境界性人格障害患者の家族への対応
境界性人格障害の場合、家族への適切な対応が極めて重要です。以下、市橋医師、狩野・高野・山岡医師、成田医師、明橋医師による論文から抜粋します。全体を要約すると、大体次のようになるかと思います。
1、「生活史了解的」と呼ばれる、「患者の語る真実の話」だけにもとづいて治療を行えば、治療は失敗する。
2、治療者は、家族の構成員すべてを支持する。
3、治療者は、家族に対して、患者への対処法や病理に関する教示、治療の見通しなどについて説明するとともに、その労をねぎらいながら、精神面でのサポートを行う。
4、そのために治療者は、家族面接を実施する。
5、患者への接し方について悩む両親には、適切な対処の仕方を教示する。
6、母親には自責の念を緩和するように働きかけ、父親には世代の境界を確立するように促し、家族内部での心理的境界を確立することを目指す。
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市橋秀夫(1998):「4.パーソナリティ障害−境界性人格障害の治療技法−」『精神科治療学』Vol.13増刊号:精神科治療技法ガイドライン、星和書店、1998年5月29日発行、105-110頁
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<109頁より>
患者の語る生育史生活史はしばしば患者自身の幻想によって修飾されているので、治療者は知らぬ間に「患者の語る真実の話」に巻き込まれ、家族との関係を悪化させてしまうことに注意しなければならない。[中略]しかし、初心者では患者と同盟して親を攻撃するような精神療法をすることが少なくないのである。病因を母親や父親に求めるような犯人探しは早晩激しい家庭内暴力を呼び起こすか、家族が治療を妨害するような結果に終わるだろう。そういう意味で生活史了解的な精神療法は失敗する。
家族も十分に現在の子供の問題で苦しんでいる。むしろ必要なのは家族がどう対応したらよいかを具体的に指示し、どう病理を理解したよいかを教えることであろう。
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狩野力八郎・高野晶・山岡昌之編著:『日常診療でみる人格障害 分類・診断・治療とその対応』三輪書店、2004年2月15日第一刷
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<71頁より>
一般医療における家族へのアプローチ
1)家族全体を支持する
2)家族の誰か1人に肩入れしない
3)問題を家族の誰かのせいにしない
4)治療目標・計画・経過・結果の説明は本人だけでなく、少なくとも両親同席で行う
5)母親の労をねぎらう
6)父親の立場を支持し立てる
7)家族のよい部分を発見し褒める
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成田善弘(2001):「境界人格障害への援助」『精神科治療学』第16巻第4号、2001年4月、413-417頁。
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<417頁より>
家族への援助
家族は混乱し疲れていて、将来への見通しを失っていることが多い。そういう家族に対してまず境界例とはどういうものかを説明する。よく見られる症状や行動をあげ、それらが普通の意味での「わがまま」や「なまけ」ではなく広義の病気であること、青年期に激しい混乱を示すが30代に入るとすこしずつ安定することが多いこと、それ以前にも治療によって改善する見込みはあること、心配なことは自殺であることなどを説明する。
次に家族特に母親が自責的になっていることが多いので、それを和らげる。境界例の原因は母子関係や親の養育の仕方が関与はしているが、ほかにも生物学的要因、社会文化的状況など多くの要因もかかわっているので、決して親だけの責任ではないことを説明する。
多くの親は子どもにどう接すればよいのか、どうしてやったらよいのかと対応の仕方を相談してくる。親の気持ち(善意)からすることが結果的に患者をいらだたせたり怒らせたりしていることがよくあるので、何かをしてやろうとするより、まず患者に安心していられる場所と時間を作ってやって欲しいと伝える。親の介入は、そうしたら患者がどうなったかという結果から評価すべきで、親の気持ちからだけ評価しないようにと告げる。つまり親が善意でしたことでも、それによって患者の状態が悪くなったのなら、そうしたことは少なくともその時点では不適切だったのである。
治療者のこういう介入は、結局患者と家族の心理的境界を確立してゆくことにつながる。境界例の家族の中では一人ひとりの心理的境界が不鮮明になっている。患者は家族からのさまざまな投影の受け皿となって、患者自身として扱われていないことがある。たとえば夫の性格に悩む母親が患者である息子の中に夫をみて、不安を抱いたり悲観したりする。あるいは親が子ども(患者)の中に自分の一部をみて、自分の気持ちを子どもの気持ちだと思いこんでしまう。こういうことは親の話の中での主語の不明確や混乱、子どもについての親の推測と子どもの実際の言動との混同などにあらわれてくるので、それらに親の注意を促す。
父親に対しては、まず世代の境界を確立し、夫婦のつながりを強化してもらうように働きかける。子どもに直接かかわってもらうよりも、まず母親を異性のパートナーとして見直し、ときには外での食事に連れ出してもらうのがよいと伝える。漠然と育児への協力を求めると、下手をすると母親を二人作ることになり、患者にとってますます負担になることもある。父親に登場してもらうにはタイミングが重要である。患者を母親との二者関係的な結びつきから解放し、より広い世界へつれ出すことができるような、そういうタイミングで登場してもらうことが必要である。
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明橋大二「境界性人格障害治療における問題行動への対応 −境界性人格障害患者の行動化への対応」『精神科治療学』第19巻第7号(2004年7月)、831-835頁
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<835頁より>
家族が行動化に適切に対応してゆくことも、治療のためには重要である。そのためには、家族面接は必須である。家族に患者の病理を伝え、治療のためにはどうしても通らねばならないこと、そして適切な対処の方法を伝えておく。そして家族の労をねぎらい、それだけ苦労した分、患者は確実によい方に向かっていると、その苦労にも意味があることを伝える。そして、治療は長期戦であり、適度に休むことも必要であること、あせらず、たゆまず、あきらめず、という気持ちが大切であることを伝える。
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