宇宙生成論序説
 

                清水愛一


       
          空間は便宜的な解釈である  リ-マン
 

     §
      
   二十世紀的宇宙生成 はた 幻響の<自閉>     
          
              §

   うを座よりカ−ヴ描いて主の怒り
   
          わたしのPerspectiveが幾何学的遠近法と空気遠近
          法のうえに成立せざるを得ないとするならば、あれ
          は二十世紀的〈自閉〉を解体させる牙を捏造しつづ
          けねばならないはずなのに、只、脹らみつづけ、
          Visionとしてひとつの美しい王国のうちに炸裂して
          しまおうとする。制作と生成。宇宙は、二項の間を
          揺れ動く。触覚宇宙が疼く。 
         
     §
   
        浮かびあがる   
    〈屍体訛〉  
     の
   
        Dona eis requiem

     §
 

       玄室へ舌重ければ粘りつく

  死体置場こそが宇宙の姿であったと断定するドクサ
          の中にこそ〈詩の原郷〉を拉到する可能性が潜むの
          であり、天国とは、煉国とは、地獄とは、すなわち
          浮遊する死体置場の別名に過ぎない、と言ってのけ
          るレトリックの深海にあれは凛と佇っている。深海
          へと舌が泳いでゆく。ただそれだけのために膨らみ
          つづけねばならない宇宙もある。深宇宙よ。
   De morte transire ad vitam.

     §
    
   ひとりひとりが揮発してゆく 
   奇潭 
     
   溶けよ

     §

     『石』の 『石』のかたちで誰何する

   実のところ、F・PONGEの語る『石』の来歴から上手
   に詩を聞き取る余裕に欠けていたと很みつつも、し
          かし、『石』が出歩いていた時代のその歓声を懐に  
     隠しながら青空を渡ってゆく術はひそかに会得され
     ているのだ、と嘯く〈ゴルジ体〉の矜持はじつに苦
          しい。『石』全体がひとつのCELLでありづけるため
          に『石』は純粋に思考せねばならない。
          小宇宙と呼ばれる汚名を拭い去るために。

      §

   石 へのまなざし   
   石 との余白    

      離魂譚

     §

   自画像とは 母国を幽閉するあそび

  母国という愚かしい限定のなかにわたしの母音は、
  わたしの子音は幽閉されつづけていると言うか。廃
  王たちが封印された〈塔〉のなかでは、夢魔が鼻の
  ひん曲がりそうな悪臭を放ちながら廃王の肉を溶か
  し、汚してゆく。廃王の母音は、廃王の子音はその
         ときひとつの塊となり、霊となり、反逆因子を炸裂
         させうるか。鞭が響くと初期設定値としての悲鳴が
         挙がり、詩という畸形が産み落とされる。くる。
  Ad te omnis caro veniet.

      §

   まだぬかりなく
  Cogito群   

   ゆびさきは冷えている
 
     §

   『∞』それが美的信仰である分泌惑星  

  一対一対応で『∞』を確定する、という言説を愛撫
  している死体姦常習男の喉許に、ナイフを滑らせて
  ゆく美神の嫉妬は、おそらく非宇宙という〈異郷の
  陥穽〉を知らぬこの分泌惑星の廃嫡子という位格に
  由来する。『∞』それは時に、神の別名であったは
        ずだ。 
  Dona eis requiem.

     §
  
     Chaocosmosの
     生成において
      
     存在深度
               §
  
   火がわたしであった日々の Dies irae

  Dies irae,dies illa,
  Solvet saeclum in favilla.
 

      §

   〈笑いまくる脳〉その臨界ぷかぷかの 傾眠や    
         
          遠近法においてわれわれはひとつの事実に遭遇するの
          だという信仰は確かにひとつの巨峰を形成しえた。そ
          れこそがをこぎとを甘やかす根源的錯誤であったと揶
          揄しえたとしても、しかし、それはあくまで透視図法
          の領域においてのことであり、空気遠近法の只中では、
          すべての人物は消去されるという事実はまた別の問題
          系を孕んでいることを看過すべきではない。空気遠近
          法,それは触覚的領域に重なる。
 

              §
   中心へ   
   ゲノム幽閉の
   傾斜角
   Solvet saeclum in favilla

     §

   みぃんなでこぎと舐めれば血のおぼろ
 

  触覚宇宙よ、熱宇宙よ、嗅覚宇宙よ、音響宇宙よ、
  血の味に相当しうる生理的食塩水に〈原初の海〉を
  夢想する荒技をゲノムは忘却しているから、鞭打て、 
  と、Semenは「沈黙の海」に放たれ、それぞれの宇宙
         はくねりながらこぎとを舐めまわすというか。詩は
         胡乱にして、残虐。その球面呼吸は、遠い。  
  Hosanna in excelsis.

      §

   Oro supplex
   球面呼吸の<Cogito>よ 

       笑うか 笑へ  
 
      §

   宇宙卵爆ぜてこぎとにいたる 病

   創世のメカニズムが宇宙に内在する「力」によるも
         のなのか、外部の「力」が創りあげたものであるの
     か、 宇宙形成における根源的問いかけがそこにあ
         るのであるが、しかし、そこではわれわれの遠近法
         は実に非力である。「詩」に進化はありうるか。            
  
     §
  
       
   PLEIADES 傾くねむりの暝かな訛

     §
       
   閉じて 塔 ふわり廃王〈精液〉の乱

       『The Genesis』とはつまるところ球体の傲りであ
    った。球体は球体そのものの重みで内部崩壊して
         ゆかねばならないように、存在は存在そのものの
         重みで内部崩壊してゆかねばならない、と云う強
         迫観念こそが源郷には巣食っている。
         みずからの重力によって何時の日にか内部崩壊を
      起こし、収縮してゆかねばならない。そこに「詩」
         の倫理が屹立している。
          Solvet saeclum in favilla.
  
               §
    Eve

    わが脳髄のせめたりぃ
       まひるの二重螺旋

      §

    爆心をモ−ゼの杖が縊れてる
 
         ヘブライにおける唯一神の発見は <宇宙の外部>の発
         見であり、あるPerspectiveによる独裁成立を促すも
         のであった。それは同時に宇宙の外部性=(∞)とい
         う意匠の成立であり、Visionはひとつの啓示として
         現出せねばならないことを強要するものでもあった。
         啓示とは詩をその根源で支えるものであるという黙
         契が取り結ばれ、言葉は始源性へと遡及しうるとす
         る時空が捏造された。悲劇はそこにある。  
          Hostias et precs tibi,Domine,laudis offerimus.

             §
        
    人の魂曳いて一夜のひとで狩り

       Cosmosが元来、<うつくしく装飾された秩序 >を意
          味する概念であったことについて再考してみる。い
          ったい誰によって<装飾された秩序>なのか、と。ま
          ずはそこからだ。少なくともCosmos概念成立の文脈
          のなかにはゲマトリア45の影響を見出すことは不
          可能である以上、Hellenの思考に潜むHellen独自の
     創造主の幻影を読み取るべきなのであろうか、と。
          
          §
  
    僧侶曳きずり無限遠点の泉へ 
    Principia Mathematica

    疼く

       §

        くゆりたつMOCHAのかおりの倫理学
          結局のところ、人類の歴史は「絶対的信念」渇仰
          の歴史であり、旅であったとしても、われわれの
          言語がそれを確定しうるほどの強度を持ち得ない
          事実のみがわれわれを驚愕させるのであり、詩は
          そのとき、たしかに貶められ、その地位を剥奪さ
          れるのであるが、しかし、宇宙生成からこの一点
          に至る宇宙の来歴がまったくの空虚なものであっ
          たと言いうるほどわれわれをとりまく環境は不確
          かな感覚与件に曝されているのではあるまい、と
          する信念は救いでもある。
          そこから、『The Genesis』の物語が生まれ、詩の
          鼓動が響きはじめる。
           
              §

       始源へ
  
       くずれゆく球面呼吸の
       HOSANNA

           §

      火を搦め舌はと−てむ踊るかな
          
            『宇宙生成論』におけるPerspectiveの問題とは、
            つまるところ、ヒト科の脳にかかわる問題である、
            と断定するのは早急すぎるとしても、Perspective
            の相違は偏差に過ぎないはずなのでもある。われ
            われの言語はわれわれの思考とともに太陽系第三
            惑星的であり、地上的なのであり、それが宇宙的
            思考法の標準であるのか否か、を知るすべはない
            としても、『宇宙生成論』とは宇宙的思考法の標
            準へのたゆまぬ接近の試みであったはずでもある。
            その接近の試みにヒト科の脳の滑稽な傲慢を読み
            取るのは、しかし、淋しすぎないか。われわれの
            舌はあくまでDNAの産物であり、その連鎖上で踊
            りつづけてゆくのだ。
            宇宙制作への斥力と宇宙生成の間のひとつの偏差
            として。
            詩は漂う。         
 
               §

               §
   〈宇宙論〉
         このさびしすぎる鞭毛のENERGY 折れる