですね。

[中久喜]はい。

裁判官(裁判官・坂庭)
先生は今回、今日ここにいらっしゃるまでの間に、慶応大学病院でのカルテというのはごらんになっているんでしょうか。

[中久喜]厚いカルテですけども、大体リビューしました。

[裁判官・坂庭]主尋問の中で、境界性人格障害の患者さんに対して自由連想法で頻繁に面接をすることはよくないというふうにおっしゃっていたかと思うんですけれども、慶応大学病院に入院していた時点で既に境界性人格障害だという診断ができたという前提でのご発言だったんでしょうか。

[中久喜]ええ、そうです。そのとおりです。

[裁判官・坂庭]具体的には、いつ頃にはそういう診断ができたというふうにお考えでしょうか。

[中久喜]慶応学病院に入院して、その診断がつけられたと思います。

[裁判官・坂庭]平成7年3月に入院してると思いますので、その時点では既にもう分かっていたはずだということになりますか。

[中久喜]慶応大学病院に入院しますと、大体アセスメントとして、インテークの面接がありまして、それで診断を決めるわけですね。大学病院ですと、大体診断はそこで確立されるわけです。こういう経歴があると、境界例というのはもうはっきり明確になるわけですね、診断が。

[裁判官・坂庭]仮定的な話になりますけれども、もしこれが境界性人格障害だという診断ができていなかったという場合には、一般論として、先程おっしゃった自由連想法で複数回、頻繁に面接をすることの適否というのは、結論は変わってくるんでしょうか。例えば、うつ状態であるという程度の診断しかできていなかったような場合。

[中久喜]うつ状態にしても、入院を必要とする患者さんの場合には、週4回の自由連想法はよくないと思います。治療的によくないと思いました。

[裁判官・坂庭]先程、医師が逆転移を生じた場合にはスーパーバイズなどを受けて、その気持ちを整理するべきだというふうにおっしゃいましたけれども、整理するというのは、具体的にはどういう心理状態に至ればいいということなんでしょうか。簡単にお話ししていただけますでしょうか。

[中久喜]つまり、セラピスト、治療者のほうでいろんな、いらいら感とか、怒りとか、傷つきとか、そういう感情があった場合にはそれを、治療と同じだと思うんですけども、スーパーバイザーにお話しして、その気持ちを理解するということですかね。そういうことを言っております。

[裁判官・坂庭]自分自身を客観視するというようなことになるんですか。

[中久喜]それも含めてですね。

[裁判官・坂庭]そうしますと、整理がつけば治療に継続的に携わること自体は問題がないということになると。

[中久喜]スーパービューを受けながらやれれば問題ないと思います。

[裁判官・坂庭]整理がもしつかないようであれば、もう治療からは外れるべきだというふうにお考えですか。

[中久喜]終結すべきだと思います。

[裁判官・坂庭]平成9年以降のことについてですけれども、モーニングワークということについて、そもそも今回のモーニングワークというのは何をする、何が目的の治療だったんでしょうか。

[中久喜]つまり、幸子さんの頭の中では桜井医師は恋人だったわけですね。ですから、恋人を失うってことは、これはモーニングになる、喪失体験ですね。治療の終結ってことは、モーニングワーク含めて言ってるわけです。

[裁判官・坂庭]そうしますと、モーニングワークに臨むに際して、まず患者としてはどういう状態が目標なんでしょうか。それはあきらめるということなんでしょうか。

[中久喜]あきらめることも含めてですね。あきらめた後起こる感情ですね。それはモーニングの感情というんですが、喪失体験、喪失感情ですね。それを表現して解決していく、心の整理をしていくってことですね。

[裁判官・坂庭]逆に治療者の側としては、モーニングワークをするに際して気をつけなければいけない点というのはあるんでしょうか。

[中久喜]治療者としては、終結作業に当たって、今までの治療体験をリビューしまして、どういうことが達成されたか、どういうことがまだ達成されてないか、そういう喪失に当たっての気持ち、それを聞いてあげるってことが一番大事なことですね。

[裁判官・坂庭]治療者自身の心情を吐露するということは、モーニングワークをするに当たっては、いいことなんでしょうか、悪いことなんでしょうか。

[中久喜]全くいけないことですね。

[裁判官・坂庭]
そうしましたら、ファクスでのやりとり、ファクスに書かれた感情が本物かどうかというのは争われているようですけど、仮にそういう感情があったとしても、それは患者さんに伝えるべきではないということになるんですか。

[中久喜]ないですね。

[裁判官・坂庭]先程、主尋問の中で、モーニングワークをするに当たって何でも自由に隠さず話したほうがいいというようなお話も少し出てきたかと思うんですけども、必ずしも治療者としては何でも話すというのではなく、隠すべき事柄もあるという。

[中久喜]当然あります。

[裁判官・坂庭]そのことは、治療者が逆転移を整理できてるか、できてないかですとかといったあたりは関係するような事柄になってくるんでしょうか。

[中久喜]そう思います、はい。

[裁判官・坂庭]例えば、逆転移を治療者が整理できていた場合に、整理して自分を客観視して、かつてはこんなふうに思っていたけれども、そういう気持ちとは既に折り合いをつけているんだというような状況に仮に治療者があったとしましたら、そのことは患者に対して話すべきなんでしょうか、話さないねきなんでしょうか。

[N]それは話さないほうがいいと思います。

[裁判官・坂庭]今回、平成9年11月以降の桜井医師の対応を見てみますと、それが真意であったかどうかはともかく、ご自身の感情を伝えるという行為を幸子さんにしているわけだと思いますけど、それは全く不適切なものであったという評価を先生はされるということになるんでしょうか。

[中久喜]治療者としては不適切だったと思います。

[裁判官・坂庭]その場合、不適切な行為について、桜井医師に対して、それは不適切ではないかと言ったりですとか、あるいは幸子さんに対して、もう桜井医師とのセッションはやめたほうがいいのではないかというふうにアドバイスをしたりといったことはあったんでしょうか。

[中久喜]不適切な場合には、私は直接幸子さんには申し上げました。

[裁判官・坂庭]
幸子さんご本人に対して、桜井医師とのセッションは不適切なものであるというふうに先生がおっしゃったということですか。

[中久喜]例えば2回目の関係再開のときに、幸子さんは再開したいとおっしゃったんですけども、それはもう一度再考したほうがいいと、かなり厳しく申し上げたわけですね。

[裁判官・坂庭]最終的には中止していないわけですよね。3回目以降もセッションがあったわけです。これはどういった事情があるんでしょうか。

[中久喜]その後のセッションですね、幸子さんが私にその真意をもっと深く話してくださったわけですね。それでその真意が分かったわけです。幸子さんの凍結された心をほぐすためには、桜井医師との表面的なサポーティブな関係、深い関係ではなくてサポーティブな関係があればいいんではないかと考えて、それを桜井医師に伝えたわけですね。

[裁判官・坂庭]そうしますと、桜井医師とのセッションの目的が途中から変わったということになりますか。

[中久喜]そうなります。

[裁判官・坂庭]モーニングワークということとフリーズされた感情を解かすということはどう違うんでしょうか。間単に教えてください。

[中久喜]モーニングワークは、対象が愛情を向けられた対象ですね、それを失うことですね。それがモーニングワーク。それから、当時、凍結された感情、非常にストレスが多い状態だったですから、彼女の心はフリーズされていたわけですね。それを解かすという、桜井医師だけが自分の心を動かして賦活させてくれると、そうおっしゃっていたわけですから、そういう意味で、表面的なサポーティブな関係ならいいと私は考えたわけです。

[裁判官・坂庭]凍結されていた感情というのは、間単に言えないのかもしれませんけど、具体的にはどういう感情ですか。例えば、幸子さんとしては桜井医師に対して恋愛感情あるいは恋愛性の転移を持っていたということですけど、それは凍結されていた感情に含まれるんでしょうか、含まれないんでしょうか。

[中久喜]彼女が言うには、この関係は、恋愛関係とか親子関係とか、あるいは治療者関係とか、そういうものとは全く違う、もっと深いものがあって、つながりがあるってことをおっしゃってたですね。それは桜井医師も感じられておられるようで、何か得体の知れないつながりの感情があるとおっしゃったわけで、これはとても治療的には大事なことですね。ですから、それが、つながりがまた再体験されれば心の凍結が解除されると、そう私は考えたわけ。

[裁判官・坂庭]凍結されていた感情を解かすことというのは、鎮静化していた恋愛性転移を再燃させることとは別のことになるんでしょうか。

[中久喜]別のことです。

[裁判官・坂庭]その違いを簡単にご説明いただけますか。

[中久喜]あの時点では、幸子さんは恋愛感情はもうなかったわけですね。ただ気持ちが動かなくなってしまったって、そういうことをおっしゃっていたわけです。ですから、凍結された感情というのは恋愛性転移とは関係がないわけです。もっと深いところの関係、感情ですね。

[裁判官・坂庭]平成9年11月の時点で、もう既に幸子さんは恋愛性の転移は解消していたといいますか、折り合いをつけられる状態になっていたということなんでしょうか。

[中久喜]はい、そうです。

[裁判官・坂庭]その後また、平成9年11月以降、桜井医師とセッションを重ねていくに従って、幸子さんは恋愛性転移を再燃させたんでしょうか。先生のご判断ですと。

[中久喜]その5月初旬、4月末から5月初旬にかけて、それが多少賦活されたと考えざるを得ませんね。

[裁判官・坂庭]平成11年の4月、5月でしょうか。

[中久喜]そうですね。

[裁判官・坂庭]今のあたりなんですけれども、例えば桜井医師とのセッションの目的が変わってきたというようなお話を今いただきましたけど、そのことは桜井医師にはお伝えしてるんでしょうか。当初はモーニングワークのためにセッションをしようとしていたけれども、後にフリーズされた感情を解かすことも目的に入ってきたようですけど。

[中久喜]それは伝えております。桜井医師ご自身にも、幸子さんと電話で話をしまして、それは解決されたと。転移感情を解決されたと、そう判断されて。明確に判断されてるわけですね。関係性は変わったというふうに彼は見ていたわけです。

[裁判官・坂庭]先生ご自身は、平成9年11月から平成11年4月あたりまでのファクスのやりとりを見まして、幸子さんにつきましては平成11年4月頃、恋愛性の転移の再燃があったとおっしゃいましたけど、桜井医師自身についてはどうなんでしょうか。逆転移というのが整理されてないまま残っているというように見られていたのか、そうではなかったのか。

[中久喜]それは桜井医師からファクスがありませんでしたから、情報を得ないという、そういう条件でやっていきましたから、それは分かりません。

[裁判官・坂庭]桜井医師から先生に送られていたファクスだけからは、桜井医師が逆転移を起こしていたかどうかというのは判断できないということになりますか。

[中久喜]その情報はなかったですね。

[裁判官・坂庭]今私が申し上げましたのは幸子さんが最終的に自殺される直近のやりとりではなく、その前の、平成9年11月から幸子さんが桜井医師の奥様に対して脅迫電話をかけたりしてセッションが打ち切られるまでの間のことについてお伺いしたいんですけど、その間の事柄、その間の時期について、桜井医師は逆転移を起こしていたかどうかについては、ファクスだけからは判断できないということになりますか。

[中久喜]分かりませんね。

[裁判官・坂庭]幸子さんが最終的に自殺される直近のことですけれども、5月1日に1度自殺企図をされまして、その後にお話しされたと先程おっしゃいましたけど、5月1日の直前に幸子さんと連絡をとられたのはいつ頃になりますでしょうか。

[中久喜]5月1日は直前でなく、5月1日その日ですね。その日の夕方。

[裁判官・坂庭]その前、前回、幸子さんと直接なり電話で連絡をとられたのはいつ頃になりますか。

[中久喜]それは記憶にありません、いつしたかはですね。

[裁判官・坂庭]カルテを見ますと、4月の後半、22日頃にお会いしてるようなんですけど、その後に電話で連絡をとられたようなご記憶はありますか。

[中久喜]その前の面接では、ちょっとカルテを見ないと分かりませんけれども、そういう自殺の傾向、念慮といますか、そういうものはなかったと思います。

[裁判官・坂庭]そうしますと、5月1日に自殺を企図されたというのは先生にとっても唐突なことだったということなんでしょうか。

[N]そうですね。

[裁判官・坂庭]その後、幸子さんと電話でお話をされて、幸子さんがどういう心情で自殺を企図したかということは、先生はご理解されたんでしょうか。

[中久喜]それは、幸子さんは5月2日にファクスを送ってこられまして、その時点で、いろんなことがあったってことをお話しして、伝えてくださいました。

[裁判官・坂庭]5月1日に幸子さんとお電話でお話をした段階では、幸子さんがどういう理由で5月1日に自殺未遂をされたのかということについては、先生自身は把握されていなかったと。

[中久喜]その時点では間単に病院に行って治療を受けなさいと言っただけで、その件についてはその次の日に、5月2日にお話ししましょうってことで電話を切ったわけですね。

[裁判官・S]2日の時点では先生は、幸子さんの5月1日の自殺企図が幸子さんのどういう心情に基づくものであるというふうに理解されていたんでしょうか。

[中久喜]時間が短くて、そこまでお話しできなかったわけですね。

[裁判官・S]そうしますと、5月1日に行った幸子さんの自殺未遂の原因となっていたような事情が果たして解消されていたかどうかということは、先生は5月2日に電話で幸子さんとお話しされた時点では分からなかったということになるんでしょうか、それとも、それは解消されていたというふうに判断されたということですか。

[中久喜]その5月2日の電話の会話では、15分という非常に短時間だったですけども、彼女の心の状態としてはリラックスされていたようで、うつの状態とは感じませんでしたですね。

[裁判官・坂庭]お話では、切迫した状態ではないという程度のご理解だったということになりますか。

[中久喜]はい、そのとおり。

[裁判官・S]5月2日に幸子さんからファクスを送られてきたかと思いますけれども、一番傷ついたのは最後のメールですというようなことをその中に書かれているかと思いますけれども、それをお読みになられて、幸子さんは何に傷ついたというふうに先生はご理解された、あるいは今ご理解されているんでしょうか。

[中久喜]幸子さんがちょっと漏らしたんですけれども、桜井医師のメールが遅かったってことをおっしゃってましたですね。

[裁判官・坂庭]メールの内容ではなく、メールの時期というふうにご理解されたんですか。

[中久喜]ええ。

[裁判官・坂庭]甲A第2号証を示す
右肩に656と書いてあります、2000年5月2日11時44分、題名、「今回の顛末(何ともはや)」と書かれているファクスですけど、冒頭のところに、先程私が申し上げましたとおり、「最後のメールに私は非常に傷付きました。(今もその状態が続いています。)」と書かれているかと思います。7頁、一番最後のところを見てみますと、桜井医師からのメールが引用されてまして、「ご主人からご連絡をいただきました。とても残念です。わたしは当分あなたに近づかない方がよいと思います。また、十分に余裕があったらばご連絡を下さい。」と。恐らくこれが最後のメールということになるかと思うんですけれども、当分近づかないほうがよいと思いますと、十分に余裕があったらばご連絡下さいというふうに書かれていまして、幸子さんの冒頭の部分と照らし合わせると、この近づかないほうがよいと思いますというメールを受け取ったことに傷ついているのかなというふうに私はちょっと考えたんですけど、先生ご自身はそうは判断されなかったということでしょうか。単純にメールの時期が問題だということになりましょうか。

[中久喜]こういうことはしょっちゅう、このようなメッセージ、桜井医師との関係の中で起こってきたことなんですね。近づけたり近づかなかったり、その関係の反復なんで、別にそんなに大きいイベントでなかったと私は考えますですね。

原告代理人(池原弁護士)
乙B第8号証を示す
先程の逆転移のファクスの評価の問題なんですけど、この末尾の時系列の表で、平成9年、つまり1997年2月7日から中久喜先生の治療が始まっていますね。

[中久喜]はい。

[池原弁護士]その年の11月12日から桜井医師の並行診察というのが始まりますよね。

[中久喜]はい。

[池原弁護士]実線がずっと、「桜井医師併行治療期間」というのが平成11念4月4日まで続いているんですけれど、この間に、先程主尋問でお示ししたさまざまなファクスが先生のところに報告という形で来ているわけですね。

[中久喜]はい。

[池原弁護士]それが1つと、もう1つは平成12年になって3月の終わり頃から4月の部分に一点鎖線で「桜井医師と電話等での連絡」というところがありますね。

[中久喜]はい。

[池原弁護士]つまり、中久喜先生の治療下での桜井医師との接触関係というのは、大きく分けて2つの時期ということでよろしいですね。

[中久喜]そうですね。

[池原弁護士]実線で「桜井医師併行診察期間(済世会中央病院)」と書かれているときに送られてきてる報告のファクスは、それをもとにして桜井医師が逆転移に落ち込んでいたということは断定できないというふうに先程、裁判官の質問でお答えになったのでしょうか。

[中久喜]いえ、ファクスをずっともらっておりましたから、そのときは把握しておりました。

[池原弁護士]逆転移だというふうに判断されたということですね。

[中久喜]はい、そうです。

[池原弁護士]逆転移かどうかが分からなかったというのは、むしろ。

[中久喜]お茶飲み話ですね。

[池原弁護士]平成12年になってからの2回目の桜井医師との接触のときに、桜井医師が逆転移に基づいて再開に応じたのかどうかということは判断できないという理解でよろしいですか。

[中久喜]そうです。

被告代理人(池尾弁護士)甲A第1号証の1を示す
先生は先程、治療者のほうが個人的な感情を出してはいけないというふうなことをおっしゃられたと思うんですけど、187頁、前の頁を見ると平成11年、99年2月28日に、先生と幸子さんと桜井医師とのジョイントミーティングのときの話だと思うんですけど、結論としていうところが@からCまでありますよね。その中で、まず幸子さんは自分の気持ちを言葉で表現する、ロマンチックな感情も怒りの感情もと書いてあって、その下に、桜井医師は個人的にそれに反応する、具体的にというふうな記載がありますよね。

[中久喜]はい。

[池尾弁護士]つまり、治療者の側もこのときには個人的な感情を出しなさいという設定でやっていたということではないんですか。

[池尾弁護士]治療的な範囲内でですね。

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